第158話 どうぞ進んでください

 歩夢たちはリーエンの案内に従い森を歩き、魔物を倒しながら草原に辿り着いた。

 3B階密林遺跡にいる魔物より強いのが多いはずなんだけど、あまり足止めできている気がしないなぁ。


「もうちょっと難易度調整をするべきかな……」

『勇者の能力は特殊だからあまり参考にならない気がしますよー?』


 俺の呟きにサクが応じる。

 確かに、サクの言う通りなんだよな。歩夢基準でダンジョンの難易度設定をしたら、他の冒険者が攻略できない高難度ダンジョンになりかねない。


 今でさえ、3B階密林遺跡を攻略できるヤツは全然いないし。

 もう一方のルート3A階蜜の海は、完全に攻略を諦められているから、考えないことにしても。


「うーん、せめてラッカルが来てくれたら参考になるんだけど」

『強い冒険者ですが、一般枠におさまる程度の実力者ですからね』


 インクが頷いて納得する。

 冒険者上位層に位置するラッカルを一般枠と言えるのは、勇者のとんでもなさをずっと観察してきたからこそだった。やはり、勇者と非勇者では、根本から存在が違う。勇者はヤバい。


「そうだな。まぁ、それについてはまた後で考えるか。今は──」


 歩夢たちが施設を発見したのを見て目を細め、俺は言葉を飲み込んだ。

 せっかく用意した施設をどう攻略してくれるか。今は鑑賞に集中しよう。


[これは……装備返却用の施設のようだね]


 俺が用意した看板を読み、歩夢が楽しそうに言った。

 ドロンとリーエンは生気の失せた目をしている。そんなに嫌か。うん、まぁ、俺が二人の立場だったら断固拒否したい感じだから、気持ちは理解できるけど。


[……装備のためだ、がんばろうぜ]

[……そうね、必ず取り返さなくちゃ]

[二人とも、なんでそんなに遠くを見てるの?]


 きょとんとする歩夢を、ドロンとリーエンがジトッと見つめる。

 なんで俺たち(私たち)の気持ちがわからないんだ(の)、という声が聞こえてきそうな表情だ。


 俺には伝わるのに、なぜか歩夢が理解できない不思議。

 歩夢ってそんな鈍感なタイプだったかな? ゲーマー心が前に出すぎてテンション上がってるせいで、些細なことはスルーしちゃってるのかもなぁ。


[……ほれ、さっさと進もうぜ]

[面会場所の確認はまた後でいいわよね? 向こうに屋敷があるみたいだから、そこだと思うわよ]


 リーエンが屋敷の方を指す。

 三人がいるところからはまだ見えないはずだけど、精霊術を使えばあっさりと把握できるらしい。


 やっぱり精霊術ってダンジョンの敵な感じの能力だよな。

 迷いのトラップはしっかり通じているようだから、ちょっとホッとする。


[そうだね。魔物の強さを考えたら、面会場所に行くのは難しくはなさそうだし。今日はここを楽しもう]


 ニコニコと笑いながら歩夢が施設へと進む。

 その後を重い足取りでドロンとリーエンが続いた。


 施設の扉は自動ドアだ。

 スッと開いた扉に懐かしそうな顔をする歩夢とは違い、ドロンとリーエンはギョッと目を見開く。


[……建物自体も不思議な見た目だけれど、この扉が勝手に開くの、凄く不気味よね]

[しかも、横に開くのかよ。通りでドアノブがないと思った]


 日本風ビルと自動ドアは、異世界では不気味なものらしい。

 引き戸ってこっちにはないんだな。西洋風の世界だからか?


 歩夢も言われて気づいた、みたいな顔をしながら[俺の元の世界ではありふれたものだから、気にしなくていいと思うよ?]と肩をすくめた。


[……あ、水?]


 施設内に足を踏み入れた途端、歩夢が足を止める。

 ビルの中に水場が広がっている光景は、元の世界を知るからこそ奇妙に見えたようだ。


[随分深そうだぜ……]


 スタート地点の足場から水場を覗き込んだドロンが顔を顰める。

 猫獣人は水に濡れるのが苦手らしいから、あまり好ましくない状況のようだ。


[精霊を使えないわ。あ、魔法も……サイアク……]


 リーエンは早速精霊を使ってルート検索しようとしたのか、能力制限がかかっていることをすぐに察して、嘆くように額を押さえている。


[へぇ、こういう競技、テレビで見たことあるなぁ。まさか俺が挑戦することになるとは思わなかったけど……ハハッ、楽しそうだ]


 水場に点々と設置されている足場(傾斜あり)を眺めて、歩夢がニヤリと笑った。

 やっぱり俺が何を参考にこのトラップを作ったか、歩夢なら気づくよな。ちょっと嬉しい。


[あー、つまり、あの足場を使って奥へ進めってことか?]

[そうだね。奥にあるのはドラム缶かな? 最終的にはあれの上でバランスをとって進めばクリアできると思うよ]


 軽く解説した歩夢に、ドロンが[ドラムカンってなんだ……?]と首を傾げる。

 そっか、この世界にドラム缶はないんだな。


 歩夢が[ワイン樽を金属で作ったようなものだよ]と教えているのを聞きながら、後々はワイン樽に変更すべきかも、と脳内メモをとっておいた。

 不審物を使って攻略するなんて、ちょっと難度が高くなりすぎだもんな。


[これ、落ちたらどうなるんだ?]

[さすがに一発で死に戻りすることはないと思うけど……あ、そこに『五回失敗すると死に戻り』って書いてある]


 歩夢が発見した表示を読み上げると、ドロンが[意外と優しいんだな]とホッとした表情になった。


 意外ってなんだよ。装備返却しようとしてる時点で十分優しいだろ!

 ちょっと納得いかない……。


『マスターは元々優しいよー?』

『むしろ甘々にゃー』


 リルとミーシャはさすが俺の仲間! よくわかってる。ニコニコしちゃうな。

 インクは『優しい、です、ね……?』と微妙な感じだったから、今後相応の態度をとることに決めた。


[この水は普通の水みたいよ。泳いで進むこともできるんじゃないかしら?]


 アイテムを使って水をすくい取り検査していたリーエンが報告する。

 サラッと反則なこと言うなよ。ちゃんと対策してあるから、無理だけどな!


[いや、それはルール違反だよ。水に落ちた時点で一回失敗扱いになるんじゃないかな]


 さすがに歩夢は試さずともわかっているようだ。

 二人は歩夢の言葉を信じたらしく、水に落ちずに進む方法を相談し始める。


 どんな風に攻略してくれるのか、楽しみだな!


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