第3話

 幼馴染である夜見 霊斗よるみ れいとが死んだ。

 その知らせを受けた結城 佐奈ゆうき さなは、意味がわからず首をかしげた。

 幼馴染である霊斗の死を受け入れられなかったのか? いや、違う。


「それじゃあ、あんたは誰なのよ?」


 佐奈はその知らせを伝えてきた人物に尋ねた。


「僕? 僕は霊斗だけど?」


 そう、夜見霊斗の死を伝えた人物。それは死んだはずの夜見霊斗だったのだ。



「いやー、まいったよ。草原の丘でクラスメイトに会ったと思ったらさ、その後ろから見たことのないモンスターがやってきてさ。気がついたらこの状態だよ」


 霊斗はそう言いながら笑った。


「……つまり霊斗はイレギュラーモンスターを押し付けられたってこと?」


 話を聞いた佐奈はそう理解した。


「うーん、どうなんだろ? 悪意があったのかは知らんけどさ」


 霊斗はそう言うが、佐奈は確信をしていた。

 なにせ、その押し付けてきたというクラスメイトは石締小太郎なのだ。

 実力があるからと威張り散らし、他者に迷惑をかける。クラスの女子たちからは嫌われていた。


 そして、佐奈はその小太郎に何度もパーティに誘われていた。もちろん、佐奈はその誘いを断り続けている。

 忌み嫌っている人間と一緒のパーティとか死んでもごめんだ。

 というか、それ以前に自分は霊斗とパーティを組んでいることは知っているはず。その霊斗を無視してパーティに誘うとか、あり得ない。


「……霊斗、どうする?」


「どうするって?」


 佐奈は怒っていた。事実はどうあれ、石締のせいで霊斗は死んだのだ。

 教室内では清楚で優しいキャラで通している佐奈だが、実際は短気で荒っぽい性格だ。猫を被っているだけの猛獣と言っていい。


「ママに話せば石締を追放することもできると思う」


 佐奈の母親である弘恵はダンジョン学園の理事長をしている。その力を使えば、石締を追放することも簡単だろう。


「いや、それはちょっと……」


 しかし、霊斗はそれに難色を示した。

 石締に気を使ったのか? いや、そうではない。単純に佐奈に権力を使わせるのを嫌がっただけだ。

 それに、


「やっぱり自分の力で復讐しないとね。この力を試してみたいしね」


 霊斗は楽しみにしていた、興奮していたと言ってもいい。

 なにせ、今まで使えなかったユニークスキルが使えるようになったんだ。


「ユニークスキル【具現化】これで何ができるか試してみたいんだ」


 つまり石締は実験体に選ばれたというわけだ。



 そこから2人は計画を立てた。


「まずは噂をたてることが重要でしょ? じわじわとあいつを追い詰めていかないと」


 その結果が、死神の姿をした喋るイレギュラーモンスターだった。


「無事に噂が広まったみたいよ。誰も霊斗の遺体が偽物だなんて気が付かなかったみたい」


「僕の身体はイレギュラーモンスターに食べられちゃったからね」


 霊斗の身体は霊斗が気がついた時にはもうなくなっていた。現場は見ていないけれど、イレギュラーモンスターに食べられたのだと考えていた。


「そういえば、そのイレギュラーモンスターってどういうやつだったのよ」


「うーん、瘴気をまとった狼みたいなやつだったよ? 多分、僕は瘴気でやられたんだと思う」


「そんなモンスターが……ちなみにそのモンスターってどうしたの?」


「瘴気を全部吸い取ったら消えちゃった」


 今の霊斗にとって瘴気はむしろエネルギーみたいなものだ。


「まさか、死んでからエネルギー補給して具現化が使えるようになるとは思ってなかったけどね」


 ユニークスキルである具現化は、生前の霊斗には使えなかったスキルだ。

 しかし、そのスキルを今は自由に使うことができる。その理由は、生前には扱えなかったエネルギーを扱えるようになったためだ。

 瘴気もその中の1つで、浴びれば浴びるほど強いエネルギーとなる。


「あのイレギュラーモンスターまた出てこないかなぁ」


 瘴気を撒き散らすイレギュラーモンスター。霊斗にとってはエネルギー補給ができる美味しいモンスターだったのだ。

 ある意味では、瘴気を纏うモンスターにやられたからこそ、能力を使えるようになったのだ。


「だから、殺すのはなしで。ただ、それ相応の報いは受けてもらおうかな」



 そうして、計画は実行された。

 肝心の石締が霊斗の声のモンスターに忌避感を抱いたためか、なかなかダンジョンに入ってこないというトラブルがあったものの、佐奈という餌にやつは引っかかった。


「悪かった! 俺が! お前にモンスターを押し付けた俺が悪かったんだ! 許してくれ!」


 死神に扮した霊斗を前に命乞いする石締に霊斗は大鎌を振り下ろした。

 しかし、大鎌は石締を貫通して地面に突き刺さった。

 具現化を不完全な状態で発動することにより、姿は見せることができるが、当たらないようにできたのだ。


 しかし、鎌を振り下ろされた石締はそんな事を知らない。


「気絶してら。漏らしてるし」


 恐怖のあまり失禁した石締。そこに佐奈が現れた。


「いいシーンが撮れたわよ!」


 佐奈は満面の笑みでスマホを見せてくれた。

 佐奈は一連のシーンを隠れてずっと撮影していたのだ。


「最後に光ったのは写真?」


「そうそう、これをネットにアップすればこいつはもう外も出歩けないでしょ」


「そんなことして大丈夫? 学校の評判とかに関わってくるんじゃない?」


「大丈夫! ちゃんとママに許可は取ってるわよ。モザイクをつけることが条件だけどね」


 もちろん、そんなことは想定済みだ。

 モザイクをかけようが、人の口に戸は立てられない。次第に噂は広がっていくだろう。


 石締小太郎が学校にいられなくなることは想像に難くない。

 結果として、石締が学園を去ることになったのは数日後のことだった。

 こうしてざまぁは成った。

 やはり復讐はこうでなければ。



 さて、その後どうなったのか。


「改めまして、夜見霊斗です」


 朝のホームルームにて元気に挨拶をする霊斗。

 それを見て、担任の周防百音をはじめとした、クラスのほぼ全員の顔が引き攣っていた。


「見ての通り、幽霊になって帰ってきました!」


 なにせ霊斗の姿は透けていて、足もなく、ふよふよと浮いていたのだから。

 死んだはずのクラスメイトが死んだまま戻ってきた。そのことに年頃の少年少女は混乱を隠せなかった。


 しかし、一人だけ。佐奈だけは違った。


「おかえり」


 そう呟きながら小さく手を振る。

 こうして夜見霊斗の新たな日常は始まった。


 彼はその特殊性を活かして後々に多くの伝説を残すことになるのだった。

 そんな彼は後にこう呼ばれることになる。


 【ダンジョン学園の死神さん】


 しかし、それはまた別のお話。



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ダンジョン学園の死神さん 猫月九日 @CatFall68

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