7話 貸し借り帳消しデート1
実は清楚系ではってくらいの美少女ギャルが目の前にいる。
ふわっふわしている裾の可愛らしい白ワンピースとパステルピンクのニットのセットコーデ。小物類は薄いベージュで全体をまとめている。服装に関して疎い
澄玲はその場でくるっと回り、キラキラな眼でこちらを見てくる。
「どう? 今日の私可愛いでしょ?」
「それは可愛いと言った方がいいやつか?」
「可愛いと言ってもらえた方が良きです」
「じゃあ、言わない」
この子すぐに調子乗るから言わないでおこう。
なんで言ってくれないのよーとぷんすかしている澄玲を見ながら表情1つ変えずに話題を変えた。
「まずはどこへ行くんだ? プランは任せてるから早乙女さんが動かないとずっとこのままですよ」
「そっか! まずは映画観に行くよ!」
映画館のある方へパタパタ走っていく澄玲を後ろに歩いていくが、既に体力が削り取られている自分だった。
◇
連休の映画館は人が溢れかえっている。それも話題になっている長編感動アニメ映画の公開日に重なっているからだ。そんでもって澄玲はこの機を逃さず見るというわけだ。事前予約もバッチリして。
「早乙女さんってアニメ観るのか? てっきり恋愛リアリティとかオーディション系かと」
「なーにその偏見? 全く見てないとでも思ってたの?」
「興味なさそうじゃないですか普通は」
「普通に興味くらいありますよーだ。イマドキの女子高生はアニメも見たりしますー」
少し拗ねたよな声を出しながら、発券機で予約していた回のチケットを発券した。
イマドキってよくわからないな。数か月すれば違う流行が舞う世の中を生きている女子高生は同じ人間なのかと思う。
澄玲は発券したチケットを渡してきながら、唐突に腕を組んできた。
「ポップコーンは欠かせないよね! 早速買いに行こっ!」
ちょっと待ってくださいね。彼氏彼女の距離感じゃないですか? 友達の範疇超えてるよねこれ。色々当たってるし、身体的にも精神的にもきついんだが。
心の中では動揺しながらも悟られてはいけないと平然を装いながら尋ねる。
「えーと……なんで腕組んでるんですかね?」
「だってこの人混みだよーはぐれちゃうでしょ?」
なんとも甘々な声でお願いをしてくる。おまけにウルウルな瞳が余計に際立たせる。もう仕方がないかと思いながらポップコーンの売り場までぎこちなく歩いて行った。
澄玲がその様子を見ながらニンマリしていることを気づかずに。
◇
鑑賞中も身体的接触が続いていた。
肘掛けに置いている手をにぎにぎしたり、頭を肩にのせてきたりと心臓がいくつあっても足りない。女性特有の柔らかな感触にドギマギしていたが、映画に集中しているふりをしていた。もちろん集中できていない。
澄玲はというと感情が豊かに観ていた。ラストの感動シーンでは綺麗な涙を流していた。
感動しちゃーと言いながら背伸びをし、感銘を受けたような顔をする澄玲。
自分はというと映画の内容などほとんど覚えてないに等しい。澄玲の手の感触が未だに残っているため、少し悶々としていた。
ぽけぇーとしている凪沙を耳元で湿ったような艶かしい声で囁く。
「突然腕組みしたり、手を握ったりしてごめんね? けど、誰にもするわけじゃないんだよ……」
ふいに向けられた自分にしかしないですよアピール。一般男子高校生なら一撃で落ちてしまうような声に耐えながらも困惑する。しかし、ここで負けるわけにはいかないため態度を乱さずにいた。
「で、次はどうするんだ」
「次はご飯食べに行くよ!」
早乙女さん、ポップコーン食べましたよね? まあいいか自分もお腹が空いている。実はポップコーンは手をつけていない。澄玲が全て平らげてしまった。
そんなこと思っているとこちらを笑顔で見つめながらも澄玲に手を引かれていく。
「今日くらいは私の好きにさせてよねっ!」
そんなセリフを聞きながら、貸し借りの帳消しくらいなら別にいいだろうと思っていた。
◇
駅から入り組んだ道の先にあるカフェで昼食を取ることにした。澄玲はSNSで見つけたのーと言いながらウキウキでメニューをテーブルに置いて見えやすくしてくれる。
外観は工場の跡地みたいだが、中に入ると天高で広い空間が広がっていた。改装して作られていて、アンティークやヴィンテージの家具、まるで城にあるかのようなお洒落な照明。異空間な世界観のカフェである。
「凪沙は何食べる?」
素敵な空間を見入っていると澄玲は覗き込むようにこちらを見てきた。
「トマトクリームパスタにクラフトコーラかな」
「おぉいいチョイスだねー」
なにを根拠に良いのだかさっぱりではある。しかし、他人とご飯を食べるなんていつぶりだろうか。昼休みの件は抜きにして、それ以外だと
「私、ドリアにしよーかな。飲み物はー凪沙と同じもの!」
そういうと店員を呼び、ハキハキと注文をしていく澄玲。
料理を待っている間は学校の出来事、授業やテストについてなど障りのない会話が続いていた。
澄玲はそこまで頭はよくないらしい。あの日の数学の授業、あんなに真面目に受けていたのにかと聞いたら、頭真っ白になってる時だねーと苦笑いをしていた。
「凪沙って入学式で代表の挨拶みたいのやってたよね?」
「あれは入試の成績が良かったからだ。大したことじゃない」
大したことがある。面倒くさい状況にされてるのだから。澄玲は感心した顔で聞いてくる。
「相当頭良いよね? 今度のテスト勉強教えてくれませんか?」
「拒否する」
「断られた!」
澄玲は頭を抱えながら何かしらブツブツ言ってたが何を言っていたかは分からない。
程なくして料理が運ばれてくると、トマトとチーズの良い香りに鼻孔がくすぐられた。
澄玲はいただきますと言うなりにチーズがたっぷり使われている熱々ドリアを口に運び、「おぃひぃ」と言葉にならない表現をしていた。熱かったのかコーラを飲むと満足げな表情になっていた。
自分もパスタを食す。トマトの酸味とクリームのコクが絶妙にマッチしてかなり美味しい。
「一口ちょーだい」
といった矢先にパスタをクルクル巻きながら一口持って行った。別に一口くらい味の共有であげてあげよう。
「パスタもおいしいねっ。」
「そうだな」
呟きながら他人とご飯を食べる幸せを久しぶりに感じていた。異性とは初めてのことであったが、今だけなら別に悪くないと思いつつ、残りのパスタを食べきり、スパイスが効いているコーラで口直しをする凪沙だった。
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