8話 貸し借り帳消しデート2

 カフェでの昼食を食べ終えた2人は再び駅に直結している複合施設に戻り、ウィンドウショッピングすることにした。

 

 まず手始めに、高校生に人気のブランド服屋で澄玲すみれは一つ一つ手に取るように物色していた。

改めて言っておくが服のトレンドはまったくもってわからない。ただ、澄玲曰く流行は常に変わっていくらしい。流行というものはどんな界隈もついていくのは大変そうだ。


「男性の服のトレンドもわからないのに、女性の服のトレンドなどいっそうわからないぞ。別に自分がいなくてもいいんじゃないか」


「いいの! 一緒にいてくれるだけで楽しいから」


「そうなのか?」


 女子の心理はよくわからないが、こんな自分といても楽しいのか。


「そうだよー ちなみに凪沙なぎさってどんな服装が好きなの?」


 急に聞かれたためしばし長考したが、女性の服装など母親のコーデしか見た時以来で、同年代の女子のコーデなど重視して見たことがない。ましてや服装なんて注視してみることもないのでわからない。


 「服装もなにも好き嫌いはないぞ。特に服装など興味がなかったから余計だな。自分がかわいいと思えばかわいいし、かっこいいと思えばかっこいいな」


 「ふーん。そうなんだ……じゃあ今日の服装はかわいい?」


デートが始まる前に言われた言葉を再び投げかけてきた。さらに甘い声で。


 「言わないぞ? 自分の心の中だけで思っておくだけだ」


 「言ってよぉー」


 澄玲は猫撫で声で自分の口からかわいいって言うのを求めてくるし、自分の腕をもげるくらいにブンブン揺らしてくる。

 やめてください、本気で腕がもげそうです。一旦こちらが折れることにするか。


 「わかったから腕を振り回すのはやめてくれ。……かわいいよ」


 「むふぅー」


 胸を張りながら満足げな顔をしている澄玲は余計にかわいいと思ってしまった。不覚であるし、かわいいと言わせられた澄玲に敗北した気分だ。

 そんな澄玲は急に自分をじっと見て、照れながら言ってくる。

 

 「けど私は凪沙の好きなこと、好きなもの知っていきたいな……」


 耳の先が少し赤くなっているのが見えており、相当恥ずかしいのかモジモジしているのが態度を見てすぐにわかる。

 自分の好きなことものなんて限られているが無理に知る必要がない。


 「知っていくのは勝手だ。ただ、自分に合わせる必要なんて微塵もないぞ。服装も早乙女さんは何でも似合うし好きなものを着てくればいいじゃないか」


 澄玲は自分の言葉を聞き、頬に赤みがかかる。かと思えばニコッと笑いながら悪戯に指を突いてきた。


 「なんか告白みたいだったよ?」


 「えっ? あーなんだその……」


 赤面する自分を服屋を出るまで、からかい続けてくる澄玲だった。



 ◇



 澄玲のファッションショーが開催され、ひかる愛華あいかの着せ替え人形されたこと思い出してしまい、ぐったりしていたがデートはまだ続く。

 

 続いては立ち読み、座り読みができる書店に向かっていた。

 書店に向かっている最中、腕を絡んで歩いているか澄玲の柔らかい部分が当たって、理性を抑えるに精一杯になっているのは彼女には内緒である。


 到着すると今までの喧騒を忘れさせるような静寂だった。書店にしてはかなり広く、椅子やワークスペースのような机もあり、買ってない本も読むことが許されている。気になった本はそのまま買えるシステムで本好きには格好の場所である。


 「うわぁ……すごいね。初めて来たけどここまでの雰囲気は慣れないというか」


 澄玲のひそひそ声は少し耳がくすぐったいが、今の雰囲気には声量はこのくらいが丁度いいだろう。


 「自分は何度か来たことがあるが、今まで人の多い場所にいたからこそ余計だな。元々書店はこんな雰囲気だろ」


 「そーか。言われてみればかもね」


 少し広い書店の中をブラブラしていると澄玲は前にも聞いたことがある質問も投げてくる。


 「凪沙ってどんな本が好きなの?」


 確かあの時は本好きなの?となんとか聞いてきたか。ジャンルは言った覚えもないし、話したくもなかったから何も言ってないか。


 「基本的には何でも読むぞ」


 「何でもって? 雑誌とかも?」


 「……雑誌は本に入るかわからないが、ジャンルで強いて言えばミステリーやサスペンスといった推理小説、ライトノベルは外せないな」


 そこから自分の本好きの性分が出てしまったのか、ペラペラと好きな本の詳細を説明口調で喋っていたが、そんな自分を遮るように澄玲は口を開いた。


 「凪沙のおすすめ教えてくれないかな? 私でも読めるようなものがいいな」


 熱くなっていた自分は澄玲の声で現実に戻ってきた。彼女の方に顔を向けると上目遣いでキラキラしてくる目をしており、かなり眩しすぎる。身長差が少しあるためか威力がかなり高い。


 「あっ……一人語りして悪かったな。まあ読みやすい本は数多あるからな。教えてあげるぞ」


 「うん! ありがとうっ」


 嬉しそうな澄玲はさっそく紹介した本を手に取り、パラパラと読んでいる。

 本を読んでいる姿も様になるほどの美少女。ここまで女性に対して心を揺らいだことがなかったが、澄玲の姿を見ると勘違いを起こすくらい揺らいでくる。

 

 ある程度澄玲の欲しい本が決まったところでレジの方へ向かっていった。会計が終わり、購入した本が入っているレジ袋を掲げて走ってくる澄玲をバレないように微笑んでいた。


 

 ◇



 書店を後にしてベンチで休憩していた2人だったが、凪沙は慣れないデートに限界が来てしまったのか、急に1人になりたい気分だった。


 「トイレに行ってもいいか?」


 「うん、ここで待ってるからね」


 その場を後にしてトイレに向かった。


 ここまで女子と、特に同年代の女子と出かけることは全くなかった。そんでもって学内屈指の美少女ギャル。

 距離感が以上に近いし、ここまで懐かれていると調子が狂ってしまう。極めつけには澄玲の積極的な言動に何度かやられそうになっていることを自覚しているため困惑状態が常に続いていた。

 ひとまず、1人になることで冷静さを取り戻すことに成功した。これで最後まで続けることができるだろ。そう思いながらトイレから戻ってきた矢先、面倒くさい事態になっていた。


 

 澄玲が複数人に絡まれていた。

 

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難攻不落の王子様、校内屈指の美少女ギャルに恋される話 しょーとけーき @sho300553

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