第157話 4階へようこそ

 あっさりと3B階密林遺跡ボスをクリアした歩夢たちが、4階もふハニトラに辿り着いた。


[あ、竹馬なくなっちゃったな……]

[そんな残念そうにするの、マジで意味わからん]


 がっかりした様子の歩夢を、リス姿から解放されたドロンが呆れた表情で見やる。

 うん、俺も歩夢の感覚は理解できないよ。だから、[異世界人ってみんなこうなのか?]なんて不名誉な呟きをやめてほしいな!


 リーエンは念入りに体を動かして、ホッと息を吐いている。

 鶏の姿とは感覚が違ったようだけど、姿が戻ってすぐに違和感はなかったようだ。


[アレックス、一人で攻略させてしまってごめんなさいね]

[ううん、普通に楽しんだだけだから気にしないで]


 一応、と謝ったリーエンに、歩夢が輝かしい笑顔で応じる。

 それに対して、リーエンもドロンも[……そうよね][……だよな]と遠い目をしながら納得していた。


 歩夢、楽しそうだったもんなぁ……。

 マジで二人が戦闘に加わる隙がないほど跳ね回って攻撃してた……竹馬で。

 強いんだけど、見た目がシュール。


[それにしても、流星は不思議なトラップを用意するよね。そんな趣味があるとは知らなかったなぁ]


 首を傾げながらそんなことを言う歩夢を見て、俺は思わず立ち上がってモニターに詰め寄った。


「ちょっと待てっ! それ不本意な勘違い! 俺の趣味じゃねぇよっ」


 肩を掴んで揺さぶりながら訴えたい。

 俺は、そんな、変な、趣味は、ねえっ!


 この誤解は会った時に絶対に解かなくては……!


『マスター、見えないにゃ』

「いつものことながら、ミーシャはマイペースだな……」


 ミーシャに軽く叱られてしょんぼりしながら元の場所に戻る。

 俺がマスターだよな? ちょっと立場が弱くなってる感じがするのは気のせいか?


 リルに寄りかかって座ると、嬉しそうに尻尾が揺れた。

 キラキラと輝く目が俺を見て、『撫でて!』と訴えてくる。

 あー、リルはいつも可愛い! もふもふ最高!


 わしゃわしゃと撫でてやると『わーい、気持ちいい!』とさらに大きく尻尾が振られた。

 猫派だった俺が、犬派になりそうなくらいリルの可愛さが天元突破してる気がする。


[さて、それじゃあ進もうか。この空間のどこかに、流星と会う予定の館があるはずなんだけど]


 歩夢がやる気に満ちた眼差しで周囲を見回す。

 その横でドロンは[改めて考えると、面会場所まで攻略しろって、なかなか面倒くさい要求だよな]と眉を顰めていた。

 リーエンも[ダンジョンマスターの方が一階に来てよ、とは言わないけど、私たちを簡単に通してくれたらいいのにね]と不満顔だ。


 俺だってそうしてあげたかったよ?

 でも、俺の仲間たちや歩夢のことを考えると、ちょっと面倒くさい方法にするしかなかったんだ。


[何言ってるんだ。こういうのが楽しいんだよ? 死なないんだし、楽しもう!]


 歩夢が[二人はわかってないなー]なんて笑いながら肩をすくめる。

 たぶんその感覚がわかるのは、歩夢と同じゲーマーの人だけだと思うぞ。俺もわからねぇもん。


[……ま、お前が楽しそうだからいいけどよ]

[そうね。それでどう進むの?]


 仕方なさそうに笑うドロンの隣に立ち、リーエンは森の中を観察する。

 リーエンが指を動かして何か口ずさんでいるけど、これって精霊を使ってルート検索してるよな?


 4階もふハニトラ5階雲の上に辿り着きにくくなるよう迷いのトラップがかけられている。

 それが精霊に通用するのか、ちょっとドキドキだ。当たり前のように5階雲の上の方に進まれたらどうしよう……。


[精霊がなんか見つけてないのか?]

[……近くに建物があるようね]


 ドロンの問いにリーエンが答えた。少し不審げな顔をしてる。

 歩夢は[へぇ、建物? まさか面会場所じゃないよね?]と興味を引かれた様子だ。


[どうかしら。そこまではわからないわ。中を探るのを妨害されているみたいなの]

[ヒュー、さすがダンジョンマスター。精霊術への対処もお手の物ってか]


 ドロンが口笛を吹いてニヤリと笑う。リーエンは少し悔しそうだ。

 俺はホッとしてるよ。精霊が探れないように対処しておいてよかった!


[じゃあ、その建物に行ってみようか]

[……そうね。案内するわ]


 歩夢はにこりと笑って歩き始める。

 力不足を指摘されなかったことで、リーエンは少し表情を和らげて[こっちよ]と木立の先を指した。


 まさしく、リーエンが指した先に、俺が用意した施設がある。


 数多のトラップを設置した、装備返却を兼ねた歩夢を楽しませるための場所。

 三人はどう攻略してくれるだろうか。


「ドキドキするなぁ」

『そうだねー。楽しみ!』

『簡単にクリアされそうだったら、ミーシャが妨害しに行くにゃ』


 のんきに眺めているリルとは違い、ミーシャは密かに闘志を燃やしているらしい。

 その姿を見て口元が緩む。

 俺のために、とやる気になっているミーシャの姿は可愛らしい。普段は怠惰な感じだからなおさら。


「そうだな。ミーシャ、頼んだぞ」

『にゃ。まぁ、マスターが用意したトラップは凄いから、ミーシャの力は必要ない可能性が高いにゃ。しばらくはのんびり観察するにゃー』

「お、嬉しいこと言ってくれるじゃん」


 伏せてモニターを眺めているミーシャの頭を撫でる。

 嬉しい、という感情を示すように小さく揺れる尻尾が俺の頬をくすぐった。


 俺のもふもふたちの可愛さは最強!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る