6話 ファッションショー開催?

 「ひかる早乙女さおとめから遊びに誘われたのだが」


 「なに? 2人で?」


 「2人でだな……」


 「それデートじゃね?」


 澄玲すみれが二子玉川に行きたいと、それも2人で行きたいと言われたその日の放課後。部活やら委員会やらバイトやらで静まり返った教室で正面向かい合いながら駄弁っていた。

 駄弁るというよりも相談に近い、そもそも友達などいないから遊びに行くことはなかったし、ましてや女性と2人きりで遊びに行くことなんて絶対にない。何をするべきなのか見当もつかないので、輝を頼ることにしたわけだ。


 「というかよくおーけーしたよね。気でも変わったの?」


 「貸し借りを帳消しにするためなら了承してもいいだろう。相手がこれで満足ならそれ以上は近寄ってこようとしない」


 「ふーん」


 輝はニヤニヤしながらこちらを見ている。何回みてもその顔は腹が立つ。

 何故、遊びに行くの了承したか。

 時を昼休みに戻そう――



 澄玲から誘いに呆然としていると、こちらの都合お構いなく楽しそうに話を進めていく。

 

 「5月5日でいいかな? 時間は10時に改札前しゅーごうねっ」


 澄玲からの約束を聞き、はっと現実に意識を戻すととっさに断りを入れる。


 「勝手に予定を決めるな。そもそもいつOKサインが出た。何も言ってないだろう」


 「何も言わないってことは肯定と捉えるって前に言わなかったっけ?」


 「だとしても1回は聞きなさい。」


 「言ったらどうせ断ってくるでしょーわかってるから先回りするのだよ」


 胸を張りながらふんすと鼻息をつきながらのドヤ顔をこちらに向けてくる。

 動作がいちいちかわいいがそれ以外はなんとも思わない。うん、出てるところは出ているな。

 何を言っても無理かと思いながらも返す言葉が見つからない自分だったが、澄玲の一言で見つかった。


 「まだ、助けてもらったお礼できてないから……」


 口を尖らせながらぼそっと呟いた言葉が引っかかってしまった。

 澄玲は助けてくれた。弁当を持ってきてくれた些細なことではあったが、あの時の自分から見たら大げさな表現であるけども救世主だ。そして今一緒に弁当を食べるという行為で貸し借りが成立してる。つまりは澄玲から見ても、ナンパ撃退の借りを返せていないと感じているということだ。

 意図が分かれば答えは必然と見つかる。その答えを澄玲に伝えた。


 「仕方がない。いいぞ5月5日10時に改札前な。遅れるなよ」


 「えっ、あっうん!」


 素っ頓狂な声を出しながらも少し頬が高揚していた。これで彼女の貸し借りは無くなるわけだし時が過ぎれば近づかなくなるだろう。そう思いながら残りの弁当を平らげた。



 ――これが昼休み、了承したきっかけの全貌だ。

 時は帰ってきて放課後。


 「そーいやさ、デート用の服とか持ってるのか? 勝負服みたいなやつ」


 「ある程度は持っているはずだ」


 服など気にしたことはなかったが、人前に出ても恥ずかしくないように身なりは母親に叩き込まれてきたはずだ。


 「なるほどねぇ――ならば、これからなぎさっちの家でファッションショーやらない?」


 「……はぁ?」


 開いた口が塞がらない。こいつは何を言ってるんだ? なんか一人で舞い上がってないか?


 「よしっ!早速ながらなぎさっちの家にれっつごー! あっ、愛華も呼んでもいいかな? 女子目線も大事でしょ」


 「おい待て勝手に話を――」


 「善は急げだよっ。愛華、もう昇降口居るみたいだから行こうぜー!」


 自分の話を聞かずにグイグイ手を引っ張って昇降口へと連れてかれた。こいつはいつも自分の話を聞かずに独断で行動を決める。ただ、その行為が自分にしかしてこない。どんなに仲がいい友達だろうと独断の判断をしているところを見たことないから。これもこいつなりの気遣いなんだろか。

 親友は困ってる自分を他所に輝いた笑顔で前を見つめていた。



 ◇



 昇降口の入り口に輝の彼女――京本愛華きょうもとあいかが待っていた。

 ショートカットヘアの黒髪、釣り目で王子様系のイケメン女子。シュッと体形で典型的な猫系女子とも言えるだろう。表情もそこまで変えずに接してくるので当たりがきつく感じてしまう。

