第12話 警察署へ
警察が来た後、俺らは重要参考人として連行された。仮面をはずせと言われたが、殺人犯たちに命を狙われたくないから、彼らを連行したら外すといい、それで押し切った。今は仮面を外して全員ばらばらに話を聞かれている。俺も健吾と離れたので、未来はもう見ていない。何よりもう限界に近かった。頭痛が酷くて油断すると倒れそうだ。
「時間をとらせて申し訳ないね。」
「いえいえ。こちらこそ夜に出勤させて申し訳ありません。」
目の前の刑事さんがにこやかに笑う。ここは警察署の一室。ドラマとかにある取調室などではなく、隣に警官の仕事部屋がある。まあ、自分達は殺人者達を取り押さえたメンバーだ。いきなり捕まることはないだろう。
「改めて。私は高見光という。よろしくね。」
「はい。私は時見翔といいます。高見さんとお呼びしても?」
「ああ。私も時見君と呼ばせてもらおう。さて。改めて事情を聞かせてもらっていいかな。」
「はい。」
俺は自分が工藤さんに相談を受けて柳さんの悪事を暴いたこと。その柳さんが逃げ出したので、追いかけたところ殺されていたので、その場にいるメンバーを取り押さえて警察に連絡したこと。勿論不要なことは話していないし、工藤さん家のボディガード達はそもそも事情を知らないから話しようがない。工藤さんのお父さんから俺の指示に従うように言われたのだ。
「そうか。工藤さん家には別の刑事が取り調べにいっている。」
「そうですか・・・。」
工藤さん家にいる人達とは打ち合わせをしてあるから大丈夫だろう。
「だが、捕えた人達は君が仲間で君が裏切っていたと言っている。」
「そうですか。」
「おや、驚かないのかな。」
まあ彼らからしたらそう思うのも当然だろう。あそこの場所を知っているのは限られた人間だけのはずだ。中を見ずにあの隠された場所に
「私を引きずり降ろそうとするのは想像できたので。」
「だが、そうすると君を簡単に返すわけにはいかないのだよ。」
高見さんが肩をすくめる。
「それは困りますね。ですが、私が工藤さんの家にいたのは工藤さんの家にいた人全員が証言しているはずですし、私があのバーに行ったのも初めてです。」
「そうなのか。まあ確かに拳銃の指紋や消炎反応も君からはでなかったし。」
「それであれば私は解放していただけるのでは?」
「そうなんだが・・・。」
高見さんは苦笑いをする。だが目はこちらの動作を見逃さないようにしている。
「君はどうやって彼らの事を知ったのかな?」
「私には独自の情報網がありまして。そこから知りましたとだけ。」
「ふむ・・・・。そうか。」
「私とは仲良くしておいたほうが良いですよ。可愛い姪っ子が誘拐されたときとか、警察にはない情報を提供できますよ。」
俺の言葉に一瞬顔をしかめるが、すぐに元に戻った。
「ふむ。では今後君とは仲良くしておきたい。君の連絡先は教えてもらえるかな。」
「もちろんいいですよ。」
俺は紙を借り、そこに連絡先を書いた。高見さんも同じように紙を渡してくれる。
「ありがとうございます。もう1枚紙を借りてもいいですか?」
「構わないよ。」
もらった紙にある情報を書いていく。高見さんはその間じっとこちらをみていた。書き終わった後高見さんに手渡す。
「こちらをどうぞ。」
「・・・・これは!!」
高見さんが紙の中身を見て驚きでこちらを見る。俺が書いたのは、幹部である彼女の情報と捕まった男達の情報。名前や住所だ。彼女達の『履歴書』は手に入れている。いつでも情報を手に入れられる。
「どうせ誰も自分の事を喋らないんでしょう?私の情報を役に立ててくだされば。」
「・・・・・君は本当に仲間じゃないんだよね?」
「仲間であっても自分の住所を話す人はいないでしょう。情報網のおかげですよ。」
「まあ・・・。それは確かに。」
「怪しければ何時でも聞いてください。私は逃げも隠れもしないので。」
「そうだな・・・・。申し訳ないがそうさせてもらおう。」
