ダンジョン学園の死神さん
猫月九日
第1話
教え子である
教師である
「夜遊びしているのかしら?」
寮母からその連絡を受けた時、百音はそう思った。
霊斗は、17歳の高校生。遊びたい盛りだ。多少の夜遊びくらいはあってもいいだろう。
寮母としても、そのくらいのことはわかっているようで、あくまでも担任の百音に連絡を取ったようだった。
しかし、次の日事態は一変する。
霊斗の死体が、ダンジョン内で発見された。
ダンジョン学園に数ある固有ダンジョン、その中で、霊斗は死んでいた。
ダンジョン探索中の事故。霊斗は探索者としての実力はそう高くなく、クラスでも下から数えた方が早いくらいだ。
学園内において、探索中の事故は珍しいことではない。
無謀な生徒が、見誤って分不相応なダンジョンに入り、そのまま帰らぬ人となるのは、数年に1度のペースではある。
しかし、
「草原の丘……?」
霊斗が死んだダンジョンは、草原の丘と呼ばれるダンジョン。
その名前の通り、草原が広がるダンジョンでその難易度は最下級。
出てくるモンスターも、スライムやゴブリン、角ウサギなど、初心者向けのモンスターばかりだ。
いくら実力の低い霊斗だとしても、1年学園で生活していて、一定の実力は身についているはず。モンスターにやられることはない。
それに、霊斗の遺体の様子が異様だった。
霊斗の死体は丘にあるちょっとした洞穴で発見された。それ自体は別に変なことではない。
モンスターなどに追われて逃げ込んだのかもしれないし、ちょっとした休憩をするために入ったのかもしれない。
本当におかしいのは、霊斗の遺体そのものだった。
霊斗の遺体には、傷が1つもなかったのだった。血の一滴も流れることはなく、ただ、眠るように死んでいた。
「まるで作り物みたい」
その遺体を見た時、百音はそう呟いてしまった。そのくらい綺麗な遺体だった。
職業柄、遺体を見ることはそれなりにあった百音にとっても、その遺体の綺麗さは異様だった。
「死因はなんなんですか?」
遺体を検査している保健医に尋ねた。
「瘴気中毒ですね」
ダンジョン内には瘴気と呼ばれる人体にとって有毒なガスが常時漂っている。
その瘴気を大量に吸い込むことで、人の身体は徐々に蝕まれていき、最終的に死に至る。
初心者向けの草原の丘でも当然瘴気は漂っている。長時間いたら体調を崩すことだってあるだろう。
しかし、
「えっ? でも、草原の丘の瘴気量って、最低レベルですよね?」
初心者向けというのは伊達じゃない。瘴気量も最低レベルだ。
「ですね、あの程度の量では一ヶ月程度潜り続けていないと死に至らないかと」
もっとも、個人差はあるけれど、と保健医は付け加えた。
霊斗は昨日の放課後にあったホームルームには出席している。それは百音がその目で確認した。
そうして、次の日には遺体となって発見された。
「1日で瘴気中毒になるなんて……」
これは個人差だろうか? いや、流石にそれほどまでに耐性が低いなどとは考えづらい。
そういうことであればもっと早くに起こっていたはずだ。
そうなると、考えられるのは1つだけ。
「イレギュラーモンスターかもしれません」
ダンジョン内には基本的に決まったモンスターが生息している。
例えば、草原の丘であれば出現するモンスターは、スライムやゴブリンなど、それもおおよその生息域も決まっている。
しかし、時折、その決まったモンスターとは違うモンスターが出現することがある。
イレギュラーモンスターと呼ばれるそのモンスターは、そのダンジョンの難易度とは関係なく、突如出現する。
ダンジョン内での事故も多くはそのイレギュラーモンスターの出現に関連している。
生徒にとってはまさに死神とも呼べる存在だろう。
そんなモンスターが、初心者向けの草原の丘に出現したかもしれない。
その可能性をすぐに理事長である
「すぐに草原の丘を封鎖。調査を始めなさい」
次の日には調査隊を結成し、草原の丘へ向かった。その中には担任である百音も含まれていた。
ダンジョン学園の教師陣はほとんどが、元学園の生徒でありそれなりに優秀な成績で卒業した者ばかりだ。
草原の丘に出現するモンスターなど敵ではなく、1週間ほど調査をしたものの、何も発見できず。
おそらく、イレギュラーモンスターなど出現していない。そんな楽観的な雰囲気が教師陣の中に漂っていた。
そんなある日のことだった。
「あれは……!」
探索者の女性教師が声をあげた。
驚きの声のその先には、人影があった。
「……イレギュラーモンスターだ! 最悪だ! 人型だ!」
即座にリーダーが叫び、全員が武器を構えた。
これまでの楽観的な雰囲気は吹き飛んでいた。
人型のモンスターは、モンスターの中でも最も危険な存在だ。それはこの場にいる誰もがわかっていた。
さらにその人型モンスターの姿はおかしかった。
黒いローブを羽織り、顔には仮面をつけている。
さらに、その手には大型の鎌を持っていた。
「まるで、死神だな……あんなモンスター見たことがないぞ」
リーダーがの額から冷や汗が落ちた。
緊張感が高まる中、人型モンスターはその場に立ち尽くしたままだ。
警戒しながら攻撃のためにモンスターに近づく探索班。
「……何か聞こえる?」
そんな時、百音の耳に何かが聞こえてきた。
「くそっ、人の言葉まで話しやがるのか」
百音は気がついた。人型のモンスターが何かを喋っている。
何を話しているか聞き取ろうとして、
「そんな……まさか……」
百音は愕然とした。聞き取れた言葉、その声に。
次の瞬間、人型モンスターは消えていた。
「どこへ行った! 探すぞ!」
リーダーが叫び、全員であたりを見回す。
そんな中、百音は呆然としたままだった。
「あれは夜見霊斗の声だった……」
人型モンスターが発していた声、それは死んだはずの夜見霊斗の声だった。
さらにその内容は、
「……に……復讐を……」
寒気がした。
復讐? いったい誰に?
いったいあのモンスターはなんだったのか。
教師たち全員でモンスターを探したものの、それはついに発見されることはなかった。
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見切り発車の書いたところ投稿ですが、今日中に投稿終わる予定です。
短編3話分の予定です。
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