 彼女とは同じ中学で1つ上の先輩ではあるが、輝の彼女なのだ。

 なぜ、犬系男子と猫系女子がこんなにも付き合えているのか。凪沙には少々疑問にも思えた。


 「少し遅いんじゃないの輝? 私待ってたんだけど」


 「愛華ごめんね! なぎさっちが言うこと聞かなくてさぁー」


 「俺を理由に言い訳するな」


 「それで? 凪沙くんの家でファッションショーするんでしょ。早く行きましょ」


 いやなんで愛華さんもルンルンな足取りなんですかね? 表情には出てないけど雰囲気でわかりますよ。意外と似た者同士ってことですかね。

 輝と付き合う前は王子様なんか言われてたしてたし、ファンクラブとかあったみたいだけど、異性と付き合うと人って変わるものなのかと先に行く2人のイチャイチャ後ろ姿を見ながら家へ向かうことにした。



 家に帰るなり、輝と愛華は自室のクローゼットの中身を全て出してにらめっこしていた。にらめっこしている2人を他所に淹れてきたコーヒーを嗜んでいた。

 2人は選別しきったのかこちらを怪訝な目で見つめる。


 「なぁ、なぎさっち……服ってこれだけか?」


 「凪沙くん……服ある程度持ってるって言ったよね?」


 「これで十分じゃないか? 不満でもあるか?」


 白の長袖Yシャツ、黒のテーパードパンツがほとんどを占める。羽織るものならブランドのテーラードジャケットやプルパーカー、コートが数種類あるがそこまで数はない。


 「えっなに? なぎさっちってどこぞのスマホ企業のCEOなの?」

 

 「似たような色、服しか持ってないとかコーディネートし甲斐がないよ……」


 いやがっかりされても困るんですけど、別にそれだけで成り立ってるから必要ないだけであって、世の中の男子ってこれ以上に服買ってるの? どこまでタンスの肥やしを増やしてるんだろうか。

 呆れる2人を見て少々困ったようにして解決策を提案した。


 「そこまで言うのならば買いに行くしかないだろう」


 「えっ? なぎさっちから提案珍しっ! よっしゃー行こうぜ!」


 「凪沙くんが提案するの珍しいわね。なら早速行きましょ」


 だからなんで2人はノリノリなんですかね。自分は渋々提案しただけなのにさ。

 もうどうにでもなれ精神で某Uから始まる洋服店へ向かうことになった。


 そこからは自分は輝と愛華の着せ替え人形だ。あーでもないこーでもないと次から次へと服を持ってきては試着室の連続であり、服にはどうでもいい自分にはげっそりするほど疲れるものだった。ただの貸し借りを帳消しするため誘いに乗っただけでここまでする必要がないと伝えているはずだが、そんな言葉などとっくに忘れて着せ替え人形を楽しんでる2人を見ていると満更でもなかったことは秘密にしておこう。



 どっと疲れた。2人と洋服店の前で別れてから速足で家に帰り、買った服をボケっと見ていた。

 普段こんな服など買わずに今ある服だけで済ますし、服など頻繁に買いに行かない。強いてお気に入りが使えなくなった時くらいにしか買いに行かない。ではなぜ買ったのか。

 澄玲の隣にいても恥ずかしくないように? 澄玲に恥をかかせないように?

 いや、答えは出てる。自分の保身のためだ。決して彼女のためではないと言い聞かせる凪沙だった。



 ◇



 5月5日、こどもの日、連休真っただ中。

 約束した時間に二子玉川駅の改札前で澄玲を待っている。

 輝と愛華のチョイスで決まったのは鮮やかなグリーンのカーディガンを羽織りながら、デニムパンツのラフな格好だ。足元はローファーで綺麗目を演出している。

 慣れない服装に少し違和感すら感じてしまう凪沙だったが、今日が終われば二度と着ないからいいだろと若干諦めている。そんなことを思いながら遠くの方で声がする。澄玲の声だ。


 「おまたせ! 待たせたかしら?」


 「いや全然」


 デートの決まり文句が決まったところで貸し借りの帳消しデートが始まった。

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