第189話 作成開始

 ダンジョン運営用のタブレット端末を操作し、ミーシャが提案した〈訓練所ゲーム空間〉を作れるか探る。


 一応、ダンジョン内施設を仮設置するための仮想空間システムはあるんだけど、そこに部外者を入れられるものだろうか。


 そもそも、最大効率を求めるなら、死に戻りによるDP消費を避けるため、冒険者たちを仮想空間に非実体として取り込む必要がある。

 つまり、現実同等の感覚で操作できるアバターを作成する機能が必須なのだ。


「いや、そんな上手い話はねぇだろ……」


 ポチポチとタブレット端末を操作してみるも、仮想空間構築という機能は見つけられたが、意識を取り込めるアバターはなかった。


「んー……仮想空間内で動くアバターなぁ……」


 頭を悩ませながらポツリと呟く。

 それに対し、不意にリルが『あっ』と声を上げて目を輝かせた。


『アバターなら、木偶ドールを使うのはどう?』

木偶ドール? それは俺が意識を乗り移らせて操る魔物だから、冒険者は使えないけど──なるほど?」


 リルに答えながら、わりといいアイディアなのでは、と思い直した。


 俺が狼族獣人と面会する時やダンジョン外を散策する時に使った木偶ドールは、ステータスが高くない代わりに、意識を乗り移らせてまるで自分の体のように操作できる魔物だ。


 今のところ、その能力はダンジョンマスターである俺にしか適用できないが、それは先ほど発見した〈魔物創造〉システムを活用すればなんとかなる気がする。

 というか、〈魔物創造〉システムを使えば、より良い感じにできるんじゃないか?


「ちょっとやってみるから、待ってて」

『はーい』


 提案をしてくれたリルと、そもそもの発案者のミーシャに、ご褒美としてジャーキーを渡した。


 リル用に作った超巨大ドラゴン肉ジャーキーは、もはや見た目が木切れ。

 とてつもなく硬そうなそれを、リルが嬉しそうにカミカミしている。


 ミーシャには普通サイズのドラゴン肉ジャーキーな。

 さすがにリル用のを渡すのは、ご褒美ではなく嫌がらせになる。


『はぐはぐ……うまうま♪』

『にゃにゃっ……噛みごたえが程よいにゃあ♡』


 気に入ってもらえて何より。

 可愛いもふもふたちを眺めてのんびり過ごしたい気持ちをグッと堪えて、俺は改めてタブレットに向き合った。


 魔物創造のシステムを呼び出して、木偶ドールを素体として、魔物の改変を試みる。


 とりあえず、現時点の木偶ドールのステータスがこれ。


——————

種族名:木偶ドール

レベル:1

能力:遠隔操作(ダンジョンマスター専用)

——————


 ……うん、めっちゃシンプル。

 このステータスを弄って、能力をちょちょいと改変しまして、自動的に見た目も意識主に由来するよう変更しまして──


「……お、いい感じじゃないか?」


 集中して作業したら、いろいろこだわってしまって、完成までに時間がかかった。


 リルは巨大なジャーキーを食べ終えてお昼寝しているし、ミーシャは丹念に毛繕い中。エンドは子(?)のエナガと楽しそうに戯れてる。


 みんながめっちゃ寛いでて、見てる俺も癒やされる。難しいことを考えずに、俺もほのぼのダラダラしたいよ。


『完成したんですか?』


 いつの間にやらインクがやって来ていて、影兎シャドウラビに群がられ踏みつけられた状態で問いかけてきた。

 もはやその状態に慣れて、嘆くこともないインクに、俺の頬が引き攣る。


 男夢魔インキュバスってそれなりに強い魔物のはずなのに、このダンジョン内でヒエラルキーが低すぎて哀れ……。


「……ああ。インクも見るか?」

『見ます。影兎シャドウラビたちが退いてくれるなら、ですけど……』


 インクがそっと窺うように影兎シャドウラビたちを見る。

 影兎シャドウラビたちは『しんぎ〜!』と宣言し、インクの上で顔を突き合わせて審議を始めた。


『インクにみせる〜?』

『ひつようなくない〜?』

『インクがみたところで、なんのやくにもたたないよ〜』


 影兎シャドウラビたちのインクへの評価が辛辣すぎて草。

 インクが遠くを見て黄昏れる。


『みたいなら、みせれば〜?』

『ちょっとくらい、ボクたちからかいほうしても、いいよ〜』

『インクとあそぶの、あきたしね〜』


 優しい子もいるな、と思ったのに、『飽きた』という言葉に影兎シャドウラビ全員が頷いたのを見て、俺は乾いた笑みしか作れなかった。

 やっぱり影兎シャドウラビたちはシビアだ。


『しんぎ、しゅうりょ〜』

『ボクたち、モフタマとあそんでくるね〜』


 シュパッと手を上げた影兎シャドウラビたちが、モフタマの方へ駆けていく。


 ウサギの足跡だらけになって、地面に伏したままのインクが、一層憐れに見えた。置いてきぼりをくらったような雰囲気だな。


「解放されてよかったな?」

『……本当にそうですね』


 ちょっぴり寂しそうな顔をしてる気がするインクから目を逸らし、新たに作った魔物木偶ドール改──仮想体アバターのデータをモニターに映した。


——————

種族名:仮想体アバター

レベル:意識主により変動

能力:憑依受容ミディアム、子機、能力変動、幻影

——————


 ステータスを見たインクが『なるほど?』と言いながら首を傾げる。

 これ、見ただけじゃ理解できないよな。


 説明をしようとしたところで、毛繕いを終えたミーシャが近づいてきて、俺に体を擦りつけてからおすわりした。


憑依受容ミディアムというのが、冒険者たちの意識を乗り移らせる能力かにゃ?』

「うん、そう。仮想体アバターに触れた者の意識を取り込むことができるんだ。仮想体アバターが攻撃を受けても、意識主の本当の体には一切ダメージを負わない」

『……よく考えると怖い能力にゃ』


 大枠の計画を立てたミーシャがちょっと引いてるのはなんでだ。

 それに、インクがあからさまに頬を引き攣らせてる気がする。


『これ、マスターへの攻撃に使われませんか? ダメージを気にせず他者を攻撃できることになりますけど……』


 難しそうな顔で言うインクに、俺は肩をすくめた。


「問題ない。これは俺の魔物だからな。ダンジョンの仕様上、ここに所属してる魔物は俺と敵対できない」

『あ、そうでしたね。それなら大丈夫でしょう』


 普段俺を守ろうなんて素振りを見せないインクだが、こういう場面では俺の安全性を気に掛けるくらいの意識はあったらしい。

 ちょっと感心してしまった。


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