第209話 キレイキレイしましょ

 スイとコウは影兎シャドウラビに連れられて、エンドの元に到着した。


『うさうさタクシー、ごりようありがとうございました〜』


 二体をおろした影兎シャドウラビが、そう挨拶するのを聞いて、俺は首を傾た。

 タクシーなんて言葉、どこで学んだんだ?

この世界にはないはずだけど……


 チラリとリルに視線を向ける。

 リルはのほほんと『宅配便は荷物、タクシーは生き物を運ぶんだよね!』と、俺に褒めてほしいと言いたげに尻尾を振った。


 このダンジョン内で地球の知識持ちは、俺の他にリルしかいないから、影兎シャドウラビに知識を伝授したのは誰か、言われなくてもわかりきっていた。

 リルがなんでそんなことを教えたかはわからないけど。


 もしかしたら、影兎シャドウラビたちが何かを運ぶ仕事にやりがいを感じているから、かもしれないなぁ。

 その役目に名前をつけたあげたかった、とか?


 まあ、うさうさタクシーって可愛い響きだし、今後はその呼び方を使おう。


『?? タクシーというものが何かは知らないが、影兎シャドウラビ殿には世話になった。かたじけない』

『着いてもうたわー……』


 スイが戸惑いつつも頭を下げる横で、コウが敵の方を見てしょんぼりしてる。

 ゴメンなー。でも、お前たちはその魔物に対処できるだけの能力は持ってるはずだから、頼んだぞ!


『マスター、ボクはこの子たちをサポートすればいいの?』


 エンドがチラリとスイ・コウを見下ろしてから、確認してくる。

 今回の作戦については既にエンドたちに説明をしておいた。

 詳細はおいておくとして、作戦名は【穢れ魔物をキレイにしちゃおうぜ!】だ。


 ……ミーシャにまた冷たい目を向けられてる気がする。

 ゴメンって。俺のネーミングセンスが死んでることはもう自覚してるから。蘇生不可だよ。


「ああ。攻撃に当たらないよう守ってやってくれ」

『はーい。近づかなくていいならがんばるよー』


 相変わらず敵に触れるのを断固拒否するエンドに苦笑しながら、スイ・コウに視線を移した。


「スイとコウは指示した通りに頼んだぞー。終わったら美味いものあげるからな!」

『はっ、身命を賭して、あるじに最高の成果をお届けできるよう邁進いたします』

「重い重い重い! 死ぬ前に帰ってこいよ!」


 キリッとした顔で言うスイに慌てて指示する。

 俺、そんなひどい主人じゃないからな! もっと気楽な感じでいいぞ!


『アタイ、美味いもんなんていらんから、帰りたいわー』

「コウはもうちょっとやる気出せ?」


 なんでこの二体はこうも両極端なんだ。

 俺はコウをジトッと見つめた。

 コウはエンドが作った火の壁に守られているからか、呑気にあくびをしている。危機感仕事しろ?


『はぐはぐはぐみゃあ』


 フェリスはマイペースにお仕事中。

 だいぶ奥まったところに来たことで、周囲の魔力量が多く、吸収し尽くすことがない状況のようだ。

 大きく膨らんでは、分裂したものを影兎シャドウラビに乗せてこちらに運び込んでいる。


 おかげでDPは目が飛び出そうなほど溜まってた。

 まあ、すぐに邪神探索レーダーに入れるんだけど……この調子だと、数日で起動までこぎつけられるのでは……?

 改めて、地獄の穴恐るべし、である。


『アタイの辞書にやる気なんて言葉はないねん』

「それ、なんて物臭なナポレオン」


 絶対世界征服なんてできないタイプだな。

 コウはインクと気が合いそう。


『コウ、主のご下命である。気を引き締めて参ろうではないか』

『……アンタから先攻しぃ』

『相わかった。では、謹んで先陣を務めさせてもらおう』


 コウが堅苦しいスイに呆れた目を向ける。

 スイはそれを一切気にせずに、エンドが火の壁に作った空白部分から、敵をのぞき見た。


 敵の魔物は、相変わらず泥にまみれたような姿で、しきりに泥団子のようなものを投げつけてきている。

 デカい図体で強そうな気配があるわりに、攻撃が単調で威力が弱い。

 なんともアンバランスな感じだなぁ。


『拙者が其方の泥を洗い流してしんぜよう──【水噴射】』


 スイが大量の水を放った。

 その水は火の壁にあいた穴を通り抜け、敵に直撃する。


『ググググゥゥルゥウウ!』

「なんかやべぇ鳴き声が聞こえる……」


 地の底から響くような低い鳴き声に、口元が引き攣るのを感じながら、モニター観察を続行。

 フェリスがいい感じに上の方に移動してくれて、敵の全体像が見えるようになった。


 敵はスイの水を浴びて、ジャバジャバと泥を落とされながら身を捩っている。

 水気の増した泥団子が、しきりに火の壁にぶつかっていた。


『敵さんの泥多すぎやない? 埒があかんなぁ──【浄化】』


 ようやっとコウもやる気を振り絞ったのか、スイが放つ水に浄化の力を混ぜた。


 敵に水が当たると、自動的に浄化されて泥がかき消えていく。

 ……つまり、あの泥のようなものは、浄化によって消えるような、実体のない穢れモノだということだ。


『グゥルウウゥアァア』

「お、ちょっと体積が減ってきたか?」


 道を完全に塞ぐほど大きかった敵の姿が、徐々に小さくなってきた。

 水と浄化はしっかりと効果を発揮してくれているようだ。


『おー、がんばれがんばれー』


 エンドがのほほんと応援する。

 敵の体積が減るにつれて、臭いやら汚らしさやらがマシになっているようで、ちょっと嬉しそうだ。絶対近づこうとはしないけど。


『スイとコウ、凄いねー』


 リルが満足げに二体の活躍を眺める。

 まるで後方先輩面。リルが先輩なのも、後方(離れたところ)から見守ってるのも間違ってないけど。


『スイとコウで任務を遂行! ですねー』


 操人形マリオネがジョッキを掲げながら言った。

 俺はジト目で見つめる。

 なんでお前はここでギャグを入れ込もうと思ったんだ? しかもレベル低いし。

 もしかしなくても酔ってるだろ。


「……ビール、飲みすぎじゃないか?」

『あ、待ってください、取り上げないでーっ!』


 操人形マリオネのジョッキに手を伸ばしたらサッと遠ざけられた。

 さすが魔物。酔ってても動きが速い。


『そろそろええんちゃう?』

『うむ、敵の状態を確認しよう』


 俺たちがワチャワチャと騒いでいると、いつの間にやら、敵の姿がすっかり見えなくなっていた。

 スイとコウが攻撃をやめ、エンドも火の壁を消す。


 すると、そこに残っていたのは──


『きゅー……』


 目を回して倒れる黒色の狐だった。



「なんでやねん……」


 巨大な泥の塊が小さな狐になるってどういうこと?

 ポカーンとしながら呟く俺の傍では、リルたちもきょとんと首を傾げている。


 泥をどうにかすれば何か起きそうという予感はあったけど、正直思った以上に意味不明である。

 この狐、どうしようかなぁ……。


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