第2話 赤城 陽斗(あかぎ はると)

巨大な魔物が倒れた。赤城陽斗の炎の剣による一撃が、その核を貫いたのだ。魔物の体は霧とともに消え去り、静寂が訪れる。


「やった……!」

陽斗が振り返ろうとしたその瞬間、彼の胸を黒い影がかすめる。魔物の最後の一撃——死の爪が彼を捉えていた。


陽斗はその場に膝をつき、胸を押さえた。血が指の間から溢れ、仲間たちは凍りついた。


「陽斗!?」

美咲が駆け寄るが、陽斗の体は既に冷え始めていた。


「だめ……傷が深すぎる……」

美咲の治癒魔法が光を放つが、その光は陽斗の傷を完全には癒せない。


「俺……ここまでかよ……」

陽斗は苦しそうに笑う。その顔が少しずつ青白くなっていく。


「おい、冗談だろ……起きろよ!」

翼が肩を揺らすが、陽斗は力なくその手を払いのけた。


「みんな……悪い……先に行くわ……」


その時だった。辺り一面に、不気味な紫の光が漂い始めた。


「な、なんだ!?」

翼が反射的に剣を握りしめ、千景も警戒の表情を浮かべた。


紫の光は渦を巻くように陽斗の体を包み込み、その輪郭が徐々に淡くなっていく。


「ちょっと待って!陽斗が……消えていく……?」

美咲が涙を浮かべながら叫ぶ。


誰が何をしているのか分からない。仲間たちは恐怖と混乱の中、ただ立ち尽くしていた。


「何なんだよ、これ……!」

翼が叫ぶが、紫の光が陽斗を包み込む速度は止まらない。


「お前……どこに行くんだ……!」

翼が手を伸ばそうとするが、紫の光がそれを拒むように弾き返す。


陽斗の最後の言葉が、光の中からかすかに聞こえた。

「……なんか……懐かしい匂いがするな……」


その瞬間、紫の光が消え去り、陽斗の姿も完全に消えた。


陽斗がいた場所には、彼の血痕だけが残されていた。


「嘘だろ……そんな、突然……」

凛が呆然と立ち尽くし、翼は地面に拳を叩きつける。


「一体何が起こったんだ……誰か答えろ!」

翼が叫ぶが、誰も答えられない。千景も無表情で静かに視線を落とし、美咲は涙を拭うだけだった。


「……何かの力が働いたのかもしれない。でも、それが何かは分からない。」

千景が冷静な声で呟くと、凛が振り向いた。

「千景、何か知ってるんじゃないの?」

「……知らない。」

千景の声には揺るぎがなく、凛はそれ以上追及しなかった。


一方で、現実世界の病院——白い天井が目に飛び込んだ陽斗は、目を開ける。


「……ここは……なんだ……?」

彼は異世界での記憶を失っており、なぜここにいるのかも理解できない。ただ、自分が「何か大事なことを忘れている」気がしてならなかった。


その夜、千景は仲間たちが眠るのを確認しながら、一人焚き火を見つめていた。


千景は手のひらをじっと見つめる。紫の光が微かに残っている気がしたが、それを握りつぶすように拳を握った。


「でも、こんなこと……何度もできるわけじゃない。」

彼女は夜空を見上げ、深く息を吐いた。

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