仁登里の秘密
「おかえりなさい。皆無事なのね、よかった」
基地に帰ってきてすぐ、阿賀野さんがそう言ってくれた。
「ただいま。最後に厄介なシンクがいたけど、皆川と光野のおかげで何とかなったよ」
「そうなの〜。久しぶりに光野さんの名前聞いたかもしれないわ。やっぱり光野さんと皆川さんって、ピンチの時に強いのね」
「私はただ魔力を渡しただけですよ~」
仁登里は私が入るもっと前からいるはずなのに、他の人からさん付けで呼ばれることが多い。仲の良い友達がいないから。
友達がいても、自分から積極的に話しかけないから親友にはなれない。
魔導士として活躍するには、人間関係は大事だ。仁登里みたいなサポート型は特に。
仁登里は何で、第一光描部隊に所属できるんだろう?
この部隊のサポート役なら第二光描部隊があるのに。
決めた。私は仁登里に近づいてその謎を解く!
次の日、まずは仁登里の練習を見学する。
「光野さん、練習中? 見学していいですか?」
「ええどうぞ」
仁登里は最初、攻撃の練習をしていた。
魔力を渡す必要が無いからか、いつもより強い魔法を使っている。
あっ、そこそこ威力がある。でも、この部隊にしては弱い。
それよりも、気にするべきことがある。
昔、光野は目が良くない、動体視力も良くないと言っていた。
目の前の光野は的に弾を命中させている。
真ん中を狙って、当てる。弾が的に空いた穴を通っていった。
自在に動く分厚い的に変わったら、足元を狙って倒したり、素早く続けて撃って、力の弱さを補っていた。
光野はそこそこ戦える。なのに、何故戦果を残せそうな所で人に譲る?
私はわからない。光野は戦闘に向いていない、弱いと言われて悔しくないの?
私なら絶対に嫌だ。弱いと言われながら、自分に出来ることを譲るなんて……。
嫌なことを思い出す。光野はどんな考えで、この立場を受け入れてるの?
「仁登里、何でここまで戦えるのに、力を使わないの?」
思ったことが口から飛び出た。
でも、聞いてみないとわからない。答えを聞けば私も変わるかもしれない。
私の嫌な思い出と仁登里の行動は、関係がある気がする。
「それはね……」
仁登里が何かを言おうとした。その時、サイレンが響く。
「強力なシンクの集団が出現! 第一光描部隊は用意でき次第ただちに出撃!」
こんな時にシンクが出るなんて……しかも強力な……。私は舌打ちした。
仕方ない。絶対に生き残って、撃滅して、答えを聞いてやる!
現場に急行すると、白い要塞のような大型シンクが六体、よく見ると、円柱形の頭部に岩を繋ぎ合わせたような腕、下に短く太い足があり、人型の要塞に見える。
他の隊員は先に戦っていた。
「消えろ!」
阿賀野さんの杖から生み出された大波が、燃えるシンクを飲み込んだ。
しかし、シンクは弱りながらも脱出した。
「しぶといわね……ほんと、そういうの大嫌い」
阿賀野さんは次の攻撃に移ろうとしていた。
「邪魔だから一掃~!」
その次に、飛んできた緑葉たちが全てのシンクを斬る。
葉はらせんを描いてシンクたちを斬り付け、この追撃のおかげで、阿賀野さんがさっき攻撃したシンクは瀕死の状態になる。
しかし、まだ動き回れるシンクが五体……。
「うーむ。打撃力に欠けるよね……」
全体攻撃を行った能代さんが口元に人差し指を当てた。
「よし、これでなんとかなりそう!」
確信の笑みを浮かべた阿賀野さんが杖を差し向けると、阿賀野さんの攻撃で瀕死だったシンクは消え、もう一体のシンクの動きが鈍くなる。
そこを狙って私は大槌を振り下ろした。
頭を叩き、その後着地した槌の上に乗る。
「やっぱり固い……弱ってても倒せないなんて……」
実力の差を見せつけられた気がした。叩きつけても傷が入った感触はなかったし、シンクは叩かれても全く動じていない。
これでもまだまだなんだ……。
シンクが動き出した。私は槌を引きずって退避する。
少し離れてから体勢を立て直した。
「僕に近づくな! 離れろ! さもないと……消えるよ」
酒匂さんの杖から黒い霧が出てくる。
シンクは濃霧に包まれ、動きを止めた。
「大夜、ありがとう。これで消すことが出来そうだ」
矢矧隊長が砂嵐を起こした。
砂と霧が混ざり、向こうのシンクが見えなくなる。
これで、終わりだ……。
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