第242話 魔物の構成成分

 その後、影兎シャドウラビにも意見を聞いてみたけど、出てきた感想は操人形マリオネと同じく『おもったより、よわかった〜』程度だった。


 このダンジョン(?)の魔物ついてわかったことをまとめると──


①本物の魔物より防御力が低い。攻撃力は同程度かちょっと低い。


②浄化によって、見た目に変化が起きる。

牛頭ミノタウロスの反応を考えると、魔物自身にとっては喜ばしいことらしい)


③魔力を取られると、見た目・性質の維持ができない。だが、一瞬で回復可能。


 ──こんな感じか。


「作られたナイフも斬れ味がイマイチだったし、人工的に作られた魔物も、能力が本物より一段劣ってても不思議じゃねぇな」

『同感にゃ』


 ミーシャにも頷かれたので、これは確定でよさそう。

 このダンジョン(?)にいる魔物は、本物の劣化版ということだ。


「浄化については……魔力の穢れが、魔物になんらかの悪影響をもたらしてるってことかな」

『ミーシャもそう思うにゃ。カナみたいに、自我が薄れるほどではないにしても、体調不良みたいな状態になってるんじゃないかにゃ』

「なるほど……ありえそうだな」


 ミーシャの考察に、俺は少し考えてから頷く。


 魔力の塊のような物質で作られている魔物なのだから、魔力に含まれる穢れの影響が体調不良という形で現れていても、なんら不思議ではない。


 カナのように、自我が薄れて手当り次第に攻撃するタイプじゃなくてよかったな。

 そうなっていたら、ダンジョン(?)を管理する者の手に負えない状態になっていた可能性があるし。


「凶悪化した魔物が外に出たら、迷宮都市が滅びかねないよなぁ……魔物がどんだけいるか知らないけど」


 恐ろしい予想をしてしまって、心の底から安心した。

 今はまだ、その予想が現実になることはなさそうだ。


『穢れがなくなったからって、肌艶がよくなるのは意味わからないですけどね』


 インクがボソッと呟くと、その頭の上に乗っていた影兎シャドウラビが『かんがえたらまけだよ〜』と言いながら、ぴょんぴょんと跳ねた。

 何に負けるんだろうか。


『魔力を取られて見た目と性質が変わる理由は、その維持に魔力が使われているからだろうにゃ』

「あー……普通は灰色の物質で、それが魔力によって魔物らしく変質して、その状態を維持するにも魔力が必要ってことだな?」

『そうだにゃ』


 ミーシャの考察を言い換えて、俺は頷いた。

 そうとしか考えられないもんな。


 でも、そうなると、魔物からのドロップアイテムはどうなっているのだろうか。


操人形マリオネ、ドロップアイテムはなんだった?」

『牛肉ですね』

「……今更だけど、牛頭だったとしても、胴体は一応二足歩行の人っぽさがある魔物の肉って、牛肉でいいのか?」

『それ、考えたらマスターにとって怖いことになりません?』

「うん、考えないことにする」


 操人形マリオネの言葉に即座に頷く。

 ドロップアイテムの牛肉が、どの部位のものかはわからないけど、牛肉なんだから牛の肉なんだろう。

 間違ってもカニバリズムではない。うん。


 俺が真実(?)から目を背けている間に、操人形マリオネがアイテムバッグから取り出した牛肉を皿の上に置く。


 見た目はどでかいロース肉だ。ステーキにしたら美味そう。脂肪少なめ。


『見た目は普通の牛肉ですねぇ』

「だなぁ」


 頷きつつ、ふと操人形マリオネから聞いた情報を思い出して、俺は嫌な事実に気づいた。


「──迷宮都市で使われる食材って、そのダンジョン(?)で採れたものが多いんじゃないか?」

『……ですねぇ』


 操人形マリオネも察しているのか、答える声が苦々しい。


「お前が食った飯、マズかったんだよな?」

『めちゃくちゃマズかったです。牛肉のステーキが、まるで粘土を噛むような食感で。旨味とか全然なくて』

「ふーん……今目の前にある肉、食ってみる?」

『食べないです』


 魔物が灰色の謎物質製なら、そのドロップ品である肉もそうだろ。

 それは本当に肉と言えるのか? 食った時は肉だったとしても、消化された後の栄養とか、どうなってる?


 迷宮都市の連中、常日頃からやべぇモノを食ってることにならないか?


「……怖っ」

『大丈夫です健康被害は聞いたことありません気づかれてないだけかもしれませんけど栄養失調になってるなんて話も聞きませんでした』

「句読点なしで否定されても信用できねぇよ。お前もヤバい気配感じてんだろ」


 動揺が口調に表れている操人形マリオネに、半眼でツッコミを入れる。


『そんなに気にすることかにゃ? 人間が勝手に変なモノを食べてどうなろうと、ミーシャたちには関係ないにゃ』

「おい、さすが魔物様だな……」

『人間はどうでもいいですけど、それを食べちゃった俺はどうなるんです!?』

「お前も魔物様だったな……」


 ミーシャと操人形マリオネが人間に対して冷めた意見を述べるのは、魔物だからしかたない。

 魔物は根本的に、人間に対して敵以外の認識がないのだから。


 それはわかってるけど、元人間としては、なんとも言えない気分になる。


「……人間は魔力だけじゃ生きられない。その肉に魔力以外の栄養があることを祈ろう」

『肉の魔力を吸ってみるみゃあ?』

「……そうだな。フェリス、頼んだ」


 フェリスに俺が指示すると、すぐさま牛肉に飛びつく姿が見えた。

 途端に、牛肉が灰色物質に変わっていく。


「──あ~あ……やっぱりそうかぁ」


 灰色物質に変わった肉は、フェリスが離れても、再び肉に戻ることはなかった。

 魔物と違って、生きていない状態では変化は不可逆らしい。

 また一つ、情報が集まったな。知らない方が幸せだった気もするけど。


 とりあえず、俺は迷宮都市に行ったとしても、絶対に何も食べないぞ。

 灰色物質には栄養がなさそうだし、食べたらなんか悪い影響が出そうだからな!


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