第174話 俺の相棒は可愛い

 なんだかんだありまして──ようやく歩夢と直接会える時が来ました!


『どんどんぱふぱふ〜』

『ぴっぽぴっぽぷぺ〜』


 用意を整えて会談の場に向かおうとする俺を、影兎シャドウラビたちが楽器を鳴らして見送ってくれた。

 ……応援してくれてるんだよな? だいぶうるさいけど。


『いざとなったら、僕がバーンってやって、マスターのこと守るからね!』


 一緒に赴くリルはキリッとした顔で宣言した。可愛い。


 でも、万が一にも俺が歩夢と敵対することはないと思うぞ?

 ドロンとリーエンについては確証がないけど……きっとなんとかなるって。


 とはいえ、張り切ってるリルは可愛い相棒なので、意気込みを無にするつもりはない。


「そうだなぁ……頼りにしてるよ、リル」


 ワシャワシャと首筋の辺りを撫でながら俺が言うと、リルは嬉しそうに尻尾を揺らして『うん!』と頷いた。可愛い。


『マスターがもふもふ可愛い脳になって正常に戻らないにゃ』

『もふもふ可愛いの過剰摂取症状ですねー。手遅れですー』

「おい、誰が病的なまでにもふもふを愛してるって? ──否定はしないけど」


 ミーシャがサクとコソコソ話しているから、それに口を挟む。

 呆れた顔で『否定しないのかにゃ……』と言われたけど、俺は嘘をつけない質なので、前言撤回はしません。

 もふもふ最高ー! 愛してる!


『……マスター』

「どうした?」


 ミーシャが改まった感じで呼びかけてくるから、心臓がドキッと跳ねた。

 真剣な顔と見つめ合う。


 なんか悪いこと言われるんじゃないよな? もふもふ愛強すぎてキモイとか言われたら、俺は泣くぞ?


『ちょっとでも怪我して帰ってきたら、一週間撫でさせてやらないにゃー』

「ツンデレ!! 可愛すぎかよ!!」


 思わず叫んだ。

 は? なにこの可愛いもふもふ。

 俺のことが心配で、ツンとした感じを装いつつ、もふもふを脅迫材料に使って安全を願うなんてデレを見せてくれるとか、可愛すぎかよ! 最高!


 高ぶる思いを抑えきれずに、ミーシャを抱きしめて撫で回した。

 はあ、可愛い、可愛い、可愛すぎる。

 この可愛いもふもふ、俺の子なんですよ? ダンジョンマスターって、幸せすぎる立場ですね?


『にゃー』

「可愛い可愛い可愛い」


 いつもならもうやめろ、となるのに、今日は大人しく撫でさせてくれるミーシャが可愛すぎる!


 デレデレしていたら、リルに『そろそろ時間だよー』と襟首のあたりを噛まれて引き離された。

 さては嫉妬してるな? もちろんリルも可愛いぞー。


「──んじゃ、行ってくる」


 気を取り直してみんなに挨拶した。

 少し心配そうな感じを表情に滲ませながらも、みんなが『いってらっしゃーい』と見送ってくれるから、頬が緩んだ。

 優しい仲間がたくさんいて、俺は幸せ者だ。


 ……歩夢も、この世界で幸せを感じられているといいなぁ。


◇◆◇


 ソファセットに座り、真剣な顔で黙り込んでいる歩夢たちの元に転移する。

 この部屋に一瞬で向かえるように、ちゃんと事前準備していたのだ。


「っ、流星……か……?」


 勢いよく立ち上がった歩夢が、俺を見てきょとんと目を丸くした。


 あ、そういや、俺の装備のフードがデカいから、顔がほとんど隠れちゃうんだよな。

 思い当たってすぐにフードを上げると、歩夢とバッチリ目が合う。嬉しそうに細められていく目を見て、俺も頬が緩んでいった。


「……久しぶり、歩夢」

「ああ、久しぶり、流星」


 こうやって向かい合って喋るのが、なんだか照れくさい。

 高校の時以来、久しぶりの再会なんだから、ちょっと距離感を掴めてないんだ。でも、嬉しいのは間違いない。


 ちょっとばかり躊躇いがちに旧交を温めている歩夢の隣では、ドロンとリーエンがあんぐりと口を開いて固まっていた。

 それを見ると、口に何か放り込んでみたくなる。やらないけどな。


「ふぇ、神狼フェンリル!?」

「……マジかよ……夢であってくれ……」


 リーエンの叫ぶような声に、俺はポンッと手を打って振り返った。

 俺の頼もしい相棒が、キリッとした顔でリーエンたちを見据えている。


 中身が可愛いワンコ過ぎて忘れがちだけど、リルは魔物として最強格の神狼フェンリルなんだよなー。


 ちなみに、ドロンは額に手を当てて嘆いていたけど、リルから一切目を逸らさなかった。

 絶対に敵わないと理解しながらも、簡単に抵抗を諦めはしないっていう精神、俺は嫌いじゃないぞ。


 歩夢も驚いた顔をしていたけど、すぐに微笑む。


「その神狼フェンリルは……流星のペット?」

「その単語が真っ先に出てくるの、さすが俺の親友って感じだな」


 俺のもふもふ愛をよくわかってらっしゃる。

 俺なら神狼フェンリルだってペットにしちゃいそうって思ったんだろ? あながち間違ってない。


「──俺の相棒だよ。な、リル?」

『そうだよー! マスターに仇なす者は、みーんなあの世に送っちゃうから、覚悟してね♪』

「いや、可愛い声で言うことがえげつないなっ!?」


 がおー、と鳴くリルに、思わずツッコミを入れた。

 神狼フェンリルに殺害予告されるとか、怖すぎでは?


 歩夢たちの反応は……と窺ってみたけど、きょとんとした顔をしている。

 そういや、リルの言葉はみんなには通じてないんだったな。それならフォローを入れなくてもいっか。


 俺がニコッと笑って誤魔化したら、歩夢は「楽しそうでよかったよ」と微笑んだ。

 うん、俺、今の環境をすっごく満喫してます。


「……なんっつーか、イメージしてたダンジョンマスターと違いすぎる……」

「私もよ……」


 なぜかドロンとリーエンはソファに脱力した感じでもたれて、項垂れていた。


 朝一なのに、もう疲れたのか?

 もふもふ可愛いを摂取してみる? 疲労感なくなるから、オススメだぞ。


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