第190話 説明しよう!

 じっくりと仮想体アバターのステータスを眺めていたミーシャが口を開く。


仮想体アバターを使って冒険者たち同士では戦えるにゃ。悪用されないにゃ?』

「それは、まあ、仮想体アバターはこのダンジョン外──というか、仮想空間外では動けないよう設定してるし、問題ないはず」

『動けないの?』


 俺に覆いかぶさるような体勢で、後ろからリルがモニターを見つめた。

 いつの間に起きたのやら。

 もふもふが近くに寄り添ってくれて幸せ。


「ああ。こいつ、子機って能力を持ってるだろ? 冒険者たちが実際に触れるのは、その能力で作った仮想体アバターの子機なんだ」


 アバターの子機って、ちょっと意味がわかりにくいけど、冒険者のステータスをコピーするための媒体と理解してもらえれば間違いない。


「──子機を通して実際に意識を憑依させるのは、仮想空間内にある親機の方。冒険者は親機の仮想体アバターを操作して、仮想空間内で訓練するわけだ」

『んん? ……なるほどー』


 リルが本当に理解したんだかよくわからない感じで頷く。

 ちょっと説明が下手だったかもなー、と思って、実際に作ったものを見せてみることにした。


 まず仮想体アバターの子機が置いてあるところを。


「これを見てくれ」


 モニターに映し出したのは、まだダンジョンと接続していない仮設置状態の空間だ。


『ここは〈訓練所〉です』と書かれた看板の奥に、いくつもの個室が並ぶ長い廊下がある。


 個室の扉には〈空き〉〈使用中〉の表示があり、個室内に人がいるかどうかで切り換わるようにしている。


 看板の近くには、訓練所の利用方法を書いておいた。


 個室の中には六つのベッド。

 どんな体格の者でもできる限り使えるように、大きめのサイズのベッドにしてある。

 ベッドが六つなのは、パーティ単位で訓練できるようにするためだ。

 たいていのパーティが六人以下で構成されてるから、基本的に問題はないはず。


「このベッドが仮想体アバターの子機なんだよ」

『えっ、ただのベッドにしか見えないよ?』


 リルが驚いた様子で声を上げた。

 その反応に俺は満足です。

 仮想体アバターの子機であるベッドが、冒険者たちに警戒されることがないよう、めちゃくちゃ調整をがんばったからな!


「だろー。でも、子機であるこのベッドで横になると、自動的にその意識を取り込んで、仮想空間内にある親機の方へ送ることができるんだ」


 もう一つのモニターに、まだ未完成の仮想空間を映し出す。

 それはダンジョン初期空間の真っ白な立方体で、その中央にあるベッドで、六体の仮想体アバターが目を閉じて横になっていた。


「これが親機──仮想体アバターの本体な。冒険者の意識が憑依すると、本人同様の見た目と能力を再現した状態で目覚める」

『ほえー、なんか凄いねー』


 リルが理解を諦めてる気がする。

 かろうじてインクとミーシャは理解してくれたようで、『面白い仕組みですね』『ちょっと怖いにゃ。ミーシャは体験したくないにゃ』と感想をくれた。


 ミーシャの感想はひどい気がするけど……俺もわからないでもない。

 めっちゃSFって感じだよな。


 まあ、冒険者たちにはここまで詳しく説明する気はないので、訓練所においてある説明は簡潔にまとめてある。


〈ベッドに横になると、仮想空間内で訓練を行えます〉

〈仮想空間内での戦いで怪我などをしても、実際の体に影響はありません〉


 って感じで。

 意識の憑依がどうこうなんて説明をしたら、怖がる人が多そうだからな。この説明なら、ダンジョンの死に戻りシステムとの違いがあまりなくて、怖さも少ないはず。

 沈黙は金なり、ってことだ。


仮想体アバターの能力変動って能力は、冒険者ごとにステータスを変える仕組みってことでいいにゃ?』

「そうだ。現実同様のステータスを仮想体アバターに写し取るってことだよ」

『仮想空間内なら、どんな能力も仮想体アバターが発揮できるにゃ?』


 ミーシャが不思議そうに首を傾げる。

 そこがこだわりポイントだったから、俺は「よくぞ聞いてくれた!」と満面の笑みを浮かべた。


「もう一個、幻影って能力があるだろ?」

『あ、それ、ミーシャも気になってたにゃ』

「お目が高い! 仮想体アバターは冒険者から読み取った能力を実際に発揮するわけじゃなくて、幻影として仮想空間内で発現させるんだ」

『……にゃ。それは、つまり、仮想体アバターの攻撃には、実際の攻撃力はないってことにゃ?』

「その通り! さすがミーシャは理解が早いな〜」


 納得したように頷くミーシャを見て、俺も満足した。

 でも、リルとインクは理解できていないようなので、説明をすることにする。


「そもそも仮想空間であろうと、敵としての魔物が消費されたら意味がない、ってのはリルたちもわかるだろ?」

『うん。DPを消費しちゃうからね』


 頷いたリルを褒めるために、鼻筋をよしよしと撫でた。

 リルが嬉しそうに目を細めて尻尾を振る。


「だから、敵は幻影の魔物にしてあるんだ」

『なるほどー』

「幻影の魔物を本当に攻撃する必要はないだろ? つーか、仮想体アバターに冒険者同等の能力を実際に持たせるのは大変だし。幻影にダメージを与えるなら、幻影の攻撃で十分なんだ」


 例えば、冒険者が斬撃スラッシュ──剣を振り、斬撃を飛ばす──という能力を持っていたとする。


 仮想体アバターはその能力をトレースして、仮想空間内で幻影の斬撃スラッシュを放つことができる。

 その攻撃を受ける敵も幻影だから、斬撃スラッシュから受けるダメージ量を算出して、幻影に損傷を負わせたように見せる。


 ──という感じで、まさしくゲームの世界のように、敵とバトルすることができるのだ。


『凄いねぇ。それなら、DP消費は最初に仮想空間や仮想体アバターを作る時だけで済むんだ?』

「おう。幻影を作るのは、ほぼDPを消費しないからな」


 ニコッと笑って俺が言うと、リルは『マスター、頭いいー!』と褒めてくれた。ありがとな!


『冒険者たちは幻影の魔物たちを相手に、戦闘の仕方を学ぶことができる……でも、それだけだと利点が少なくないですか?』


 首を傾げたインクに、俺は訓練所説明の看板を指し示した。


「倒した魔物の数に応じて、経験値を渡すようにしてる。これは、冒険者が実際の魔物を倒したり、死に戻りしたりして消費するDPより、遥かに低いDP消費で実行できるんだ」


 正直、冒険者の滞在で得られるDPを考えたら、塵ほどの量のDPである。

 それでも、冒険者にとっては大きな利点だと感じられるだろう。


「──冒険者にとっての魅力はもう一つ」


 とっておきのシステムを説明しよう!

 ニッと笑った俺を、リルたちがきょとんとした顔で見つめ返した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る