第175話 いぇーい、仲間ー

 ソファセットのローテーブルにはお菓子と軽食とお茶が並ぶ。

 もちろん俺が用意したものだ。


 お茶は緑茶。

 日本にいた時はたまにペットボトルのお茶を飲む程度だったけど、こうして日本を離れると、なぜか急須で入れたお茶を飲みたくなるんだよなぁ。


「はあ……うま……」

「ディス・イズ・和……」

「わかる……」


 俺がお茶を飲むと、同じタイミングで湯呑みを傾けていた歩夢が、しみじみとした感じで英語混じりの感想をこぼした。

 完全にカタカナ発音の英語さえ、日本を感じて懐かしいよ。


「この二人が共感してるのがマジで意味わからん……さすが同郷……」

「特殊なお茶だっていうことはわかるけど……」


 ドロンとリーエンは奇妙なものを見る目で俺たちを観察していた。

 いいんだよ、二人がわかってくれなくたって。これはこの場で俺と歩夢だけが共有できる感覚なんだから。


「歩夢、まんじゅうと煎餅あるぞ」

「神か」

「ダンジョンマスター様だよ」

「なるほど。新たな神だな」


 馬鹿みたいな会話をしながら、まんじゅうを食べてあんこの甘さにほっこりし、緑茶を飲んでまったりして、さらに煎餅を食べて日本に思いを馳せた。

 やっぱり俺の故郷は日本だな……。


 食で一番懐かしさを感じるところが、ザ・日本人って気がする。

 日本人は食のこだわりが変態的だって、世界で評判になるくらいだからな。


『わあー、勇者がマスターの友だちだって、今一番納得してるよ、僕』


 リルにちょっと呆れられてる気がする。

 最初のピリついた戦闘モードがゼロになるくらい、俺たちのほのぼのさが伝わっているらしい。

 でも、呆れるのはやめて。リルに呆れられるのは悲しくなるから。


「ねぇ、あなたたち、奇跡的な再会なんでしょ? もっと感動的な雰囲気にはならないの?」


 リーエンがドン引きした感じで言った。

 言われてみると、確かにそうだな? 俺も、もっと涙が溢れる感じの再会になると予想してたんだけど──


「……流星の昔とほとんど変わらない姿を見たら、なんか田舎のばあちゃん家に帰ったみたいな安心感の方が強くなって、つい」

「わかる。歩夢の見た目は激変してるけど、会ったら完全にお前だってわかるから、安心する」


 歩夢と真面目な顔で頷き合った。

 まあ、俺はこれまでずっと歩夢の姿を見てたから。ちょっと今更って感じも無きにしもあらず。

 歩夢の方は、もっと感動してくれてもいい気がするけどな?


「それに、会って早々に、流星がもふもふ愛で満たされて幸せそうなのが伝わってきたから、流星だなぁって納得したんだよな」

「原因はリルか」

『僕?』


 きょとんと首を傾げるリルに、俺は反射的に目を細める。

 リルは常時可愛い。もふもふ最高。


「いや、半分くらい、原因は流星だろ」

「それもそっか。安心した?」

「した」


 頷いた歩夢が、僅かに目を陰らせて肩をすくめる。


「──日本で死んだんだって聞いて、密かに心配してたんだけどな」


 ポツリと呟かれた言葉に、俺はじわっと目頭が熱くなった。

 ……うん、歩夢が心配してくれたこと、俺もわかってたよ。だからこそ、今がそれなりに幸せだって見せようと、いつもよりオーバーにもふもふ愛を表現してたし。


「ありがとな。俺、ダンジョンマスターになった経緯はともかく、今は幸せだぞ?」


 俺が微笑んで告げると、歩夢は再び表情を和らげた。


「そっか。それならよかった」


 そう応えた後すぐに、少し顔を引き締めた歩夢を見て、俺も姿勢を正す。


「──ということで、その経緯ってやつ、改めて聞かせてくれ」

「りょうかい。お前が勇者になった経緯も、あとで話してもらうぞ」

「もちろん。ぜひ聞いてほしい」


 真剣な顔で頷き合う。

 よし、これからは対神作戦の話をしようじゃないか。思い出にひたるのはその後な。


◇◆◇


 お互いの事情を洗いざらい話した後、色々と考えることがあって黙り込んだ。

 俺たちの会話に口を挟まず、黙って聞いていたドロンとリーエンも厳しい顔をしている。


「流星をダンジョンマスターにした自称神、か……」

「おう。そいつ、お前を勇者として召喚したやつと同じだと思うか?」

「どうだろう?」


 歩夢に尋ねてみると、難しい顔で首を傾げられた。

 参考までに、とドロンとリーエンにも視線を向けたが、「わからねぇよ」「神殿の教えでは、そういう話を聞いたことはないものね……」という返答があるのみ。


「──違う神である可能性が高い気がする」


 考え込んでいた歩夢が口を開いた。

 俺は「その心は?」と話を促す。


「俺の感覚の話で悪いんだけど、流星を呼んだ神と俺を召喚した神って、競い合ってるような印象があるんだよね」

「なるほど?」

「この世界を舞台にして、勇者という駒とダンジョンマスターという駒がぶつかり合うゲームを、神が高みから眺めて楽しんでる感じ」


 具体的に感覚を表現した歩夢を見据えて、俺は口を開く。


「クソじゃん」

「クソだよ」


 意見が一致したな!

 ちなみに、ドロンとリーエンも「うわっ、神ならありえるクソさ」「クソ神ってことね」と納得している。


「握手しようぜ!」と二人に手を差し出したら、躊躇いがちに握り返してくれた。

 ◯✕クイズの最終問題をクリアした姿を見た時にしたかったこと、達成!


「俺をダンジョンマスターとしてこの世界に連れてきた自称神を邪神と呼ぼう」

「じゃあ、俺を勇者として召喚した神は偽神だね」


 俺の提案にすぐさま乗ってくれるところ、さすが親友だな。

 リルは『邪神と偽神かー。そもそも神って邪なものじゃない?』と不思議そう。魔物の神へのイメージが悪すぎるけど、さもありなんって感じだから、俺は何も言えない。


 つーことで、これからは『邪神と偽神を一発殴ろうぜ♪』計画の具体案を話し合いまーす。

 いい感じの考えが浮かぶといいな。


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