藍は碧より出でてAIより愛し

来夢創雫

第1話  桜田藍  『兄と私』

 ガチャリとアパートの鍵が開く。兄が仕事から帰って来たようだ。


「お兄ちゃん、おかえり」

「ただいま、あい


 私、桜田藍は現在一七歳。両親は私が二歳の頃、交通事故で亡くなった。私と兄はしばらく施設で育ったが、兄が就職したのを機に私を引き取り、現在は二人で暮らしている。

 

 兄、桜田碧さくらだ あおはよく昔の話をする。

 私が産まれた時は嬉しかったけれど、お母さんを取られた気持ちになったとか、ハイハイのスピードが速かったとか、初めて歩いた時は家族で拍手したとか。いたずら盛りになると、兄のランドセルを開けて教科書をぐしゃぐしゃにしたこと。家族で出かけた先の動物園で食べたアイスが美味しかったこと。  

 兄は覚えている限りの話を何度もしてくれた。私はその話を聞くのが好きだった。



「藍、学校はどうだった?」

「授業以外は楽しかったよ」

「おいおい、それじゃダメだろ」

 兄は笑いながら私の話を聞いた。


 翌朝。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい。気を付けてな」

 私達は互いのおでこをくっつけた。いつからだろう。私達のどちらかが外に出かけるとき、こうやっておでこをくっつけるのは。外で事故にあわないようにというおまじないらしい。両親が亡くなった時、まだ十歳そこそこだった兄はどんなに辛く不安だったのか。 

 もう二度と家族を失いたくないと願う兄の気持ちが、私にはよくわかる。


 私はいつも兄よりも先に家を出るので、毎朝この儀式をして学校に向かっている。

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