第10話 突入

「時間だ。突入。」

 俺と健吾は仮面を被って皆に合図を出した。柳さんが射殺される1分前に俺らは彼が逃げ込んだバーに入った。

「いらっしゃいませ。ええと。6名様ですか。」

「変な格好で申し訳ない。すまないが店長さんにダイヤモンドが呼んでいると伝えてくれませんか。」

「ええ。またですか?」

 店員が面倒くさそうに言う。彼はただのアルバイトだ。本命は店長だ。


「ええ。そうです。申し訳ないです。店長が疑問に思われたら前の人の知り合いだと伝えてください。」

「ああ。お連れの方でしたか。少々お待ちください。」

 店員はそういうと中に引っ込んでいった。すぐに店長と呼ばれた男が慌ててこちらに来ていた。


「どうなされたのですか。このように乗り込むなんて・・・。」

「悪いが時間がない。先程の男は組織を裏切った。連行する必要がある。」

「!!あの方がですか?」

 店長は信じられない顔をしてこちらを見る。執事は何度もここに来たのであろう。


「ああ。今日失敗して、組織のことが一部バレた。慌てて来たのがその証拠だ。だから我々がきた。処分者は顔を見せられない。このままでは上にいる幹部に危害を加えるかもしれない。急いでくれ。」

「し、承知しました。」

 店長が俺等を奥に案内し、電子ロックを解除する。


「ありがとう。念の為一人残っていてくれ。この拠点を廃棄しなければいけないかもしれない。その場合、店長と連携する人間が必要だ。」

「では私が。」

 連れの1人が手を挙げる。その1人と店長を残して俺等は中にはいっていった。 

 そして階段を上る。そして、再び見えた扉の前に止まる。


「突入するのですか?」

「いや。まだです。」

 未来を確定させた時間まで待機する。ここが一番失敗できない場所だ。一度深呼吸をする。時間になり、護衛たちに向き直る。


「よし。いいですか。扉を少し開けてそのあとおもいきり扉を蹴とばしてください。そして中に突入したらすぐに振り返ってください。」

「振り返る?」

「はい。ドアのすぐ横に隠れている2人がいます。その2人を拘束してください。」

「中の状況が分かるのか?」

「説明している時間はありません。お願いできますか。」

「・・・わかった。」

 2人は疑わしげだったが、承諾した。俺は後ろで待機する。


「いきます。」

「お願いします。」

 俺が頷いた直後、お願いした通りに護衛2人は突入した。大きな音をたてて扉が開けれられる。突入後彼らはすぐに振り返った。

「「な!!」」

 驚きの声が聞こえる。すぐに大きな音がした。やがて音が聞こえなくなったのを確認し、残りの1人と共に部屋の中に入る。学生らしき2人が拘束されていた。


「お疲れ様です。」

「本当にいた。言われていたからすぐに動けたが、まさか本当にいたとは。」

「なんだよてめえら!!はなせよ!!」

 20代前半くらいだろうか。組み敷かれている男が暴れる。だが拘束はとけない。もう1人組み敷かれている男は機会をうかがっているのか声を出さない。

「まずは拘束しましょう。」

 俺は、持ってきた拘束用具を渡し、彼らを拘束する。


「ありがとうございます。1人は下に言って店長を連れて中に来るように言ってください。そして中に入ったら同じように拘束を。彼らの仲間です。」

「なんだよお前!!気持ち悪い仮面をつけやがって。」

 男が叫んでいるが無視する。それよりも本命を逃がすわけにはいかない。

「残り1人は私と一緒に。柳さんを殺した女を捕えます。」

「「!!」」

 拘束した2人が顔を強張らせ暴れる。だが手遅れだ。

「ボス!!逃げてください!!」

 どこに隠れているのかわかっていると理解したのだろう。拘束したうちの1人が大声をあげる。方向が分からないように下を向いている。本当に逃げられる前に急いで拘束しなければいけない。


「どこにいるんだ?」

「こっちです。」

 部屋の奥にある本棚に近づく。本棚には本は一冊も入っていない。俺はその本棚を横にずらした。


「なんと・・・!!」

 護衛が驚きで固まっている。

「まず、私が思い切りドアを開けるので、離れていてください。」

「突入するのではないのか?」

「いえ。女が扉の前に立っています。開けたら飛び出してくるので、すぐに両腕を押さえてください。」

「両腕。」

「彼女は拳銃を持っています。間違えても撃たれてはいけません。」

「!!」

 拳銃という言葉は予想していなかったのだろう。護衛の顔が引き締まる。


「ではいきます。」

 俺達は扉の横に移動し、勢いよく扉を開けた。だが中に入りはせず扉を開けただけだ。

「ああ!!」

 開けると同時に女が拳銃を構えて飛び出してきた。だが目の前に俺達がいないことで一瞬固まる。


「大人しくしろ!!」

「っ!!」

 護衛が女の両腕を思い切り叩き、拳銃をおとさせる。そして、すぐさま2人で取り押さえた。


「お疲れ様です。」

「いや。君の言葉がなければこうもうまくはいかなかった。」

「く、どうしてわかった!!」

 女も暴れたが、男2人がかりでは勝ち目はない。同様に拘束する。その後、何も知らずにきた店長も拘束し、事態はいったん落ち着いたのだった。

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