第10話

また、イビキが大きくなった。


 鼻詰まりの音がし、息が吸われ、一瞬呼吸が止まってから息が吐かれる。


 能面のようなマモルくんの顔が迫ってくる。



 え? どうして起こさずに一緒に轢いたのかって? 

 助手席で寝ている、超わがままで自分勝手、変態の元夫のイビキの音が大きくて、いらいらして判断を誤ったんです。

 マモルくんだっていらいらしますよね? 

 常に冷静ではいられませんよね? 



 え? あなたも飲んでいないか、って? 

 マモルくんの白さより頬が赤かったら、飲酒運転を疑うのですか? 

 そしたらウチナンチュは皆、疑わしいですよね。



 え? 変な薬は飲んでいないかって? 

 私の職業は薬剤師です。

 薬の服用については誰よりも気をつかっています。



 アクセルから足を離し、スピードを緩めて左へハンドルを切る。


 もちろん、マモルくんを轢くなんてことはできない。


 薬剤師の仕事は適職だと思っているし、何より私には麗奈がいる。かわいいかわいい娘が。

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