また後日話を聞きたいということで、今夜の居場所を聞かれて一旦解放された。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やれやれ・・・。彼はいったい何者なんだ。」
ため息をつきながら私は取調室に向かう。すると後輩の刑事が迎えてくれた。
「あ、高見さん。お疲れ様です。」
「お疲れ様。何か喋ったかい?」
「いえ・・・。何も。」
「そうか・・・。僕がちょっと喋っても?」
「はい。どうぞ。」
取調室に入ると、捕まえた女性がそっぽを向いている。こちらに見向きもしない。
「やあ。ちょっと話をしないかい?」
「しない。弁護士が来るまでは全て黙秘する。」
「そうか。じゃあ申し訳ないけどこちらが一方的に喋らせてもらおう。」
「何を・・・・。」
「川島花林さん。」
「!!」
女性、いや川島さんが驚いた顔をこちらに向ける。
「あたりのようだね。じゃあこれから川島さんの情報を喋り続けるから間違っていたら教えてくれ。」
私は紙に書かれた情報を読み上げ始めた。同僚達も唖然としてこちらを見ている。
「あいつか・・・・。」
唸るような声で川島さんが呟く。
「あいつとは?」
「あの仮面の男だ!!」
「仮面?」
首を傾げると後輩が耳打ちして教えてくれた。どうやら現場に到着したときに彼は仮面をつけていたらしい。
「情報元は教えられないよ。警察も頑張っているだから。」
「その割には、あんたのお仲間も驚いていたがな。」
「先ほど届いたからね。」
「減らず口を。」
川島さんは再びそっぽを向いた。もう落ち着いたようだ。紙に目を落とす。彼から川島さんへのメッセージがあるが私には理解ができない。言うかを悩んだが、結局言うことにした。
「仮面の彼からの伝言があるよ。“明日は会合ですね。楽しみです。”」
「!!」
「私には意味が分からないんだが。教えてもらえないかな。」
「・・・・・・。」
彼女は何も言わなかったが明らかに動揺していた。手が震えているし、顔も青ざめている。だがこれ以上は何も話さないだろう。私は席を立ち取調室を出た。後輩が慌てて追いかけてくる。
「高見さん!!どうやってあの情報を手に入れたんですか?」
「時見君が渡してくれたよ。この紙をコピーして皆に渡す。そして裏付けをとろう。」
「わかりました。・・・それにしても彼はいったい何者なんでしょうか。」
「僕が聞きたいよ・・・。彼が彼女達の仲間の線も消さずに調査しよう。」
「わかりました。」
私は、この情報をどう上に報告すればいいのかを考え、ため息をついた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
警察の人にひとまず工藤さんの家に送ってもらい、彼女の家に着いたのは日付が変わった後だった。家に入ると工藤さんが慌てて駆け寄ってくる。どうやら待っていてくれたらしい。
「時見さん!!大丈夫ですか!?」
「あ、ああ。心配かけたな。でも、どうした?」
「いえ・・・。私がお願いしたのですけど、ここまで大事になるとは思わなくて。」
「まあな。俺も驚いている。」
「・・・ごめんなさい。」
工藤さんは泣きそうな顔をしていた。俺は心配かけないように工藤さんの手を握り首を振った。
「気にしないで。工藤さんが無事で本当によかった。」
「本当に・・・本当にありがとう。」
工藤さんが弱々しく笑う。釣られて俺も笑う。彼女の笑顔を見て緊張の糸が切れた。頭痛がどんどん酷くなっていき、意識が朦朧としていく。
「ああ・・・。申し訳ないけど後は頼んでいいか?」
「え?」
「ちょっと限界。」
言った直後、膝から力が抜けて崩れ落ちた。工藤さんが叫んでいるのが聞こえていたが、何も返せず視界が暗転し、意識を手放した。
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