第178話 ここから始まる──

 ……予想通り、歩夢の意志に負けました。

 つまり、もふもふ教の世界進出がほぼ本決まりになったということです。


「うあー、マジかぁ……」


 俺は遠い目をしながら、精神回復を試みてリルを撫で回す。

 リルは『えへへ、気持ちい〜』と目を細めて尻尾をブンブンと振ってた。可愛い。ちょっとお馬鹿なところが、リルのいいところだよな。


 ……ミーシャや影兎シャドウラビたちが恋しい。

 俺、おうちかえるぅ……。


「あー……うん、まあ、仮装よりは、マシか……」

「妥協できなくはないわ……」


 思いっきりしかたないって感じを漂わせながら、ドロンとリーエンが目を伏せていた。


 言っとくけど、お前らが歩夢の説得を諦めなきゃ、1%くらいの確率で歩夢を翻意させられたはずなんだからな!


 ……確率低すぎて絶望したって? 同感です。俺も諦めました。


「現実的な話、もふもふ教を世界に広めるには、もっとがんばらないといけないと思うわよ?」


 真面目な顔で話し始めたリーエンを、俺とドロンは尊敬の眼差しで見つめる。

 リーエンの精神、起き上がり小法師並みにタフじゃん。さすがエルフ(?)。


「確かに、新興宗教なら明確に現世利益がないと、なかなか広がらないだろうね。実際、このダンジョンを中心にもふもふ教徒が増えているのは、獣系モンスターから襲われなくなるっていうお守りをもらえるからだし」


 歩夢が冷静に分析する。


 そーですねー。冒険者たちのもふもふ教加入率、現時点でヤバいくらい高くなってますもんねー。あいつらがマジでもふもふ教を信仰しているとは思えないんだけどもー。


 ──なんて脳内で返したが、現実は俺の認識を上回っていたらしいことが、歩夢に続いて発言したドロンたちの言葉で判明した。


「だな。マジで『もふもふ教最高!』って、神殿への信仰心ゼロになってるヤツもいるみてぇだし」

「そうね。やっぱり現世利益があるのは強いわ。元々マーレ町周辺は宗教的に自由だから、教徒の数が急速に増えているのも不思議ではないのよね」


 え、もふもふ教なんてテキトーに作った宗教をマジで信仰してるヤツって、ほんとに多いの?

 この国のヤツら……つーか、この世界の人の精神ヤバすぎない?


 ドン引きしてる俺を見て、歩夢が苦笑する。


「流星……心して聞いてほしい」

「なんだよ、その言い方怖いじゃん……」


 真面目な顔で歩夢に言われて、俺はちょっと身構えた。

 お前、今度は何を言い出すつもりだ?


「この世界の人間、マジで単純で馬鹿ばっかり」

「……それ、人間の味方で希望である勇者が言っていい言葉じゃないと思うんだよなー! もっとオブラートに包んで!」


 なんとなく察していたけど、そんなハッキリと現実を突きつけるな。

 そんで、ドロンとリーエンは目を逸らすな。ちょっとは否定してくれ。


 嘆く俺に、歩夢はアハハと笑いながら言葉を続ける。


「だから、ほんとに、もふもふ教を広げるのは効果的だと思うんだよね。偽神から信仰を奪い取ろうよ」


 強い光を忍ばせた歩夢の目を見て、俺がどうしてその提案を拒めようか。

 一番偽神から被害を受けている歩夢がそうしたいと言うんだから、親友としてできる限り協力したい。


「……わかった」


 頷いた俺に、歩夢が嬉しそうに笑う。

 その笑みを見たら、やっぱりこうして再会できて協力しあえるというのが改めて嬉しくなった。


「じゃあ、現世利益として、もふもふ教の教徒にお守りを渡す準備、よろしく。できたら、ダンジョン外に支所が欲しいな。あ、他国に支所を作るのは協力するから」

「……って、おいー! なに勝手に決めてっ」

「もふもふ教を広げるためだよ? 流星の仲間が増えるよ?」

「うぐっ」


 とんでもなく面倒くさそうじゃん、と思って制止しようとしたけど、あっさりと負けてしまった。


 ……もふもふ教が広がれば、歩夢の復讐の役に立つ。

 ついでに、もふもふ愛に溢れた仲間が増えて……え、マジで素晴らしいことでは?


 というか、今の時点でもふもふの素晴らしさを理解できてない可哀想な人たちを救うためにも、全力でもふもふ教を広げるべきでは?

 もふもふ教創始者として、憐れな人類に慈愛を示すべき!


「オッケー、全力でお守り用意してやろうじゃん……!」


 フッフッフッ、と笑いながら言ったら、歩夢が「それでこそ流星!」と拍手してくれた。

 もっと慈悲深き俺を崇めていいぞー。もふもふの素晴らしさを教えてあげるなんて、俺、いいやつすぎでは?


「やっば……ダンマスまで狂っちまった……」

「どうしてなの……」


 手始めに、顔を引き攣らせている二人にもふもふの素晴らしさを教えてあげましょう。


「おいでー、もふもふ」


 ダンジョンマスター能力を使って手招きしたら、ポンッと煙を放ちながらモルモットのような魔物が現れた。

 影兎シャドウラビほどヤバい魔物じゃなくて、適度に弱くて最高のもふもふなんだぞ。

 二人とも、これで癒やされるがいい!


◇◆◇


 最初は困りきっていた二人が、次第にもふもふの魅力にやられていくのを観察して、やはりもふもふは素晴らしいと再認識した。

 もふもふ最高! 愛してる!


 二人を観察しているだけじゃなくて、ちゃんと歩夢と計画を煮詰めたぞ。

 もふもふ教を広めるには、お守りだけじゃなくて、もふもふの素晴らしさを体感させるのが必要だっていう認識で一致した。


「もふもふ教の支所に、もふもふとのふれあい広場を作ればいいんだな!」

「……うん、そうだね。その場所に危険がないことは、俺が勇者として明言しておくから、問題ないと思う」


 歩夢の勇者としての名声があれば、魔物への忌避感もどうにかなりそうだ。

 目指せ、もふもふ愛の世界侵略! もふもふの魅力で偽神なんて滅ぼしてやるぞ!


 なぜか歩夢が遠い目をしてるんだけど、話し過ぎて疲れちゃったのか?


 お前が始めた物語だろ。しっかり最後まで責任を持って付き合ってくれよな!


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