第243話 都市発展の理由

 ボス討伐報酬は灰色半透明の宝石だった。煙を閉じ込めたガラスのカケラのような見た目だ。

 これは魔粘石と呼ばれる魔力が豊富なアイテムで、迷宮都市内で様々な魔導具の燃料としてよく使われているらしい。


「それ、絶対、使い終わったら灰色の塊になるんだろ……どこかにそれを捨ててんのかな」


 操人形マリオネの報告を先回りして呟くと、『ちょっと違いますねー』と返答された。


『灰色の塊になった後に、さらに魔力を絞り出して使える魔導具に突っ込むので、最終的には消えてなくなるそうです』

「めっちゃがんばって使い切ってる……」


 なるほど。

 灰色物質は魔力の塊だが、普通は消失するまで使い切ることはできないようだ。

 でも、迷宮都市の人たちは、それを使い切れる技術を開発して使ってる、と。


『このダンジョン(仮)から魔粘石が入手できるおかげで、迷宮都市では魔導具が一般家庭にまで普及しているそうですよ』

「へぇ、そういうものなのか」


 魔導具は地球で言う家電に近いものだけど、あまり普及してない。燃料となるものを入手しにくいかららしい。

 だが、迷宮都市ではダンジョン(仮)から燃料を入手しやすい。

 つまり、それは生活が便利になるということ。


『それが、迷宮都市が急速に発展した理由かにゃ?』

「その可能性が高いな。街の建物を作るのも、魔導具が使われてんのかも」


 ミーシャの言葉に頷く。


 人は便利な環境を好むものだ。

 迷宮都市での暮らしが便利なら、人が集まり、街が広がるのは当然。

 ……飯はマズイけど。まあ、それが気になる人は外から食材を輸入すればいいんだろうし。


「魔粘石は他の街に輸出されてねーの?」

『それは少ないようですよ。街内で消費される量が多いため、外への持ち出しが制限されているらしいですから』

「なるほどなぁ。貴重な資源ってことか」


 ふむふむ、と頷く。

 食べ物についてはドン引きしたけど、このダンジョン(仮)は、結構人間の役に立っているようだ。

 完全に人間と敵対しているわけではないのか……。


 人間側も、安全と見なしてダンジョン(仮)と共生してるんだろうし、なんらかの取り決めができているのか?


「……迷宮都市内で、ダンジョンマスターとの契約の話は聞かなかったんだよな?」

『そうですね。ダンジョンマスターを倒すな、という指示もないですし。ただ、勇者さえ帰ってこられなかった、というのが知られているので、最奥までは行くな、と冒険者間で注意されてます』


 俺のダンジョンとは状況が違うようだ。

 でも、勇者さえ無理なら、普通の冒険者は命をかけて最奥は目指さないか。すでに攻略済みの場所だけで、十分利益が出るみたいだし。

 一人くらいは無茶だと知りながら挑戦する人がいてもおかしくないけど……


「強い奴らが帰ってこなかった、ってパターンが実はたくさんありそうだよなぁ」

『それは俺も思いました。ただ、どこで命を落としてるかはわからないんで、注意喚起する程度なんだと思います』


 操人形マリオネと話して、迷宮都市とダンジョン(仮)の関係を、ある程度は理解できた。


「そっか。報告は終わりか?」

『そうですね。今のところは』

「んじゃ、引き続き攻略がんばって!」

『……暑いんで、なんか良さそうなアイテムくれません?』


 言外に、外に出たくない、と言われた。

 そういや、影兎シャドウラビも引きこもってるんだったな。

 リルはたぶんそこまで気にしないんだろうけど、わざわざ暑いところに出たがることもないだろう。


「あー、夜があるなら、それを待ってもいいんだけど……時間の無駄だよな。冷却アイテムを送るか。つーか、影がたくさんあれば、影兎シャドウラビの力で移動できるか?」

『できますねー。影同士の距離が離れすぎていたら、地上を進む必要がありますけど。このステージは何も調査しなくていいんです?』

「……どうやって暑くしてんのかは気になるなぁ」


 洞窟はともかく、砂漠のような環境を灰色の謎物質と幻影的な能力だけで再現できるとは思えない。

 その原理を探ってほしいとは思うけど、時間がかかりそうだし、ダンジョンマスター(仮)と会うのを優先した方がいいはず。


『なるほどー。まあ、影って言っても、点在してるオアシスか砂山程度しかないと思うんで、地上を進む必要がある場所も多いと思います。環境について探るのは手がかりがなさすぎますが、その時にでも、できる限りがんばってみます』

「それでいい。んじゃ、とりあえず冷却アイテムを送るから、影渡りしつつ調べて、次のステージに進んでくれ」


 手早く、タブレット端末からクールネックリングのようなアイテム〈クールリング〉を召喚し、影兎シャドウラビ配達員に持たせて送る。

 これは首にかけると、体の熱を下げるアイテムだ。日差しは我慢してくれ。


 しばらくすると、操人形マリオネ影兎シャドウラビ配達員からアイテムを受け取った。


『おー、冷え冷えですねー』

『すずしいね〜!』


 暑さにやられていた影兎シャドウラビも、ぴょんと影から出てきてはしゃぐ。

 早速効果が出たようで、やる気が回復していた。


「効果があったならよかった。じゃあ、第二ステージのクリアをがんばれよ」

『はーい、調査もがんばります!』

『カゲをわたっていくから、はやいよ〜』


 気合い十分の操人形マリオネ影兎シャドウラビは、一旦テントの外に出る。

 そしてテントを畳んで仕舞い、攻略再開。


 操人形マリオネの影に、まずは影兎シャドウラビが沈み、ついで操人形マリオネ自身も飲み込まれた。

 

 点在するオアシスの影を辿って渡り、それが無理な場所は地上を進むことになる。

 順調に進むといいなぁ……


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