第210話 不思議な魔物

 俺が黒色の狐への対応に悩んでいる間に、影兎シャドウラビとフェリス2(フェリスから分裂した内の一体)が動いた。


『このキツネ、なに〜?』


 影兎シャドウラビが黒色の狐に近づいて、テシテシと叩き揺さぶっている。

 黒色狐がさらに吐きそうになってるぞ。やめてあげなさい。


 フェリス2はクンクンと黒色狐の周りを嗅いだ後、あーんと口を開けた。

 まさか黒色狐を食うつもりじゃ──


『魔力いっぱいみゃあ。もぐもぐ』


 ──違ったな。魔力を食ってるだけみたいだ。紛らわしい!

 でも、ちょっと不思議だ。フェリス2たちがいる場所は、元々魔力が豊富にあるのだから、わざわざ黒色狐の周囲で魔力を吸収しなくてもいいだろうに。


 フェリス2の行動に俺が首を傾げていると、すぐさま異変が起きた。フェリス2がポフンッと大きくなったのだ。


『大っきくなったみゃあ。分裂するみゃあ』


 フェリス2がポンッと三つに分かれる。

 その三体は再び黒色狐の周囲で魔力を吸い、巨大化して分裂した。

 同じことが何度も繰り返される。


 ……どんどんもふもふが増えていくなぁ。影兎シャドウラビによる輸送が間に合ってない。

 黒色狐はフェリスの群れに覆われて見えなくなっていた。


 その光景を、俺は半ば呆然としながら見つめる。

 流石に魔力の吸収速度が凄すぎる。黒色狐の周囲にはよほど魔力が集まっているのか……いや、というよりも、黒色狐自身が桁外れに多い量の魔力を周囲に放っているのか?


 魔物が魔力を放つなんて意味がわからない。下手したら、命に関わるぞ。魔力をエネルギー源としてる魔物にとっては、文字通り命を削る行為になるはずだし。


あるじ、我らはこれをどうしたらよいのでしょうか?』


 フェリスの群れに巻き込まれて埋もれかけているスイに問いかけられた。

 とはいえ、どうすべきか俺もまだ判断できてないしなぁ。


『アタイたちの仕事が終わったんなら、帰還してええ?』

「いいけど……今は影兎シャドウラビたちの手が空いてないと思うぞ?」


 なにせ、フェリスたちをせっせとダンジョンに移送させている最中なので。


 またDPが急激に増えている。やばぁ。数日中どころか明日にでも邪神探索レーダーを発動できるんじゃないか?


『フェリス殿らの移送に便乗させてもらうことも可能であろうが……』


 スイが影兎シャドウラビの方を見て、しょんぼりと尻尾を垂らす。

 影兎シャドウラビたち、仕事がいっぱいできて今すごく楽しそうだもんな。ルンルンと動き回ってるから、話しかけにくいのはわかる。


「あー……エンド。お前が気になってた強い魔物の気配ってのは、もうないのか?」


 とりあえず状況把握をせねば、と静かに周囲を眺めているエンドに問いかけた。


『うん、そうだね。たぶん、その黒狐が核になって、穢れた魔力が集っていたのを、強い魔物だと感じてたんだと思うよー』


 想像以上にちゃんとした答えが返ってきた。

 つまり、さっきまでの泥の塊のようなもの──おそらく穢れた魔力が物質化したもの?──に覆われた状態は、やっぱり黒色狐の成れの果てだったってことか。


 なんでそんなことになったんだかわからないけど、強い魔物の気配が他にないとわかってホッとした。

 影兎シャドウラビやフェリスたちはもう完全に気を抜いてるし、不意打ちされて傷つけられることがあったらどうしようかと、ちょっと不安だったんだよ。


「そっか。その黒色狐は生きてる?」

『うん、だいぶ弱ってるみたいだし、こっちに反撃できる力はないはずだよ。……掘り出す?』

「そうしてくれ」


 俺が頼むと、エンドはフェリスの群れの中心にズボッと鼻先を突っ込み、黒色狐を咥えて取り出した。

 さらに、追ってくるフェリスを面倒くさそうに風を操り弾き返している。


 黒色狐の周囲の魔力は、フェリスにとって相当美味しいもののようだ。執着してるように見える。


 苦笑しながら、俺は黒色狐を観察した。

 最初に見た時には目を回しているように見えたけど、今はゲッソリと生気が抜けたような表情をしている。

 狐って、案外表情がわかりやすいんだな。


『エンドはん、それどうするんや?』


 フェリス増殖が止まったおかげで、影兎シャドウラビによってちょっとずつフェリスの数が減り、コウがホッとした様子でエンドを見上げた。

 スイはもの思わしげに黒色狐を見ている。


 この二体も、わりと表情豊かだったな。

 狐って、わかりやすいタイプなのか?


『わかんない。マスターが決めてくれないとどうしようもないね』

「あ、だよなぁ。せめて、そいつが俺たちに敵対するかどうかだけでもわかればいいんだけど」

『大丈夫そうなら連れて帰るの? そっちにリルがいるから、別に敵対されても問題なくない?』


 エンドにきょとんと言われた。

 確かにそうだな?

 リルを見ると、『任せて!』と目を輝かせながら尻尾を振っている。

 俺の相棒は最高に可愛くて強くて頼りになる!


「……よしっ、それなら、そいつもこっちに輸送で。話せるようなら、いろいろ聞いてみたいし」


 これまでに遭遇した魔物たちは、全て俺が知るものとさほど変わらない姿をしていた。

 この黒色狐だけに異変が起きていたのは、きっと何か理由があるに違いない。


 ……フェリスから離れてホッとしたかと思えば、エンドを見た途端に絶望顔になり、その後【マスター】という言葉に目を細めた黒色狐。


 その表情の変化には知性を感じた。勘だけど、こいつとは言葉でのやり取りができる気がするのだ。


『話せるのかなー?』


 エンドは首を傾げながらも、フェリスのほとんどを輸送し終えた影兎シャドウラビに、黒色狐を渡した。


 俺も黒色狐との面会の準備をしなくちゃな。

 リルという最強の護衛をつけるとはいえ、木偶ドールを使って用心して会うべきだろうし。


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