第13話
それか、本当にあたしに好意を持っているか……ああ、それはないな。目がそういう目じゃない。少しも、好きな人を見る目じゃない。怖すぎる。
「や、やめて!離して!」
あたしが声を上げると、歌っていたモカちゃんが異変に気づき、こちらを向いた気配を感じた。他のみんなも話をやめ、こちらの様子を伺っている。
男は、笑うのをやめた。
「……むかつくんだよ」
「え?」
一瞬にして唇から消えた笑みがあまりにも不気味で、掴まれている手首から伝わる男の熱が気持ち悪い。恐怖でいっぱいになってしまい、体が動かない。
「紅葉だよ、紅葉。あいつら俺らのチームを簡単に壊したんだ。楽しくやってたのに、いきなりだ。卑怯だよなあ?」
紅葉は理不尽に違うチームを襲うような卑劣なことはしない。反論しようとしたけれど、男を刺激したら……と思うと声が出なかった。
「お、おい、由奈ちゃん、怖がってるだろ。やめろって」
「そうだぞ。今日は合コンなんだからもっと楽しくしようぜ」
他の男子二人が宥めようと男の肩に手をかけるが、勢いよく振り払われてしまう。
「触るな。お前らは黙ってろ」
ああ、こんなことなら、シミュレーションなんて姑息なことをしないで、來の所まで行って、素直に謝ればよかった。これは天罰ですか……。
「はな、離して……あたしを連れ去ったとしても、紅葉は壊れない。そんな……そんな、弱いチームじゃない」
「は?あいつらの歪む顔が見たいだけだから、別にどうでもいい」
嘲笑する男は紅葉に相当な恨みを持っているようだった。
どうしよう。力が強くて振り払えない。來に連絡することも叶わない。陸たちの部屋がどこかもわからないし、一体どうしたら……。
「はーい、そこまで」
「その手、離して!」
それは、一瞬の出来事だった。
「……え?」
あたしは小さく声を出し、ポカンとする。
緩やかな陸の声の上に、高い声が被さった。気づけば、目の前には男が倒れ込んでいる。正真正銘、さっきまであたしの手首を掴んでいた男だ。
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