第207話 はぐはぐはぐ

 小さいフェリスたちは、おしくらまんじゅうをするようにぎゅうぎゅうと集まった後、ポンッと音を立てて一つになった。

 通常サイズより一回り小さいフェリスである。


「どういうこと??」

『小さいと動きにくいから結合したみゃあ』

「なるほど……さすがスライムをもとにしただけある、か……?」


 よくわからないけど、そういうことにしておこう。

 フェリスは分裂して増殖もするし、結合もするし、自由自在な生き物です。


『お仕事に行ってくるみゃあ』


 片手を上げたフェリスが、影兎シャドウラビに乗ろうとするのを、慌てて「待て待て」と止めた。


 そんな仕事熱心にならなくてもいいんだぞ? 休憩くらいは取りなさい。


「えーっと、フェリスが好きなものがわからないんだけど、果物とか食べるか?」


 ほれほれ、と果物の砂糖漬けを出してみる。

 これは狼族獣人から場所代として献上されているものだ。


 ダンジョン内の農地で作物を育てていると、尋常じゃないスピードで収穫が可能になる。

 狼族獣人たちが食べるのと売るのを除いても、作物が大量にできるのだ。


 それは俺がDPに変えてもいいのだが、微々たる量にしかならないし、せっかく作ったのに勿体ない。

 ということで、狼族獣人たちは独自で塩漬けしたり、砂糖漬けしたりと、大量の保存食に変えてている。

 俺もそのおこぼれを度々もらうわけだ。


 果物の砂糖漬けはなかなか美味しい。ちょっと口寂しい時とか、無心でもぐもぐ食べてしまうくらいには。

 甘いからお茶かコーヒー必須だけど。


 大量にもらうし、消費してくれる子が増えてくれればいいなー、という思いを込めて、今回フェリスに渡してみた。

 リルたちはあまり食べないんだよな。影兎シャドウラビも加工してない果物の方が好きみたいだし。


『もらっていいみゃあ?』

「もちろん。食べられるなら」


 無理はしないで、と言いながら渡せば、フェリスは嬉しそうに尻尾を揺らしながら、両手で抱えた果物の砂糖漬けにハグッと噛みついた。


 もぐもぐと口を動かす様子をジッと観察する。少なくとも、吐き出したいほど嫌いではなさそうだけど──


『……美味しいみゃあ!』

「お、それならよかった」


 ぱあっと目を輝かせたフェリスに、思わず頬が緩む。

 可愛い。小さいネコ可愛すぎる。ニマニマしちゃうぞ……。


 リルからジトッとした眼差しを感じて慌てて顔を引き締めた。

 俺が元々ネコ好きだからか、猫系の魔物を可愛がってる時は、リルが嫉妬しやすいのだ。

 リルも可愛いし、一番頼りにしてる相棒だぞー。


 ワシャワシャとリルを撫でてやると、あっという間に機嫌が回復した。その単純さも愛おしい。


『はぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐ──』

「え、待て、フェリス噛んでなくないか!?」


 気づいたら、フェリスの傍に積んでおいた果物の砂糖漬けの山が消え、残り数個になっていた。

 どこに消えたかは考える必要もない。


 フェリスが口に入れて即飲み込んでるレベルの速度で食べているのだ。

 それ消化できてるのか?


『スライムをもとにしてるから、問題ないはずにゃ』

「なるほど……?」


 ミーシャの解説に、スペースキャットな気分で頷いた。

 そっかー、見た目がスライムっぽくないから違和感あるけど、そういうものなのかー。


『くふー食べたみゃあ』

「膨らんでもないな……どこに消えたんだ……」


 観察しても、フェリスのお腹はスリムなまま。今更だけど、魔物って不思議な生き物だ。


『たくさん食べたら動きたくなったみゃあ。仕事に行くみゃあ』

「インクに見習わせたい性質だな」


 影兎シャドウラビに乗るフェリスを、今度は「いってらっしゃい」と見送る。

 まだ休憩してていいんだけど、フェリスが行きたいというなら、その通りにするのがいいのだろう。


 フェリスがモニターの向こうに合流するのを待つ間、インクは今何やってんのかね、と考えていたら、操人形マリオネに袖をツンツンと引かれた。


『マスター、ビールの追加を……』

「お、そうだな。今日はとことん飲まなきゃな!」


 せっかくの飲み仲間の帰還である。楽しく飲まなきゃ損だ。

 ということで新たなジョッキで乾杯。


 つまみにと、サクが唐揚げやさつま揚げを持ってきてくれた。

 このさつま揚げには、芋やとうもろこしなどが混ざっているのもあって、味の違いを楽しめる、つまみに最適の一品なのだ。


 最近、ロアンナが冒険者たち相手に売り出したところ、爆発的人気になっている。

 冒険者って酒好きが多いから、美味しいつまみは大歓迎されるんだよなぁ。


 しかも、海辺の町であるマーレでは、簡単に自作できるのがいいところ。

 マーレの町独自のさつま揚げもできつつあるようなので、今度食べに行きたい。


「うまー」

『美味いですねー。魚臭くなくて食べやすいです』


 操人形マリオネと酒とつまみを楽しんでいたら、今度はミーシャに袖をクイクイと引かれた。


『エンドが目的の魔物を見つけたみたいにゃ』

「あ、マジ?」


 モニターを見ると、フェリスと視界共有した映像に、ドロドロの泥の塊のようなものが見えた。微妙に目と口の線が見えるような……これ、魔物なのか?

 よくわからないけど、それはそれとして──


「……臭そう」

『にゃふっ……ひどい感想にゃ』

「いや、ミーシャも思っただろ?」


 笑うミーシャに真顔で返しながら、改めてモニターを眺める。


 リルも『あれ、近づきたくないなぁ』と呟いて顔を顰めてた。その気持ちめちゃくちゃわかる。近づいたら自分まで臭くなりそうだもん。


 つーか、あれ、なんか似てるのを見たことあるな。

 ほら、日本の国民的アニメ映画の中で、風呂に浸かったことで浄化された感じになるドロドロの川の神様。


 ……コイツも綺麗にしたら何か起きたりする?


 エンドが『うわぁ……これはスルーしようかな……』と呟いているのを聞きながら、ちょっと頭を働かせてみることにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る