第208話 硬いモフと緩いモフ

 エンドがチラッとこちらに視線を向ける。

 フェリスの視界を共有していることは伝えているから、俺に用があるのは間違いない。エンドがこの状況でフェリスを見る意味は他にないし。


『マスター、アイツはスルーでいいよね?』

「あー、ちょっと待って。今考え中」


 俺が答えた途端、エンドが『ガーン……』と固まった。よほど近づきたくない相手のようだ。

 その気持ちはわかるから、無理をさせるつもりはないぞー。


『フェリスが行ってくるかみゃあ?』

「いや、それはちょっと……泥に突撃するにゃんこは見たくないし……」


 こちらを覗き込むような姿のフェリスが映る。これはさっきここから出発したフェリスだな。

 フェリスが二体になって区別が面倒くさい、と思ったら、その姿が消えた。


『わかったみゃあ』

「あれ? もしかして一体に戻った?」

『結合したみゃあ』

「……そっか」


 もう何も言うまい。俺がフェリスの性質に慣れるしかないのだ。

 可愛いニャンコが減って、ちょっぴり残念な気持ちがあるのは仕方ない。まあ、どうせ魔力を吸ったらまた増えるのだろう。


 今後は複数になった時点でフェリス2号とか番号をつけて呼ぼう。数の変動が激しいなら、いちいちちゃんとした名前をつけるのはややこしいし手間だし。


『マスター、まだー?』


 いつの間にやら、エンドの前に巨大な火の壁ができていた。

 その壁に何かが飛んできてはジュッと一瞬で焼かれて、灰になることもなく消えていく。


 どうやら敵から攻撃されているらしい。

 俺が待てと言ったから、エンドはひたすらその攻撃を防いでいるようだ。


 ふむふむ、エンドはそんな能力も持ってたんだな。

 最初の頃にはなかったから、リルとの特訓中か山での魔物討伐時に覚えたのか。


 ──なんて分析するのはほどほどに、改めて敵の対処を考える。


 エンドの能力を考えたら、竜の息吹ドラゴンブレスで焼き尽くすことも可能だとは思うんだけど、なんとなくそれは勿体ない気がするんだよなぁ。


 やっぱり汚れ落としを試みてみるのがいい? なんか新事実がわかる予感がする。それがいいことかどうかはともかく。


 汚れを落とすなら、やっぱり水か光タイプの魔物だよな。

 ……どっちも仲間にいねーよ。


「うーん……エンド、もうちょっと待ってて」

『えー』


 めちゃくちゃ不満そうな声が聞こえたけど、エンドなら言う通りにしてくれるって信じてるぞ!


 とりあえず、タブレット端末を操作し、アイテムを探す。

 シャワーとかはあるんだけど、敵の汚れ落としに使えるもんじゃないよな。敵はめちゃくちゃデカかったし。


「んー、やっぱり魔物か?」


 アイテムを創作してもいいんだけど、それはちょっとつまらない。

 ということで、召喚できる魔物を探す。

 さすがに水・光タイプの魔物はそれなりにいるから、今回は創造しなくてもよさそうだ。


「念には念を入れて、どっちのタイプも召喚するか」


 水タイプとして召喚するのは水狐アクアヴォルペだ。

 三つの尻尾を持つ青色の狐に似た魔物である。もちろんモフモフ。

 尻尾の色がグラデーションになっていて、先っぽが真っ白で綺麗なんだ。

 水噴射の能力があるから、きっと活躍してくれるはず。


 光タイプとして召喚するのは光狐ルーチェヴォルペだ。

 見た目は水狐アクアヴォルペとそっくりだけど、色は白。尻尾が金混じりでキラキラしてる。

 浄化の能力持ちだ。


「召喚、と」


 ササッと召喚すると、目の前に二体のもふもふが現れた。

 狐も可愛いよな! 二体揃うと、稲荷神社の狛狐っぽくて縁起がいい気がするし。


『新しい仲間? 犬だー! 僕と一緒!』

「リルは狼で、この二体は狐だけどな。広い意味で言えば、犬系ではある」


 ブンブンと尻尾を振っているリルを撫でながら、新入りたちに視線を向けた。


あるじ、お初にお目にかかります』

『あんじょう可愛がってくれやす〜』

「なんでそんな口調!?」


 予想外な言葉遣いに、思わずツッコミを入れた。


 ちなみに、武士のような硬い感じで頭を下げたのが水狐アクアヴォルペで、のほほんと目を細めて挨拶したのが光狐ルーチェヴォルペだ。

 見た目は似ているのに、対照的な中身の二体である。


『個性やで〜』

「そっか??? よくわからないけど、とりあえず水狐アクアヴォルペのことは【スイ】、光狐ルーチェヴォルペのことは【コウ】って呼ぶな」


 簡単に名前をつけてみた。

 途端に二体がふわっと光る。どうやら名付けによる強化の効果が発生したようだ。

 元々レベル高めで召喚していたけど、ステータスが軒並み上がってる。


 まあ、強くなる分には問題ないだろ。召喚した以上は、可愛いもふもふにあっさり死なれたら嫌だし。


『素晴らしい名前を頂戴し、恐悦至極に存じます』

『いや、アンタがスイで、アタイがコウって、安直やと思わんの〜?』


 ……両極端なリアクションだ。

 コウの言葉の方がこの状況では正しいと思うけど。

 スイにそこまで嬉しいそうにされたら、もっとちゃんと考えてやればよかったと思っちゃうよ。


 ミーシャにも、若干冷たい目で見られてる気がするし。

 リルは『名前もらえてよかったねー』とのほほんとしてる。リルは常時可愛い。……いや、戦ってる時は怖いこともあるな?


「とりあえず、スイとコウは、あの魔物の対処を頼むよ」


 モニターを指して言ってみる。

 火の壁が一瞬途切れた先に魔物の姿が見えた途端、スイとコウがストンと表情を落っことした。


『……御意にございます』

『ちょっと冗談キツいんやない? あれめっちゃバッチィし臭そうや……』


 ごめんって。

 謝るから、その真顔やめて?

 それはそれとして、指示は撤回しないけど。


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