第177話 羞恥心を捨てないで(泣)

 神殴ろうぜ計画の一つ目が『ダンジョンの影響力を強めて、神への信仰心を削ろう!』に決まった。

 ……うーん、これ、ほんとにそんなに効果出るかなー?


「他国での信仰心を削ることについては、俺たちに任せて」

「あ、マジ? 何すんの?」


 歩夢が自信ありげに言うから、興味を引かれて問いかける。

 勇者の超人的能力で何かするのだろうか、と思ったのだが──


「うん、まずは俺が魔女とか魔法少女とかの仮装をして行動してみる」

「ちょっと待てーいっ!」


 真面目な顔でおかしなことを言った歩夢に、反射的にツッコミを入れた。


 歩夢は「どうしたの?」と不思議そうな顔をしてるけど、マジでヤバいこと言ってる自覚がねぇのか? え、人として捨てちゃならない羞恥心はどこ行った?


「アレックス……」

「うわぁ……マジかぁ……でも、意外とダンマスがこっち側でありがたい……? いや、コイツが仮装を渡してきたのが原因だわ。むしろ戦犯だわ……」


 眉根を寄せて頭痛に耐えるような表情をしているリーエンと、白い目を向けてくるドロンから目を逸らす。


「……仮装はダンジョンがランダムで出しただけで、決して俺が選んだわけじゃないんですぅ……」


 言い訳してみるけど、これで罪から逃れられるとは思えない。

 親友を変な道に迷い込ませてしまった罪はデカすぎる。


「あなたの趣味ではないの……?」

「はい! 俺の趣味ではありません!」

「……そう」


 力いっぱい頷いたけど、リーエンが完全に納得してくれた感じはしなかった。

 ダンジョントラップのせいで俺が誤解されている。これ、修正可能か?


 遠い目をしながらも、なんとか人の道に踏みとどまってもらおうと、歩夢に説得を試みた。


「なぁ、歩夢。そんな仮装して行動したら、勇者のイメージが台無しで、つまり、お前が蔑まれる可能性があるんだぞ?」

「うん、わかってるよ。勇者=神殿の象徴になってるんだから、俺の評判が悪くなることは神殿に大打撃を入れられることに繋がるし、いいことだよね!」

「肉を切らせて骨を断つ作戦か……覚悟ガンギマリすぎでは……?」


 イイ笑顔で言う歩夢から、俺は目を逸らすしかなかった。

 デメリットを認識した上で決断されて、それを翻意させるのは難易度ハードすぎだろ。


 ドロンとリーエンも死んだ魚のような目をしながら、あはは……と乾いた笑い声を漏らすのみだ。

 二人は絶対に巻き込まれるんだから、もっと気合い入れて歩夢を説得してくれ!


「えっと……そうだわ! 他国については、このダンジョンの美食が広がって、影響力が大きくなれば、ダンジョンは滅すべしという神殿の教えに背く者が自然と増えるんじゃないかしら。つまり、信仰心の低下、よ!」


 リーエンがなんとか気を取り直して言った。俺に同意を求める目が必死過ぎて、涙が出そう。

 マジで俺の親友が面倒をかけて悪いな……。


「お、おう、確かにそうだよ! アレックスがヤバい仮装をしなくても、それでなんとかなるって!」


 ドロンがリーエンの提案に乗っかって、歩夢の説得にかかる。

 その調子でがんばれー!


「俺もがんばるよ。とりあえず、他国への販路を広げてもらうよう、マーレの町長に依頼するところからな」

「まあ、ありがとう、ダンジョンマスター!」

「さすがダンジョンマスターだぜ!」


 大げさに持ち上げてくれるリーエンとドロンに、俺はサムズアップして応えた。

 今だけ、俺たち三人の団結力がめちゃくちゃ強固になってるぞ。

 目指せ、歩夢を人の道にとどまらせる、だな。


「えー……確かにそれで多少は効果があるだろうけど、ちょっと迂遠すぎない? 時間がかかりすぎると思うなぁ」

「急いては事を仕損じる、だよ! 急がば回れとも言うじゃん!」


 ことわざって大事な概念を教えてくれるんだぞ? あんまり逆らうもんじゃないよ。

 ──そう説得を続けたら、歩夢はなんとか提案を撤回してくれた。


「流星がそんなに言うなら、わかったよ……」


 ちょっと不承不承な感じなんだけど、お前、そんなに仮装したかったのか……? 何がお前をそこまで駆り立てるんだ……。

 まあ、いつかやらないとは限らないけど、当面の間は回避できただけよしとしよう。


「あ、信仰心を削るっていう点で、もう一個いい案があるんだけど」


 不意に歩夢が表情を輝かせて手を挙げる。

 その笑みに嫌な予感がするのはしかたないよな。さっき歩夢はとんでもない提案をしたばっかりだし。

 とはいえ、聞かないわけにはいかないので──


「……どんな?」


 ドロンとリーエンと目を合わせて、尋ねる役目を押しつけあった末に、俺が負けた。


 くそっ、俺が一番長い付き合いだからってー! 歩夢のこんな変なところを知ったのは、こっちの世界に来てからなんだぞ!? 耐性なんて、俺もないんだからな!


「流星が作った〈もふもふ教〉──もっと広めてみない?」

「ぱーどぅん?」


 思わずポカーンとしながら首を傾げた。

 え、もふもふ教? って、あれだよな。宗教学者たちをからかうために3B階密林遺跡に作ったなんちゃって宗教。

 それを、もっと広める……?


「──マジで言ってる?」

「超マジだよ?」

「マジの顔じゃぁん……」


 途方に暮れた気分で歩夢から視線を逸らしたら、きょとんと目を丸めてるリルの横顔が見えた。


 ……はあー可愛い、もっと推し活しよ。


 だいぶ現実逃避してるのは自覚してるから、ドロンとリーエンはそんなに強い目で『さっさと止めろ!』って訴えてくるのはやめてほしいな。


 絶対、今度こそ無理だよ!


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