第197話 楽しそうだな〜

 特殊なファイアーボールの検証後も、ミリエルは色々とやってくれた。

 最上級の魔法を使ったかと思うと、その魔法を改変して使えるかどうか検証したり、イメージによって威力が変わるか確かめたり──


 すべてを幻影で再現しなきゃいけない仮想体アバターが可哀想になってくる勢いだったよ。

 仮想体アバターは最後までよくがんばった!


[うふふ……ここで魔法の研究をしたいわ!]

[それは別の機会で好きにやってくれ……]


 この場所の魅力に取り憑かれたかのように、恍惚とした表情で呟くミリエルに、マルトがゲッソリとした感じで答える。

 マルトもがんばれー。


[定期的に国へ所在報告を入れなくちゃいけないのが残念ね。それがなければ、ここに引きこもって研究できるのに……]

[ヤベー魔物が出現した時に対処できなくなるから、所在報告はちゃんと入れてやれよ]


 呆れた様子で肩をすくめたマルトが[交代]と告げて、ミリエルを部屋の隅に追いやる。

 そして、基礎的な剣術スキル【斬撃スラッシュ】や特殊スキルの【炎剣ファイアーブレード】などを使い始めた。

 ミリエルと違い、とても常識的なスキル練習風景である。


[──よし。ここは確かに、スキルを使う感覚を掴むのに最適の場所だな。スキルを使おうとしたら、自動的に体が動くし、魔力を扱う感覚も覚えられる。これを口頭で教えんのってマジでムズいからなぁ]


 マルトが嬉しそうだ。

 普段、冒険者たちにスキル指導をすることもあるのかな? 実感のこもったコメントだった。


[そうなのよね。私が教えようとしても、結局みんな引き攣った顔になってギブアップしちゃうから嫌なのよ。今度から指導を頼まれたら、ここを使うよう勧めるわ]

[それはお前の魔法がヤバすぎるせいもあると思うぞ?]


 嘆息するミリエルに、マルトがジト目を向ける。

 俺もそう思います! 普通の人に、ミリエルが使う魔法は難しすぎる!


[そうかしら? ──まあ、それは置いといて。次の場所に向かいましょ]

[ああ。チュートリアル、だったか?]

[ええ。どんな場所なんでしょうね。初心者用のダンジョンって聞いたけど]


 二人が移動し、チュートリアルエリアの入口に着いた。

 そこにあるボタン──エレベーターの階数ボタンのようなもの──を使って、どのチュートリアルエリアに行くか選択できるようになっているんだ。


[全部で六つのエリアがあるみたいだな]

[エリア1が一番簡単な場所のようね]


 ボタン近くに設置した簡易説明文を読み、二人が顔を見合わせる。ちょっと面倒くさそうな表情だ。


[……一個ずつ確認するしかないか]

[……そうね。素早く済ませましょう]


 頷き合うと、エリア1を選択してチュートリアルに進む。

 そこで現れる魔物はレベル1〜5なので、二人にとっては障害にもならない場所だ。


 サクサクと攻略しながら、[魔物についての知識を得られるのはいいわね]とか[お、弱点を見つけてそこを攻撃する習慣を身に着けんのは大切だよな]とか、なかなかいい感想を言ってくれている。

 まあ、すげぇ面倒くさそうだけど。


 ひたすら駆けるように進み、ボスをあっさりと倒して報酬をゲット。

 報酬である回復薬は[初心者にとっては最高のプレゼント]という評価だった。ホッとしました!


 その後も次々にエリアを攻略していく二人が、唯一苦戦したのがエリア4の制限トラップだ。


[にゃんてことでしょう!]

[ブハッ!wwww]


 猫着ぐるみ姿になったミリエルが、ノリノリな感じで猫ポーズをする。

 わりと制限トラップの中でも優しいやつを拾えたな。


[……真面目に言うと、魔法が普通に使えるからなんの制限にもならないかと思いきや、視野が狭くてうんざりするわ]

[ククッ……それは、そうだろうなwwww]

[貴方、笑いすぎよ]


 爆笑して息も絶え絶えな感じのマルトに、ミリエルが呆れた感じで言う。表情は全然わからないけど。超かわいい猫着ぐるみだもん。


[わりぃ、っ……ふはっ!]

[さっさと貴方も制限トラップを引いてくれる? 検証を進めたいんだけど]

[待て待て。その格好の攻略法はどういう表示がされてるんだ?]


 チュートリアルエリアなので、各トラップに対して、攻略法が表示されるようになっているのだが、猫着ぐるみの格好に対する攻略法は俺も気になる。そもそもあるのか?


[歩き方のコツとか、周囲の警戒方法とか、いろいろ出てるわよ。でも、正直大して役に立たないわね。この制限トラップ、毎回同じものにかかるわけじゃないもの。結局、慣れと気合いで乗り越えるしかないんじゃない?]

[教えてくれてんのに、気合いなのかよwwww]

[気合いって大切だにゃー]

[ブハッwwww]


 棒読みで答えたミリエルに、マルトがお腹を抱えて笑う。

 俺が言うのもなんだけど、笑いすぎじゃね? イサムとか歩夢たちに掛けられた制限トラップの方が面白かったぞ?

 まあ、普段のミリエルとのギャップが一番の笑えるポイントなんだろうけど。


[ほら、貴方も]


 ミリエルがマルトの背中を叩いて、一歩前に進ませる。

 途端に、制限トラップが発動した。


[……おっとぉ?]

[まさかの巨大化なの?]


 通路の幅いっぱいにマルトの体が広がり、完全に四つん這いじゃないと進めない大きさになった。

 これは初めて見た制限トラップだな。


[これ、戦えなくね?]

[全部のトラップも正面から受け止めることになるわね]


 マルトが沈黙する。表示された攻略法を読んでいるようだ。なんて書いてあるんだろう?


『巨大化って、どうしようもなくない?』

『歩くだけで、通路に体が擦れて痛そうにゃ』


 首を傾げるリルとミーシャに、俺が「そうだなー」と返していると、マルトが生気の失せた目でミリエルを見た。


[……攻略法『気合いだー』だって]

[ふはっ、それ、攻略法じゃないわよ!]


 思わず吹き出して笑うミリエルに、マルトは[一応、防御用スキルとか防具とかの効果はそのままだから使えるってなってるけど、それ、元々持ってなかったらどうしようもないやつだよな……]と呟いていた。


 その感じから考えるに、マルトは有用な防御用スキルを習得していないらしい。攻撃は最大の防御、っていうタイプかな。

 防具はある程度質がいいもののはずだけど。


「幅広い種類のスキルを習得するのが、生き残るためには大切ってことだな」

『この状況でそれを教えられてもどうしようもないにゃー』


 うんうん、と頷く俺に、ミーシャが冷静にコメントを入れた。

 確かにここは、スキル練習スペースと違って、新たなスキルを練習するのに向いてないもんな。


「まあ、死なないし。最後までいけるだろ」

『死なないの?』

「あれ? 言ってなかったっけ? 死ぬほどのダメージを受けたら、魔力と体力を吸い取ってDPとして徴収するだけで、攻略を継続できるようにしてあるんだよ」


 魔力と体力は本物の体の方から吸い取るので、戻った時に若干の気怠さを感じることはあるかもしれないけど、それくらいは許容範囲だろ。


 ニコッと笑って説明したら、ミーシャが『冒険者からはもっと搾り取ってもいいと思うにゃー』と言われてしまった。


 いや、さすがにあんまり吸い取ったら、危険視されるかなぁって配慮したんだよ。今の状態がギリギリセーフだと思うから、変更する気はないぞ?


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