第239話 宝箱アイテム

 操人形マリオネのボス戦を待つ間、ミーシャと一緒に謎物質について話していると、宝箱に仕掛けたカメラに反応があった。

 カメラから届いた映像をモニターに映す。


 宝箱は蓋が閉じられたまま。

 カメラから放たれるほのかな光に、宝箱の底面が照らされているのだが、そこから灰色の物質が盛り上がって出てきていた。


「おっとー……これ、ナメクジみたいだな……」


 うにょうにょと蠢くものを見て、ちょっと顔が引き攣る。

 俺、軟体生物は苦手なんだよ……。


『あ、固まってきたにゃ』


 粘土を捏ねるように動いていたものが、次第に形を定めていく。

 なんとなくナイフに似ているような……

 そう思いながら瞬きをした次の瞬間には、色や質感が変わり、ナイフにしか見えないものが、宝箱内に転がっていた。


「……なるほど? やっぱり、地獄の穴の謎物質を使って、アイテムやら魔物やらが作られていると考えて間違いなさそうだな」


 すごい技術だ、と素直に感心する。

 だって、粘土みたいなものから、アイテムや生き物を作り出すんだぞ? 形を作るだけじゃなくて、質感や生き物らしい仕草まで付与して。

 どうすればそんなことをできるのか、まったく見当がつかないよ。


 俺だったら、ダンジョン能力であっさり作れるんだけど。

 ……でも、よく考えてみたら、このダンジョン能力ってなんなんだろうな。インストールされた知識でなんとなく使ってるけど、原理とかは全然わからない。


 DPは魔力と似たようなもので、それをもとに魔物やダンジョン内構造物を作っていると考えると、魔力が豊富な謎物質を使って何かを作るのも、わりと似ている技術な気がする。


『性能はどうなんだろうにゃ?』

「んー、確かに気になる……」


 俺とミーシャが話していると、近くで葉っぱを千切って遊んでいた影兎シャドウラビが、ピッと耳を立てて俺を見上げた。


『ボク、とってくる〜?』

「え、どうやって──って、そりゃ、影渡りに決まってるか。そうだなぁ……頼もうかな」


 操人形マリオネの影に潜んでる影兎シャドウラビに頼んでもいいんだけど、今はやる気いっぱいのこの子に任せるか。


 そう考えて俺が頷くと、影兎シャドウラビは目をキラキラと輝かせて『いってくる〜!』と答え、トプンとミーシャの影に潜った。


 しばらくすると、宝箱内を撮影中のカメラに、影兎シャドウラビの頭が映る。カメラのライトの死角にできた影に到着したらしい。

 長い耳が邪魔でよく見えないけど、ナイフに手を伸ばして影に引き込んだようだ。

 あっという間に影兎シャドウラビとナイフの姿が消える。


「仕事が早いなぁ」

『さすが影兎シャドウラビだにゃあ』


 ミーシャって、わりと影兎シャドウラビの評価が高いよな。

 何故か自慢げな表情をしているミーシャの頭を撫でる。


 もしかして、ミーシャは影兎シャドウラビのお姉さん気分なのかな。弟妹が活躍してて誇らしい感じ?


 なんかそう考えるとドヤ顔が可愛く見えてくる。

 ニャンコの時点で十分可愛いのに、俺を萌え殺す気か?


『おとどけもので〜す!』

「おわっ!? ぐふ……おかえり。ありがとなー」


 ミーシャをガン見していたら、その影から影兎シャドウラビがピョーンと飛び出してきた。


 顔面に影兎シャドウラビの腹アタックが決まって、思いがけず素晴らしいもふもふ感を堪能できたよ。ちょっと痛かったし、毛で鼻がムズムズするけどな。


 とりあえず俺の顔にへばりつく影兎シャドウラビの胴体を両手で掴んで、お腹に顔をすりつけてから、ガバッと引き離す。

 これ以上は、もふもふの過剰供給により勤労意欲が激減して、ミーシャに怒られてしまう。


 俺の両手に抱えられてプラーンと足を揺らした影兎シャドウラビは、きょとんとした顔をしていた。無防備な感じが可愛い。


 再びもふもふ萌えに浸りそうになったけど、ミーシャの視線を感じて、すぐさま精神を立て直す。

 俺のもふもふたち、すぐに俺を堕落させようとするから困っちゃうなぁ。


『ナイフいらないの〜?』

「いります。ありがとなー」


 影兎シャドウラビをあぐらをかいた脚の上に下ろす。そして、影兎シャドウラビが背負っていたナイフを受け取った。


 紐でナイフを体に括りつけるとか、この影兎シャドウラビめちゃくちゃ器用だぞ。


「結構重いのに、ちゃんと持ってこれて偉いなー。ご褒美にニンジンスティックをあげるぞー」

『わ〜い! ありがと〜』


 影兎シャドウラビがニンジンスティックを食べるポリポリとした音を聞きながら、ナイフを調べる。


「鞘付きのナイフ……小剣が近いか?」

『武器として使うにはちょっと短い気がするにゃ。冒険者が持ち運ぶ、ちょっとした作業用のナイフって感じじゃないかにゃ』

「確かに、果物ナイフとかこんな感じだよな」


 見た目は深緑色の鞘と柄のナイフだ。

 鞘から抜いてみると、金属の刃が光を反射してキラリと輝いた。

 元が灰色の粘土みたいなものだったとは思えない質感だ。

 刃の部分を爪先で弾くと、ちゃんと金属っぽい感触がある。


「……ナイフにしか見えない」

『そうだにゃあ。試し切りしてみるにゃ?』


 ミーシャが影兎シャドウラビ用に出してあったニンジンスティックを一本取り、地面の上に置いた。

 まな板が欲しいところだけど、試すだけなら問題ないか。


 ナイフの刃をニンジンスティックの中央に当て力を込める。


「切れ、た……けど……」


 思わず眉を顰めた。

 ほぼ圧し折ったレベルで、切れ味が悪かったのだ。

 ミーシャも半眼になっている。


『これ、何に使えるにゃ?』

「んー……粘土で作ったものだと考えたら上出来なんだけど、この見た目でこれはちょっとなぁ。砥いでみるか?」


 砥石を用意して、刃を研磨してみる。

 ……ちゃんと砥げてはいる。金属製になっているのは間違いない。変化しているのは見た目だけではないようだ。


 それなりに砥げたところで、再びニンジンスティックに刃を当てる。

 少し抵抗を感じたが、真っ二つになった。


『あ、切れたにゃ』

「だな。砥げば、なんとかナイフらしくなった」


 ナイフの評価をして、ふむふむと頷く。

 宝箱報酬の質はイマイチって感じだな。冒険者たちがほぼスルーするのも納得だ。


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