第240話 第一のボス

 いろいろと検証したり考察したり、時間潰しをしていたら、ようやく操人形マリオネがボスに挑戦できる時間が来た。

 大体の冒険者は一組十分でクリアしてるようだから、あまり強い敵とは言えないだろう。


 たった一人で挑もうとしているように見える操人形マリオネには、正気を疑うような視線が注がれてるけど。


 なんかごめんな、操人形マリオネ

 やっぱり狼族獣人に形だけでも協力してもらっとけばよかったか……。

 数多の視線を操人形マリオネの視界で捉えて、俺はちょっと反省。


 その間に、操人形マリオネはさっさとボス部屋の扉を開けて中に滑り込んでいた。


『事前の情報通り、牛頭ミノタウロスがボスのようですね』


 淡々とした口調で報告してくる操人形マリオネの声を聞きながら、俺はモニターを凝視する。


 牛頭ミノタウロスとは、牛頭を持つ筋骨隆々の人のような姿をした魔物だ。

 大きな斧を担ぎ持ち、鼻息荒く操人形マリオネを見据えている。


 ただ、一定のラインを超えない限り攻撃しないよう設定されているのか、遠い場所から操人形マリオネを睨む以上の動きはない。


「へぇ、魔物ランクとしては、ちょっと強め。ドロップアイテムは牛肉と斧、皮って感じか。ボスクリア報酬はバラつきがあるんだったよな?」


 事前に操人形マリオネが調べて報告してきた内容を確認する。

 すぐさま「そうです」と返事があったのを聞き、俺は腕組みして考え込んだ。


 これまで倒してきた魔物からのドロップアイテムは、一応操人形マリオネに調べさせて、普通の魔物のものと遜色ないという報告を受けている。

 肉の味とかは、迷宮都市で食べたものから推測するに、普通のものより随分と劣化しているようだが。


 ボス素材はどうなのだろうか。

 宝箱アイテムと同じく、不思議な創造力により魔物が作られているなら、少なくとも刃物系──斧の攻撃力は低そうだけど。


『リルたちを呼んで時間短縮します?』

「……いや。強さとかは検証したい。道中の敵じゃ、弱すぎてよくわからなかったし。呼ぶにしても、リル以外──影兎シャドウラビやフェリス、ワンダーまでだな」


 どこかから、クーンと悲しそうな鳴き声が聞こえた気がしたけど、耳を塞ぐ。

 ごめんな、リル。お前は強すぎて、検証に向かないんだ。今は我慢してくれよ。


影兎シャドウラビも大概だと思いますけど……さすがに俺一人じゃしんどいんで、遠慮なく呼びまーす』


 ちょっと呆れた口調で操人形マリオネが答えつつ、足下の影に向かって手をヒラヒラさせた。

 途端に、影兎シャドウラビとフェリス、ワンダーが影から飛び出る。


『よばれてジャーンプ、影兎シャドウラビだよ〜』

『魔力いっぱい、うまうまみゃあ』

『穢れもいっぱい、浄化するワン!』


 みんなやる気いっぱいだなー。

 凄く楽しそうだから、ピクニックか何かかと勘違いしてるようにも見えるけど……うん、仕事をちゃんとしてるから、それでいいや。


 早速周りの魔力を吸収し始めたフェリスと、穢れを浄化して回るワンダーに、牛頭ミノタウロスがとても困惑した様子だ。


 牛頭のくせに、表情豊かだな。

 粘土みたいなもので作られてる疑いがあるけど、こうして見ても、普通の魔物にしか見えない。


『それじゃあ、影兎シャドウラビはキックして強度を検証してください』

『は〜い、おまかせあれ〜』


 操人形マリオネが指示を出した途端、影兎シャドウラビ牛頭ミノタウロスへ駆けていく。

 そして、迎え撃つように振られた斧を軽やかに躱して、強烈な蹴り技を放った。


[グッブーッ!]


 頬に蹴りを受けた牛頭ミノタウロスの顔が変形し、悲鳴が聞こえてくる。


『……牛じゃなくて豚だったんですかね?』


 操人形マリオネが冷静な声で呟くから、変なところの笑いのツボにはまってしまった。


「アハハ、豚か! 確かに、今のは、そう聞こえたな、ハハハッ!」

『そんなに笑うことかにゃ……?』


 腹を抱えて笑ってたら、ミーシャに引かれた。

 えー? 蹴られた後の変顔と、牛のくせに豚みたいな悲鳴は、普通に面白かっただろ?


 俺とミーシャのそんなどうでもいいやり取りの間にも、操人形マリオネたちの検証は続く。


『よーいせっ!』


 操人形マリオネが皮を裂くように剣を振り、強度を調べ。


『とりゃあ〜』


 影兎シャドウラビが部位により強度の違いがあるか探るように、頭部や腕、胴体、下半身へと蹴り技を放ち。


『こいつ、魔力の塊だみゃあ』


 フェリスが牛頭ミノタウロスの攻撃を避けながら、体から直接魔力を吸収しようと試み。


『うーん、穢れは溜め込んでないみたいだけど……とりあえず浄化してみるワン!』


 ワンダーが浄化能力を発揮して──何故か牛頭ミノタウロスがツヤツヤになった。


 これはマジで原理がわからん。

 お肌ツルツルで綺麗になった牛頭ミノタウロスは、どこに需要があるんだ……?

 牛頭ミノタウロスがちょっと嬉しそうにしていたところも含めて、まったく意味がわからない。


 それはさておき、ひたすら検証・攻撃を繰り返して、戦闘は終盤へ突入。


『最後の一撃は影兎シャドウラビ、よろしくお願いします』

『は〜い、いっくよ〜』


 リンチされて瀕死状態の牛頭ミノタウロスがちょっと怯えた表情だったのが、ものすごく罪悪感をかき立てられたんだけど……

 影兎シャドウラビは容赦なく影で飲み込む攻撃を仕掛けて、検証・討伐が完了した。


 検証の報告に移る前に、現れた宝箱(ボス討伐報酬とドロップアイテム)を回収して、操人形マリオネたちはそそくさと次のステージに進む。


 ボスを倒したらボス部屋に長居しない、というのがこの場所でのマナーらしい。


 報告は次のステージで落ち着けるところを見つけてからになるので、俺はちょっと休憩。


 俺が見る限り、牛頭ミノタウロスの戦い方に不審点はあまりなかった。

 ただ一つ……フェリスが魔力を吸収したことで、一瞬牛頭ミノタウロスが弱体化しているように見えたのが気になる。


「……実際に戦った操人形マリオネたちの報告を待つか」


 なんか面白い情報が出てくるといいな。


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