第191話 魅力いっぱい

 じゃじゃーん! と、ある部屋をモニターに映し出す。

 それは、仮想空間内にある特別な場所だ。


『スキル練習スペース?』


 ドアから入ってすぐのところにある看板の文字を読み、リルがパチパチと目を瞬かせる。

 看板にはこの部屋の使い方も書いてあるけど、それを読むのは面倒くさいようで、俺に視線を戻した。


「そう。ここでは、覚えたいスキルを練習できるんだ」


 説明しながら、仮想体アバターを一体起動する。

 誰の意思も宿ってないけど、これ自体が魔物なので、実は自律的に行動できるのだ。冒険者を怖がらせないように、普段は制限をかけて動かないようにしておくけどな。


仮想体アバター、スキル【斬撃スラッシュ】の練習をしてみてくれ」


 コネクトを通して指示すると、仮想体アバターがスキル練習スペースに向かう。

 そして、看板の横にある大きな直方体の黒曜石──スキル選択機──に触れた。


 すぐにパッと半透明のモニターが現れる。

 たくさんのスキル名が書かれている中から、仮想体アバターが『斬撃スラッシュ』を選択。


 そのまま練習スペースの中央に行き、幻影スキルで作り出した剣を構える。

 そして、練習スペースに現れた巻藁まきわらに向かって、剣を振り下ろした。


斬撃スラッシュ


 赤い斬撃が巻藁に直撃する。

 お、なかなかいい感じで切れたなぁ。


『わあ、凄く斬れ味いいね!』

『うーん、初心者って感じですけど、筋は良いんじゃないですか』


 リルが褒め、インクが辛口評価ながらも感心した様子を見せる中、ミーシャが目を光らせた。


『……幻影にゃ』

「うん。ミーシャ正解! さっきも言ったけど、仮想体アバターは主に幻影スキルを使って、攻撃を再現するからな。あの巻藁も幻影だし」


 ミーシャの喉のあたりを撫でながら褒める。

 わかりにくい感じに喜んでるミーシャが愛しい。


『そういえば、そうだったねー』

『つまり、どういうことなんです?』


 頷くリルとは違い、インクは首を傾げていた。リルはたぶん何も考えてないな。


『お馬鹿にゃ』

『イテッ……ぐっ』


 ミーシャがインクの後頭部に猫パンチをバシッと決めた。インクの顔が地面に打ち付けられる。

 凄い勢いだったなー。

 リルが『また遊んでるのー?』とペシペシッと叩いてるけど、それ死体蹴りになってない?

 憐れ、インク……。


「ここで使えるのは幻影によるスキルだ。でも、まだ覚えてないスキルだって、ここで体験できるんだ」

『覚えてないスキル……つまり、僕がミーシャのスキルを使うこともできるってこと?』


 インクの襟首に爪を引っ掛けて起こしてあげていたリルが、きょとんと首を傾げた。


『ぐえっ……ぐふっ』


 首が締まって苦しそうに身悶えていたインクの服からリルの爪が外れる。

 あ、インクが落ちた。エビ反り状態だったから、こうなるのは最初から見えてたよな。


 顔面を押さえて『うごぉおおっ』と呻いているインクから目を逸らす。


「ああ、そうだよ。本来なら使えないスキルを、この場所では使えて、しかもそれがスキル経験値になる」

『スキルを持ってないのに、にゃ?』


 答えを理解しながらも、説明をわかりやすくするために問いかけてくれたミーシャに微笑んだ。


「ああ。持ってないのに、スキルの経験値が得られる。その経験値が蓄積すると、実際にスキルを入手できるんだ」

『ほえー、それは確かに、冒険者たちにとっては魅力的かもね』


 リルがキラキラと輝いた目で『さすが、マスター!』と褒めてくれた。

 ありがとう。ご褒美はもふもふに埋もれる至福の昼寝でいいよ。


『でもそれって、わざわざここでする必要があるんです? 普通に練習してたら習得できるもんでしょ、スキルって。相当特殊なものじゃなければ』


 インクが打ち付けた鼻を悲しそうにさすりながら、訝しげに問いかけてきた。

 おい、そんなことを言ってると、また──


『お馬鹿にゃ』

『っ、二度は食らいませんよ!』


 ミーシャが振るった猫パンチを、インクが普段とは見違えるような俊敏な動きで避ける。


 避けるのを成功するなんて珍しい! インク、よっぽど猫パンチが痛かったんだな……避け方がすげぇ必死だったもん。


 ミーシャがちょっと目を丸くして、インクは『ふふん』と鼻で笑った。


『あっ』

『ぐえっ!?』


 誇らしげに口元を緩めていたインクの顔が、再び地面に埋まった。

 リルが上げていた手を下ろした拍子に、インクの頭にぶつかったのだ。

 ……インクって、絶対不憫体質だよな。


 憐れなインクに合掌して、お供えのコーラを頭の近くに置いてから、説明を続ける。


「幻影であっても、実際にスキルを使った感覚があるから、覚えやすいんだ。体で覚える、っていうのかな。ここ以外で練習するより、遥かに効率よくスキルを習得できるはずだぞ」

『なるほどー。確かに、一度やったことがあるものの方が、コツとか覚えてしやすくなるもんね』


 リルはインクからソッと目を逸らして、なかったことにした様子で、俺の説明に頷いた。


 インクが顔を押さえて起き上がりながら、リルに恨めしげな目を向けてる。

 でも、さすがにこのダンジョンで一二を争う魔物であるリルには歯向かえないのか、ムスッと口を引き結んでいた。

 どんまい。


「そういうこと。覚えられるスキルの数もたくさん用意してあるし、ある程度高ランクの冒険者にとっても魅力的なんじゃないかな」

『イサムにも?』


 リルが出した自称勇者の名に、俺は軽く頷く。


「用意したスキルの中には罠解除・回避系のものがあって、3B階密林遺跡攻略に難航してるイサムも覚えたがるだろうし、それに何より──」


 スキル練習スペースで習得可能なスキル名をモニターに写し出して見せながら、俺はニヤリと笑った。

 そして、一つのスキル名を指す。


「【英雄剣撃ヒーロースワード】なんて、自称勇者で今現在でも厨二病な闇歴史を更新中のイサムが心惹かれそうじゃないか?」

『『『あー、確かに(にゃ)』』』


 スンッとした顔で頷くリルたちに、思わず笑ってしまった。

 みんな、イサムの厨二病をよく理解してるよな。


 釣り餌はこのスキル以外にも用意してるから、冒険者たちにはぜひイサムの耳にも届くよう、評判を広げてもらいたいな!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る