第196話 魔法使いの実力
[っ……一瞬で移動した、だと!?]
ベッドで目を閉じた次の瞬間に、見える景色が変わっていることに気づいたマルトが、勢いよく飛び起きる。
そして、剣の柄頭に手を当て、警戒した様子で周囲を見回した。
まあ、それ、
マルト自身の体は元の訓練所小部屋のベッドに横になっていて微動だにしてない。
[あら……実際の感覚との誤差がほとんどないわ。凄い]
慌てた様子のマルトとは対照的に、ゆっくりと起き上がったミリエルは冷静に手足を動かして感嘆の声をこぼしている。
装備も確認し[ここまでトレースできるのね]と感心した様子だから、この訓練所の仕組みは完全に理解しているのだろう。
[よくわかんねぇが、問題はないのか?]
[訓練できる場所に意識が移されただけよ。貴方も、体の動かし方に異変がないか確認しておいて。きちんと報告しなくちゃいけないわよ]
[……おう]
いまいち理解できていない様子だけど、マルトはミリエルの態度を見て落ち着き、動きの確認を始めた。
冒険者にとって、特に剣士などの肉体が武器の一つとも言える者たちにとって、少しでも体の動きに違和を感じる状態では、十全の力を発揮できない。
俺にとっても、マルトの確認に問題がないかは重要なポイントだった。
これでダメだと判断されたら、一から訓練所を作り直さなければならない。
緊張しながらモニターで観察し、マルトの報告を待つ。
[──全く問題ねぇな。これが自分の体じゃねぇとは思えねぇよ……]
やがて呆然とした様子で呟かれた言葉に、俺は大きく安堵の息を吐いた。
『へぇ、そうなんだ? 僕も体験するのが楽しみー』
『ミーシャもやってみたくなったにゃー』
リルとミーシャが『すごい、すごい』と褒めてくれて嬉しい。
ちゃんと専用の
[あとは魔法の使用に誤差がないかの検証が必要ね。とりあえず、場所を移動しましょ]
ミリエルがマルトの背中をバシッと叩いて気合いを入れ、歩き始める。
マルトは[イッテェよ!]と抗議したが、ミリエルは[痛覚も実際と変わらず、ね]とコメントしてニコリと笑った。
依頼達成に必要な確認と言われたら、マルトもそれ以上怒ることはできなかったようだ。
大きくため息をついて、ミリエルの後に続く。
「まずはスキル練習スペースに行くみたいだな」
ミリエルが入った場所を見て、俺はふむふむと呟いた。
おそらく報告のためにすべての場所を確認するつもりだろうが、スキルはどれくらい検証するのかな?
[……ここはスキルを練習して習得を支援してくれる場所のようね]
[ほー。この【スキル選択機】つーのに触ればいいのか]
看板の説明を読み、マルトがそう呟きながら黒曜石に触れた。
すると、すぐさまモニターが現れ、スキル名がずらりと表示される。
[──多くね?]
マルトがポカーンと口を開き呟いた。
やっぱそう? 俺もちょっとそう思ってたんだよなー。これ、多すぎてスキルを選ぶのムズいかも。
一応ソート機能とか、検索機能はつけてあるんだけど、どれくらい使いこなせるもんかね? 最初の看板に、スキル選択機の使い方詳細を載せた方がいいか?
[ここで系統とかキーワード検索とかができるみたいよ。スキルに関する知識を持っていれば、あまり困らないんじゃないかしら?]
あっさりと使い方を理解したミリエルが、次々にスキルを検索し始める。
何を習得したいんだろう?
[へぇ、慣れたら使いやすそうだな]
[そうね──とりあえず、魔法の基礎スキルから上級スキルまでがあることは確認したわ。一部、使用者が限定されそうな特殊魔法のスキルもあるけど……これは練習したとしても、素質がないと習得できないと思うわ]
習得したいスキルを探していたわけじゃないらしい。
調査に来ただけあって、ここでどういうスキルを練習できるのか、しっかりと確認してメモを取っていた。
[なるほど? やっぱり、ある程度スキルについての知識があること前提での利用になりそうだな]
[ここを使用する際に参考になるスキル事典の用意をさせた方がいいわね]
おお、冒険者ギルド側でフォローしてくれる可能性があるらしい。
ぜひお願いします。一応、スキル名に触れたら簡単な説明が表示されるようにしてるけど、スキルについて事前に情報を持っておいてもらう方が圧倒的に便利に使えるし。
[ギルドに報告して、要望をしないとな。──ん。剣術・体術系統もほぼ満遍なく習得可能だぞ]
ミリエルに続き、スキル名をザッと確認していたマルトが頷く。
ちょっと嬉しそうなのは、マルト自身が習得したいスキルを見つけたからかもな。
がんばって習得して、この場所の有用性をギルドや冒険者たちに知らしめてくれ!
[それじゃあ、次は使い心地の検証ね。とりあえず、すでに覚えているスキルで検証して、そのあとに未習得のスキルを試してみるわ]
[おっけー。俺も準備しとく]
ミリエルが【火魔法:ファイアーボール】を選択し、現れた的に向かい合う。
宙には魔法発動のために必要な呪文が表示されていた。
[親切ね……]
[カンペか? これなら俺でも使えそうだな]
[スキルとして魔法を習得できれば、呪文は自動的に唱えられるようになるから、カンペもいらなくなるのよね]
二人が呪文を眺めて感想をこぼす。
魔法のスキルってそういうものなのかー。俺もなんか覚えてみよっかな? DPを使えば簡単に習得できるはずだし。
──なんてことを俺が考えていると、ミリエルが杖を振って魔法を放つのが見えた。
巨大な火の塊が的にぶつかり、あっという間に焼き尽くす。
……え? これ、火魔法の基礎って言われるファイアーボールの威力か? もっと上級の魔法じゃね?
呆然とする俺と同じく、リルやミーシャも驚いた様子だ。
『ダンジョン内で他の冒険者が使ってるのと威力が違う気がするね?』
『A級冒険者だからかにゃ?』
疑問符を浮かべる俺たちとは違い、ミリエルは満足そうな表情だ。
[威力が私の想定とピッタリ一致。この再現度、凄いわね]
[……いやいやいや! 今明らかに、ファイアーボールじゃないものが出たよな!?]
マルトが消し炭になった的の方を指して叫ぶ。
この世界の知識が少ない俺たちじゃなくても、ミリエルの魔法は驚くべきものだったようだ。
[あら? 何を言ってるの。基礎魔法は枷を取り払いさえすれば、中級魔法に匹敵する威力まで引き上げることができるのよ]
[……へぇ……それって一般的じゃねぇ技術だよな?]
[そうかもしれないわね?]
ニッコリと笑うミリエルに、マルトが乾いた笑みを浮かべて[この女、こえー……]と零した。激しく同感である。
というか、最初の検証で、普通じゃない魔法を放つのやめてくれねーかな!? その攻撃を幻影で再現しなきゃいけない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます