第156話 観察開始

 歩夢を追っかけている者たちと、それで遊んでいる可愛い仲間たちはともかく。

 俺は歩夢たちの攻略風景を眺めて、乾いた笑みをこぼした。


 ……あいかわらず、すげぇな。勇者ってやっぱ卑怯って言いたくなる能力者だ。


『今回の制限トラップは地味だねぇ』

「どこが!?」


 リルの少し残念そうな口調で放たれた言葉に、俺は瞬時にツッコミを入れた。

 だって、全然地味じゃねぇもん……。


 歩夢は現在竹馬(超カラフルな装飾付き)に乗っている。

 ──そう、移動は竹馬で、という制限だったのだ。


 竹馬と言えば、二本の棒に細い足場があるもの。それに乗って機敏に動き回るなんて、サーカス団員くらいしかできないだろう、というのが俺の認識だった。

 けれど、勇者の能力はこんなことにも発揮されている。


「……めっちゃ跳んでんじゃん」


 竹馬で走り勢いをつけたかと思うと、通路に大きく開いた穴を軽々と飛び越え、見事に着地を決めた姿に、呆然と呟いてしまう。

 その竹馬、バネ付きだったりする? そう疑ってしまうくらいの跳躍力だ。


『カッコいいかもー』


 リルが目を輝かせていた。

 歩夢のアクションがお気に召したらしい。

 ちょっぴりジェラシー。俺もリルにカッコいいって言われたい! だからといって、歩夢並みの身体能力を求められても困るけど。


『カッコいいけど、面白くないにゃ』

「そうか? 竹馬に乗ってダンジョンを攻略してる勇者って、十分面白い気がするんだけどな?」


 不満そうに尻尾で地面を叩いているミーシャの言葉に、俺は首を傾げた。

 絶対、このダンジョン以外じゃ見られない光景だぞ。この映像を外に流出させたら、きっと勇者への憧れが半減するよ。


「──肩には小動物乗ってるし」


 歩夢の姿を一層おかしなものにさせている原因の一つを口にする。

 煌めく笑顔を浮かべて颯爽と竹馬を乗りこなしてる歩夢の肩には……リスと鶏。どちらも死んだ目をしてるところが趣深い(?)。


『どっちがどっちにゃ?』


 制限トラップの発表の場面を見逃し、気付いた時には奇妙なトリオができあがっていたから、ドロンとリーエンがリスと鶏のどちらになっているかがわからない。

 たぶん、わからなくても問題ない。どっちもひたすら歩夢の肩にしがみついてるだけだし。


「さあ?」

『雰囲気的に鶏がリーエンな気がしますね』


 インクが口を挟んできた。続けて、サクが『リスがドロンですね』と断言する。

 なんでわかるんだ?

 きょとんとした俺に、サクがふふっと微笑む。


『私たちの種族は、性別を判別するのが得意なんですよー』

「な、なるほど……」


 男夢魔インキュバス女夢魔サキュバス。どちらも異性に対する特攻の能力を持った魔物だ。

 サクが言うことは、さもありなんと納得するしかない。前にもそんな話聞いた気がするし。


『あの鶏、美味しい?』


 最近、鶏の唐揚げにハマっているリルが、嬉々とした口調で言う。

 おっそろしいこと言ってるな!?


「食おうとするな。中身人間だぞ!」

『食べないけど……美味しそう。丸々としてるし』


 しょぼんとするリルの頭を撫でながら、ダンジョン能力で大量の唐揚げを取り出してプレゼントした。


 これをあげるから、食欲に満ちた目でリーエンを見つめるな。

 あと、女性に『丸々としてる』は大変失礼なので慎むように! 確かに見た目、食べごたえのありそうなサイズだけども!


『はぐはぐ……おいしー♪』


 リルは唐揚げを食べてご機嫌だ。

 一皿の唐揚げが一口でなくなる様は、めちゃくちゃ気持ちいい。

 魔物が食事必須だったり、食べ物をDPで用意できないなんて状態だったりしたら、エンゲル係数ハンパなくてやってられなくなるよなぁ。


『ああいう姿になったら、魔法を使うこともできなくなるんですかね?』


 不意にインクが不思議そうに言った。

 確かに、ドロンもリーエンも、戦闘をすべて歩夢任せにして一切働いていない。ちょっとは援護をしてもよさそうなものだけど。


 前に歩夢が猫の姿になった時は、普通に戦ってたよな? その時と違いがあるんだろうか?


『単純に、勇者が張り切っていて手を出す必要もなければ隙もないだけではー?』


 サクがバッサリと言い切った。

 一同納得。それくらい歩夢がめっちゃ楽しそうに動き回ってる。

 竹馬キックで魔物を一撃で倒したのを見て、乾いた笑いしか出ない。


「……勇者の能力、ハンパねえ……これ、施設の難度、もっと高めがよかったかも?」


 用意したばかりの施設が、歩夢一人の力であっさりクリアされてしまうのは、さすがにショックなんだけど!

 それに、そんなことになった場合、会った時に歩夢から文句を言われそう。


『いや、さすがに大丈夫じゃないですか……?』


 インクが目を逸らしながら言ったけど、それ本心じゃないよな。お前も絶対不安になってるよな?


「いざとなったらミーシャか影兎シャドウラビを投入するか……」


 子猫の姿になった歩夢は影兎シャドウラビといい勝負をしていたし、いい感じの難易度調整になる気がする。

 せっかく色々考えたのにそれでいいのか、って気もするけど。


『! ミーシャ、マスターのためにがんばってもいいにゃー』


 戦闘面で活躍する機会が少ないミーシャが密かに嬉しそうだから、一応そうする可能性は頭の隅に置いておこう。

 万が一ってこともあるしな。


「うん、いざという時は頼んだぞ」


 ミーシャの頭を撫でる。

 その俺の腕にリルがすり寄ってきた。普通に倒れそうになる。リルはデカいし力が強い!


『僕も!』

「いや、リルはダメだろ」

『リルはダメにゃー』

『ラスボスが気軽に現れるダンジョン……ヤバいですね』

『うふふ……恐ろしいダンジョンですねー』


 総出でダメだしされたリルが耳と尻尾を垂らして落ち込んだ。

 うーん、可愛さ満点! だけど、リルを出すのは無理だぞ!


『……じゃあ、エンドは?』

「なんでそれならいいと思ったんだ? うん? エンドは古竜エンシェントドラゴンで、脅威度は神狼フェンリルと同じか、上だぞ?」


 意味のわからない妥協案を出してきたリルの頬を、グニグニと揉む。

 それだけで『えへへ、気持ちいー♪』とご機嫌になるんだから、リルは単純で可愛い! さすが俺の相棒!


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