第254話 邪神を観察

 全員で邪神をジッと観察していると、[イタタ……]とこぼしながら邪神が起き上がった。


『まだ元気そうだから、追加で一発入れていい?』

「やめてあげて」


 リルの無邪気で容赦ない攻撃を、一応止めておく。

 一度は邪神の出方を見てみたいしさ。思ってたより弱そうだし。


 ボロボロだった邪神は、立ち上がってる間にも、少しずつ回復しているようだ。

 回復速度は人間より凄く速いな。さすが、自称神。

 でも、神ならこれくらいのことで怪我してんなよ、と思ってしまう。


[……よく来たな、ニンゲンたちよ]


 完全に起き上がった邪神が、仁王立ちになってリルたちを睥睨する。


 散々ボロボロになって情けない悲鳴を上げているところを見ていたから、今さら偉そうにされても、全然威厳を感じないぞ?

 しかも、【ニンゲンたち】と言いつつ、その場にいる大半は魔物だし。


[あー……俺に言ってるってことでいいのかな?]


 歩夢が戸惑った感じで応えた。

 一団のリーダーはリルなんだけど、リルは人間じゃないから、自分が語りかけられたとは思ってなさそうなんだよな。

 そもそも、邪神が魔物の言葉を理解できるかも定かじゃないし。

 話すのは歩夢に任せるのがよさそう。


[そうだが? 遥々、神の領域までやって来たその努力は、素直に称賛しよう。しかし! 神であるワシを簡単に倒せると思うでないぞ!]


 胸を張って言う邪神の様子を見るに、確かに完全に倒すのは難しそう。

 包帯は相変わらずそのままっぽいけど、服の損傷が修復されて、怪我もなくなっているように見えるから。


 ……ますます、なんで包帯を巻いてるのか気になる。それ、回復速度アップのアイテムだったりする?


「倒せるかどうかはともかく……自動的に治るなら、気が済むまで何度でもぶん殴れそうだからありがたいな……」


 俺がボソッと呟くと、それが聞こえている全員が頷いた。

【邪神=サンドバッグ】の図式が成立した瞬間である。おめでとう!


[簡単に倒せないっていうのは、すぐに治るから?]

[いかにもその通りだ]

[その治癒は無限?]

[っ……そのようなことを、お前たちに教える筋合いはない!]


 邪神が動揺した様子で叫ぶ。

 なるほど、無限の治癒力じゃないわけな。この邪神、めっちゃわかりやすいぞ。


 でも、無限に治るわけじゃないとすると、治癒には何かが必要ってことか?

 現時点で治癒の補助アイテムが必要っぽいのを考えると、必要な何かの余裕があまりない可能性があるけど……


『地獄の穴に集められていた魔力は、邪神のエネルギーになってるんじゃないかって、推測してたよにゃ?』


 ミーシャがポツリと呟く。

 ほぼ同時に、みんなが「『[あ……]』」と声を漏らした。

 邪神がボロボロな感じになってる理由を察したのだ。それと、今の邪神の状態って、めちゃくちゃ弱体化してるのでは、とも気づいた。


 地獄の穴の多くは、俺たちが占領し、邪神に魔力が届かないよう細工を施した。

 そのエネルギーは膨大だ。予想以上に短期で、俺たちが邪神の元へ辿り着けたのも、その膨大な魔力のおかげである。


 それほどまでに大量の魔力の供給が一気に絶たれた邪神って、エネルギーが枯渇しかけてる状態なのでは?


 そんな中、俺に生活拠点を破壊され、怪我を負わされ、エネルギー消費が増えた。

 さらには、再び襲ってくることを予期して、神として見栄を張るために、巨大な古代神殿なんてものを建てた。


 使われた魔力の量は、決して少なくないはずだ。

 元々、どれほどの魔力を蓄えていたのか知らないけど、あまり節約してるイメージもないし、すでに危険水域に達している可能性もある。


「まさかの、邪神討伐イージーモード? それを狙ってやったわけじゃないんだけどなぁ……」


 思いがけない成果に、ハハと乾いた笑いが漏れた。

 見栄を張って建てた古代神殿を一瞬で壊されたとか、ちょっと可哀想になるじゃん。


[んー……とりあえず、流星がコイツをぶん殴るためには、ある程度弱らせた状態を継続させなきゃいけないんだよな?]


 歩夢が呟く。

 リルが『うん、そうだよー』と頷いた。

 言葉はわからなくても、仕草でその意思はバッチリ伝わる。


[それじゃあ──回復できなくなるまでタコ殴りしようか!]


 めちゃくちゃイイ笑顔で歩夢が言った。

 リルがブンブンと尻尾を振る。


 ……わあ、凄く喜んでるー。やる気いっぱいだなー。


 俺はちょっと遠い目をした。

 邪神があまりに憐れで怒りが薄れちゃうから、過剰攻撃はやめてほしいな? 俺は殴る時まで怒りを継続しときたいぞ。


『魔力が回復に関係してるなら、この空間の魔力を吸ったらよさそうみゃあ!』


 フェリスは自分の出番が来たと、元気いっぱいに意気込んだ。

 ワンダーも『とりあえず邪神を浄化するワン!』と今にも飛びつきそうな様子だ。

 影兎シャドウラビたちはすでに影に隠れて、不意打ちする気満々。


 その影を提供しているエンドが『これ、ボクいらなかったんじゃない?』とのんびりモードになってるのは、邪神にとってせめてもの救いだろう。


 俺とはほぼ関わりがないタイシさえ、アカネへの仕打ちの恨みに燃えて、[これだけ魔力があれば、頑丈な拘束具を作ることもできそうですね……ふふふ]と呟いてるんだからな。


 俺、ちょっと味方を増やしすぎたかも。

 想像以上に邪神が弱くて、弱い者いじめみたいになってるから、微妙な気分である。


 でも、まあ、もうあまり問題なさそうだし、いい感じのタイミングを見計らって、俺も行くか。

 何がなんでも一発は入れないと、がんばった甲斐がないからな!


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