第241話 第二ステージ

 第二ステージは環境が一変していた。

 操人形マリオネの視界を映し出すモニターには、砂漠のような景色が広がっている。


「ほー、こういうの、うちにはなかったな」


 洞窟や森林、神殿、屋敷、雲、蜜の海などの環境はあるけど、砂漠はない。

 今後の参考にさせてもらおう。


 そんなことを考えて眺めていると、不意に操人形マリオネが後ろを振り返った。


 果てしなく続く砂漠にポツンと石の門柱が立っている。門柱の間に見えるのは宇宙のような闇。時折星のように何が煌めいている。

 操人形マリオネはそこを通って、ボス部屋から出てきたのだ。


 砂漠に門柱がある景色には違和感があるけど、ダンジョン(?)だからこんなもんだろ。

 俺のところと違って、転移陣じゃないんだなー、という感想程度しか出てこない。


 操人形マリオネの足下の影から顔を出した影兎シャドウラビが、ぴょこぴょこと耳を動かしながら首を傾げる。


『またそこをとおったら、もどれるの〜?』

『ボス部屋に戻るのは無理らしいですよ。もう一度入ると、外(迷宮都市)に出るって聞きました』


 影兎シャドウラビの疑問に操人形マリオネが答える。

 そういえばそんな話を事前に報告されてたかも。


 俺のダンジョンは、外に出るためには来た道を自力で戻らなきゃいけないから、即座に外に出られる仕組みがあるこのダンジョン(?)は親切な作りだ。


『そっか〜。それじゃあ、どんどんすすまないとね〜』

『そうですね。でも、まずはボスだった魔物について考察したいので、人目を避けられるところがあるといいんですけど。洞窟じゃないのは、地味に面倒くさい……』


 操人形マリオネの視線が砂山に移る。

 風によって姿を変える砂漠は、道標になりそうなものが存在していない。

 オアシスが点在しているとは聞いているけど、操人形マリオネがいるところから見える範囲にはなさそうだ。


「適当なところでテントを張ればいいんじゃないか?」

『それはそうですね。じゃあ、あの砂山の向こうにでも』


 俺の提案に、操人形マリオネがサクサクと砂を踏みしめて進む。

 影兎シャドウラビはいつの間にか影の中に引っ込んでいた。人工的な日の光がキツくて、逃げたようだ。

 操人形マリオネも『あっちぃ……』と呟きながら進み続ける。


 ボス戦をクリアした次の冒険者が来る前に、落ち着けるところを見つけられるといいのだが。




 しばらく進むと、操人形マリオネは大きな砂山の裏手に辿り着いた。振り返っても門柱が見えない。

 ここなら、冒険者に見られる心配も少ないだろう。正しい攻略ルートから逸れた方に進んだようなのでなおさらだ。


『そーれ!』


 操人形マリオネが手持ちのテントを砂の上に広げる。

 一瞬でポンッと膨らんだテントは、俺が用意してやったお手軽テントだ。アイテムバッグから出して地面に置くだけで、勝手に広がるから設置が簡単。


『わあ、なんか出てきたみゃあ』

『家みたいだワン』


 影から飛び出してきたフェリスとワンダーが、興味津々な雰囲気でテントの周りをうろつく。

 操人形マリオネは気にせず、テントの中に入り込んだ。


『くはー……砂漠だって知ってましたけど、この暑さヤバ過ぎでしょ』


 すぐさま寝転んだところを見るに、操人形マリオネは砂漠の強い日差しと暑さに、随分とやられているようだ。


「索敵は怠るなよー」

『フェリスとワンダー、頼みましたよ』

『任せろみゃあ』

『がんばるワン』


 他力本願な操人形マリオネと、やる気いっぱいなフェリス・ワンダーの雰囲気の違いに、俺は思わず笑う。


『ふあ〜、まだあつい〜……』


 全体が影になっているテントの床からひょっこりと顔を出した影兎シャドウラビが、一瞬で影の中に戻る。

 なんだったんだ……。影兎シャドウラビはよっぽど暑いのが苦手みたいだな?


『……弱点発見』


 ボーッとモニターを見ていたインクが、密かに目を輝かせてる。

 影兎シャドウラビへの日頃の仕返しを目論んでるのかもしれないけど、お前、どうやって暑さを再現するつもりだ? 俺は手を貸さないぞ。


『くーん……確かに暑いね……』


 影からリルの鼻だけ出て、すぐに引っ込んだ。なんか可愛い。

 俺の愛しのもふもふたちは、暑さに弱いらしい。保温性抜群の毛皮があるから、それも当然か。


 俺のダンジョンには砂漠を作らないことにしよう。作ったとしても、絶対にリルたちが立ち入らないところにすればいいか。


 そんなことを俺が考えている間に、操人形マリオネは暑さダメージから少し回復したようだ。


『よっこいせ……それじゃ、ボス戦考察の時間ですよー』


 体を起こして、そう宣言した操人形マリオネに、フェリスとワンダーが『みゃあみゃあ』『ワンワン!』と答える。

 影兎シャドウラビとリルはスルーだ。影の中で聞いてはいると思うけど。


「まずはボスの強さについて気づいたことがあれば報告してくれ」

『強さ……んー、普通の牛頭ミノタウロスより防御力が低い気がしましたね』


 真っ先に報告してきたのは操人形マリオネだ。

 剣で斬りつけた時、予想以上に斬れ味がよかったらしい。皮膚の強度が低いんじゃないか、というのが操人形マリオネの意見だ。


『浄化したらツヤツヤになってたワン!』

「うん、それは見てわかってた」


 続いて報告してきたワンダーに、俺は即座に頷いた。

 お肌ツヤツヤ牛頭ミノタウロスは、ちょっと気持ち悪かったよ。


 遠い目をしながら、牛頭ミノタウロスがそうなった理由をワンダーに聞いてみたけど、元気に『わからないワン!』と返ってくる。だろうね。俺もわからねぇもん。


 理由についての考察は後回しにして、フェリスの名を呼ぶ。

 フェリスの攻撃で牛頭ミノタウロスが少し弱体化したように見えたから、間近でそれを見ていたフェリスの感想を聞きたい。


『ひっついて魔力を直接吸収したら、一瞬灰色の無機質な物質に変わったみゃあ。すぐに戻ったけどみゃあ』

「は? ……つまり、魔力を抜かれて元の物質に戻った、ということか?」

『一瞬だけそうなってたみたいだみゃあ』

「なるほど……?」


 その感想に、俺は驚くような納得するような、なんとも微妙な気持ちになった。

 とりあえず、魔物も地獄の穴の構成物質でできた人工物ということで間違いなさそうだ。

 どうやってそれを為しているかは、相変わらずわからないけど。


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