第14話




「サユちゃん……?」


 そして、その男を蔑んだ目で見おろしているのはサユちゃんだった。足で男を蹴り飛ばしたのだ。狭い部屋の中で蹴り飛ばしたため、その男の体が他の男子達に当たってしまっており、他の二人も痛そうに顔を歪めていた。


「由奈ちゃん嫌がってるのに、なんなの!?さいってい!他の男どもも当てになんないし!最近の男は弱すぎる!」


 サユちゃんは乱れた自分の髪を手櫛で整えながら、深い溜め息を吐き出している。

 すごい。サユちゃんて、こんなに強かったんだ。


「あ、ありがとう。サユちゃん」


「ううん!それよりも手首、大丈夫?痛めてない?」


「……あ、ちょっと赤くなってるかも」


「え!?あ、本当だ!薬局行って湿布買ってこなくちゃ」


 サユちゃんがあたしの手首を見ていた時だった。倒れていたはずの男がゆらりと立ち上がり——。


「舐めやがって!ふざけんな!」


 あたしとサユちゃんは男を見上げるので精一杯で、振り下ろされようとしている拳に強く目を瞑る。


「はい。今度こそ、そこまで」

 ——と、聞こえてきたのはスッと通る、あたしの知っている声。


「由奈、ごめん。遅くなった」



 拳を振り上げた男を制したのは、陸だった。


「は、離せよ!」


 男は陸に掴まれている腕を強く動かそうとしているようだったが、びくともしない。陸は相当、力を入れているはずだけれど、微笑を崩さずに口を開いた。


「君は万引きやカツアゲをしていたチームの一人だろう?覚えているよ。このままいけば、いずれ取り返しのつかない犯罪を起こすだろうと踏んで、紅葉がお前らのチームを解体した。それだけのこと」



「大きなお世話だ!俺達は俺達なりに楽しくやってたんだ!お前らはそれを!」


「人様に迷惑かけて、楽しく、だあ?都合良すぎんだろ」


 男に答えたのは、後から入ってきた孝だった。呆れたような顔をしている。


「はい、孝、こいつ持って行って。他にも何か企んでいる奴らがいないかとか、聞かなきゃならないから」


「はいはい、言われなくとも」


 男は抵抗できないまま、陸から孝へと引き渡された。解放されようと暴れているものの、孝の力にも勝てないらしく、それを悟った男は真っ青な顔をして脱力状態になり、孝と部屋を出て行った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る