第176話 偽神の弱点を探ろう!
戦うためには、まず敵を知ることから始めなければならない──ということで、神殿に所属している三人に情報の提供を求める。
「うーん……偽神が女神だということはわかってるんだけど」
「召喚される時に、歩夢は会わなかったのか?」
「会ったといえば会ったかな。でも、一方的に勇者として召喚するって言われただけで、すぐにこっちに送り込まれたんだよ」
歩夢はあまり有力な情報を持っていなさそうだ。
ドロンとリーエンは──と視線を向けてみるも、二人は肩をすくめる。
「俺は神殿の教えくらいしか知らねぇぞ」
「私もよ。教典を渡すことならできるけれど」
そう言いながらリーエンがアイテムバッグから分厚い本を取り出す。
その題名を見て、俺が反射的に顔を顰めちゃったのはしかたない。
俺をこの世界に送り込んだ邪神とは違うとはいえ、同じ神のくくりに入るやつの教えなんて、正直知りたくないからな。歩夢をこの世界に誘拐してきたヤツでもあるし。
『うわー……今すぐ噛み噛みしてボロボロにしたい……』
「ばっちぃからやめなさい」
グルルゥ、と唸るリルの頬のあたりを撫でて宥める。
俺のために怒ってくれるだけで嬉しいぞー。さすが俺の相棒だなー。
リルと戯れてほのぼのとしていたら、歩夢にクスクスと笑われた。
ドロンとリーエンはちょっと引いた顔をしてる。なんでだ。もふもふが可愛くて癒やされるのは、万国共通の感覚だろ?
「それ読んでも、大したことは書いてないよ。要約すると、『魔物は人類の敵』で『ダンジョンは悪の巣窟』だから倒すか支配下に置け、って感じかな」
「おっけー。絶対読まねえ!」
リーエンが取り出した本は受け取り拒否。
それに対して「当然よね」と頷いたリーエンは、俺への理解が進んでいるようだ。
「うーん……邪神がどこにいるか、流星は知らないんだよね?」
「知ってたら、今頃そこに乗り込んでボコボコにしてる」
歩夢に俺が真顔で答えると、ドロンが顔を引き攣らせて「殺意100%……」と呟いた。そうですが、なにか問題ある?
「俺も偽神がいる場所は知らないからなぁ」
「というか、神ってこの世界とは別次元の場所にいるもんじゃね?」
「あ、流星もそう思う? そうなると、殴り込むのはさらに難しくなるよねぇ」
俺と歩夢の『邪神と偽神を一発殴ろうぜ♪計画』が頓挫しかけている。
まさかダンジョンマスターと勇者の力を合わせても、神に対抗するのは無理だというのか……!? クソぉ……神め、卑怯だろっ! ──と脳内ナレーションを入れて遊んでみた。
このくらいふざけないと、怒りが表に溢れてしまいそうなんだよなー、あっはっはー。
『マスターが密かに怒りに燃えてる……僕がなんとかしなくちゃ……!』
リルが俺の内心に気づいて、アワアワと慌て始めた。
ごめんなー、リル。ほっといてくれたら、きっと静まるから。無理しなくていいぞー。
「ねえ、ちょっといい?」
リーエンが軽く手を挙げる。
なんだろ? つーか、手を挙げて発言権を求めるとか、お行儀いいな。
「どうしたの、リーエン」
歩夢が尋ねると、リーエンがまだ仕舞っていなかった教典を開き、序盤に書かれている文章を指し示した。
うげ、それを読めって? 神アレルギーが出そうなんですけど。
俺が盛大に顔を顰めて、ゴキブリを見るような目で教典を見下ろすと、ドロンが苦笑しながら該当箇所を読み上げてくれた。
「『信仰の力が神を神たらしめる。安定した世界のために、信仰を忘れることなかれ。いついかなる時も神の偉大さに感謝し、その素晴らしさを世界に知らしめるべし』……ふーん」
ドロンは目を眇めて、「──そういや、こういう文言あったな。クソだりぃ」と呟く。
マジ共感。リルと一緒に、「クソだな」『クソだね』と頷き合っちゃったよ。
歩夢も頷きながら、リーエンに視線を戻す。
「それで、これが何?」
「この文章を読み解くと、信仰の力が神の力の源になっていると考えられない?」
「っ……なるほど」
リーエンの言葉に、歩夢が目を見張ってから納得した様子で頷く。
歩夢の目がキラキラしてるなぁ。活路を見出したって感じだ。
「えーっと、それは、信仰心を削ぐことで、神の存在感を消そうってこと?」
俺の理解は間違ってないよな? だいぶ遠回りな仕返しだけど、どこにいるかも定かではない相手には、これくらいの嫌がらせから始めるしかない、か。
「そうね。ただ問題は、神殿の影響力は世界中に広まっていて、かなり根強いってことよ」
リーエンがそう答えると、ドロンが「いや」と首を横に振った。
「少なくとも、この国では影響力が落ちてきてる」
「えっ……」
言葉をなくして驚くリーエンに、ドロンは肩をすくめる。
歩夢はドロンの言葉に何を読み取ったのか、俺に視線を向けてニッコリとイイ笑みを浮かべた。
「それは、流星の──正確に言うなら、このダンジョンのおかげだね」
「あ、マジ? そんなに外に影響を与えてんのか?」
「うん。自覚してなかった?」
ジトッと見つめられて、俺は歩夢から目を逸らした。
自覚してないこともないけど、今の話題に出てくるほどのもんでもないと認識してたんだよなぁ。
俺の予想以上に、このダンジョンの影響力はデカくなってたみたいだ。
「つまり、このダンジョンがもっと活躍すれば、少なくともこの国での神殿の影響力、ひいては信仰心を低下させられるということね……」
リーエンの言葉に、俺は「マジかぁ……」と呟く。
別に言われた通りにすることに反対するつもりはない。というか、今まで通りにやってればいいだけな気がするし。
だからといって、それが神へ一矢報いる行為になるということに、なんとも言えない思いが込み上げてくるのも仕方ないはずだ。
「神って、意外と弱っちい……?」
ボソリと呟いた俺の言葉を聞き取れたのは、一番近くにいて聴力がいいリルだけだった。
そんな弱っちいヤツにいいように扱われたなんて、悔しいぞ……。
『マスターにかかれば、神なんてスライム以下だよ!』
「いや、神と比べるのはスライムが可哀想だろ」
『それもそっか。じゃあ、塵屑以下ということにしようねー』
可愛い声で楽しそうに厳しいことを言ってのけるリルに、俺はハハハ……と乾いた笑みを浮かべた。
慰めてくれるのは嬉しい。
でも、俺が過剰評価されている気がしてならない。凄いのはリルを筆頭にした魔物たちだと思うよ。
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