第2話 青木和也 『サクラダ アイ』


 学校からの帰り道、ふと、誰かに見られている気がした。


 僕は弱視だ。視力がほとんどない。しかし、誰かに凝視されると気づくものだ。視線の先をたどれば、誰かがアパート一階からこちらを見ていた。誰だろう。近づいてみると、女の子が窓際に立っていた。僕は思いきって話しかけた。


「えっと、何か用?」

「青木くんだよね。青木和也くん。こんなところでどうしたの?」

 彼女はいきなり僕の名前を呼んだ。

「ええと、誰だっけ」

 彼女は僕の名前を知っていた。でも僕は彼女が思い出せない。初めて聞く声だった。


「同じクラスのサクラダ アイだよ」

「ええと、さくらだ、サクラダ……あいさん?」

「そうだよ。確かにあまり話したことはないけれど、私のことを覚えていないの? 嘘、信じられない」

「いや、ああ。サクラダ アイさんね。知ってるよ」

 適当に言い繕う。この状況で知らないとは言えなかった。


「その白い杖、どうしたの?」

 彼女は僕の手元をじっと見つめていた。

「どうしたって、きみも同じ学校の生徒だろう?」

 彼女は同級生なのか。誰かと間違えているんじゃないか。


 彼女はこのアパートで兄と二人暮らしだと話してくれた。彼女の様子から、彼女――さくらだ あいさんが僕の同級生なのは間違いないようだ。帰ったらクラス名簿を確認しよう。そう思いながら、白杖を持ちなおし、ゆっくりと足を踏み出した。

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