第2話
「石締さん、噂聞きました?」
小太郎は、クラスの中でも1,2を争うほどの実力者でクラスの親分的存在だ。
「何の噂だ?」
小太郎が聞き返すと、子分が答えた。
「草原の丘でイレギュラーモンスターが出たらしいっすよ」
その言葉を聞いて小太郎は心臓が跳ねるのを感じた。
草原の丘はダンジョン学園の中でも難易度は最下級、初心者向けのダンジョンだ。
小太郎としても、一人で遊び半分に潜っているような簡単なダンジョンだ。
「イレギュラーモンスターだと?」
「そうなんすよ。オレっちが職員室の前で盗み聞きした話だと、人型のモンスターだったらしいっすよ」
「人型のモンスター……?」
小太郎はその言葉に、眉を潜めた。
「やばいっすよね。人型モンスターってめちゃめちゃ強いやつじゃないっすか。教師陣も見失うくらいだったらしいっすよ」
つわ者揃いである教師陣ですら、見失うほどのモンスター。その強さに子分は興奮気味だった。
「……そんなモンスターが草原の丘に?」
「はいっす。しかも、そのモンスター……夜見霊斗の声を出したらしいっすよ」
夜見霊斗。その名前を聞いて、小太郎は先程よりも大きく心臓が跳ねたのを感じた。
夜見霊斗は小太郎のクラスメイトであり、一週間ほど前にダンジョン内で死体で発見された。
「夜見霊斗が死んだのも、草原の丘だったって話っすからね。夜見霊斗の幽霊が化けて出てるんじゃないかなんて噂になってるっすよ」
子分は笑いながらそう言った。
ダンジョンが存在するこの世界でも、幽霊の存在など発見されていない。夜見霊斗の幽霊なんてものは存在しないと笑ったのだ。
しかし、小太郎は笑えなかった。笑えない理由があったのだ。
「……声って言ったな。何って言ってたんだ? そのモンスター」
「気になるんすか? うーん、なんだったかな……そうだ! 復習をしないと! って言ってたらしいっすよ。死んでまで勉強なんて笑っちまいますよね」
夜見霊斗はその能力故に、クラスでも悪い意味で浮いた存在だった。
なにせ、ユニークスキルが発動しないのだ。
ユニークスキルとは、ダンジョンに初めて入った時に得られるスキルで、ダンジョン探索における非常に強力な武器となるものだ。
例えば、小太郎であれば、【剣技】というユニークスキルを得ていて、そのスキルを使うことで剣の腕前が格段に上がる。
モンスターと戦う上で必須とも呼べるユニークスキル。
しかし、夜見霊斗はそのスキルを上手く発動することができなかった。
ダンジョン探索者になるために学校に通う生徒として、それは致命的だった。
ユニークスキルを上手く使えない夜見霊斗をダンジョンに誘うものなどほぼいない。
足手まとい。それがクラスにおける夜見霊斗のほぼ全員の共通認識だった。
そして、小太郎はとある理由から夜見霊斗の事を忌み嫌っていた。だから……
「ばっか! お前、復習じゃなくてそれ復讐だろ! 死んでまで勉強するやつがどこにいるんだよ」
「あ、そっかぁ!」
もう一人の子分が指摘して、子分たちの間で笑いが起こった。
釣られるように笑いをあわせる小太郎だったが、その笑いは引きつったものだった。
小太郎はクラスで1,2を争う実力者だ。そして、いつも1番を争っているのは、
佐奈は強力なユニークスキル【魔術】を持っており、そのスキルを使いこなすことで、遠距離ならば小太郎を上回るほどの実力者だ。
そして、佐奈はなによりも見た目がいい。
アイドルかと思われるほどの見た目に、さらに性格も良いときた。クラス中の男子が佐奈に惚れていたと言っても過言ではない。
小太郎としても、例外ではなく佐奈を何度となく自分のパーティに誘った。目的はもちろんチャンスを増やすためだ。
しかし、佐奈はその誘いを断り続けていた。
「ごめんね。私、霊斗くんとパーティ組んでるから」
あの夜見霊斗である。
どうやら、夜見霊斗と結城佐奈は幼馴染の関係らしく、2人でパーティを組んでダンジョンに潜っていた。
だからこそ、夜見霊斗はクラスでも浮いた存在だったし、小太郎は夜見霊斗を忌み嫌っていた。嫉妬と言ってもいいだろう。
そして、夜見霊斗が死に一部の男子生徒たちは佐奈を慰め始めた。もちろん、チャンスを伺うためだ。
傷心の隙をついてなんとか、近づけないかと画策していたのだ。
そして、小太郎のパーティはついに佐奈を誘うことに成功した。
「一回だけだからね」
佐奈はそう言って、お試しで小太郎のパーティに参加することになった。
向かう先は下級ダンジョンの1つだった。もちろん、草原の丘は封鎖されているためそれ以外のダンジョンだ。
「行ったぞ!」
小太郎のパーティは順調に探索を続けていた。佐奈の支援も的確で心強い。
やはり、佐奈は俺と組むべきだったんだと小太郎は確信した。今日の探索が終わったら、少し強引にでも話を進めてしまおう。
そんな時だった。
「石締さん! なんか近づいてくるっす!」
ユニークスキル【探知】を持つ子分が叫んだ。
探知は近くのモンスターなどを発見できる非常に便利なスキルだ。
「どこだ!」
小太郎は即座に剣を構える。どうせ、ここは下級のダンジョンだ。どんなやつであろうと敵ではない。
しかし、そのモンスターの姿を見た途端、小太郎は凍りついた。
「……ひ、人型!? イレギュラーモンスターだ!」
人型のモンスターが現れた。しかも、そのモンスターは黒いローブを羽織り、顔には仮面をつけている。その姿はまさに死神といったようだった。
噂に聞いたイレギュラーモンスターに間違いない。
「お、落ち着け!」
教師たちからすら逃げ出したイレギュラーモンスター。実力者ではあるものの、学生の小太郎たちには勝ち目はない。
すぐにそう判断した小太郎。
「逃げるぞ!」
すぐさま叫び、走りだそうとしたその時だった。
「足が! 動かない!」
足が動かなかった。
「お、おい! 待て! 置いていくな!」
子分たちが逃げていく、しかし、その声は聞こえていないかのように誰も振り返らない。
そして、小太郎は一人残された。
「……」
死神は取り残された小太郎へゆっくりと近づいてくる。
「くそっ! 来るな!」
小太郎は動く腕で剣を必死で振り回す。
しかし、死神にその剣が当たることはなかった。
「なっ!」
剣は死神をすり抜けたのだ。思わず、小太郎は剣を取り落としてしまった。
「……を……」
小太郎はその時、初めて死神が何かを言っている事に気がついた。
「……復讐を……石締小太郎に死を……」
それは、夜見霊斗の声だった。
「悪かった! 俺が! お前にモンスターを押し付けた俺が悪かったんだ! 許してくれ!」
咄嗟に小太郎は叫んだ。
しかし、死神はその言葉を聞き入れることはなかった。
手に持った鎌を大きく振り上げて……
「石締小太郎に死を……」
その鎌を振り下ろした。
小太郎は眼の前が真っ白になった。
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