シンクとの戦い

 アイリス平野に向かう道中、平野近くの市街地にもシンクは進出していた。このシンクは灰色の煙を玉にしたような形態で、大きさは人間の膝上くらい。複数体見受けられ、のそのそと街の中を嗅ぎ回っていた。

 私はその中のリーダーっぽいやつを先に潰して、雑魚は適当にやっつける。ここまで私に損害はなし。


 時間はちょっとかかっちゃったけど、討伐するのは簡単だった。進出した六体は雑魚だったし、雑魚のリーダーなんて楽勝。


 全滅を確認するとすぐにアイリス平野に向かう。


「わっ、開始すぐ攻撃ぃ!?」


 アイリス平野に踏み込んですぐ、シンクが私に瘴気を当ててくる。まあ大したことはなかったけど。

 参戦したばっかりで心の準備なんて出来てなかった。ボス級がいるのに油断し過ぎだ。


 矢矧隊長はシンクの瘴気を避けながら攻撃を続ける。素軽い感じではないけど、弧を描くような走りと器用に身を翻す動きをかけ合わせ、無駄のない身のこなしで回避している。


 杖から出る魔法は砂嵐のような見た目で、ぐるぐるとシンクを囲み、ダメージを与える。

 シンクは大分弱っているようだ。


「支援攻撃開始!」


 私はシンクの後ろに回り込み、大槌を振りおろす。

 大槌はスチールで出来ていて持ちやすく、攻撃時には金属の欠片を寄せ集め、振り下ろすと同時に突き刺す。

 この槌は攻撃力が低いと言われることもあるけど、自分に合っている最高の武器だと思う。


 よく曲がったり折れたりするんだけど直せば大丈夫だよね。


 どうやらさっきのでとどめをさせたようだ。


「シンクはいなくなったようだな。帰ろう」


 矢矧隊長はもう一人の隊員を呼び、シンクはいなくなったことを伝えた。


 帰り道、人々の感謝の声が聞こえる。この時間が好きなんだよね。


 帰ったら私の戦果も報告しないと。

 まっすぐ歩くと店構えはそのままで誰もいない市場に来た。さっきの襲撃で皆避難したらしい。いつ再開するのかな? 箱に積まれたりんごを見ていると食べたくなった。


 りんごから目を離し、自分の足元を見ると、大きな影がかかっていた。


 見上げると……。


「たっ隊長……」


「ここで仕留める。引き付けるから回り込んで後ろから攻撃してくれ」


 この大型のシンクは動きが遅いから、後ろからの攻撃は有効だ。こいつの攻撃が当たると痛いからそこは気を付けないと……まあ、当たらないか。


 シンクは矢矧隊長を見ている。私が今走っていることに気付いていない……。

 遅くて大きい敵は叩きやすい。地面を蹴りあげ、大きく振りかぶった。


「うっ!」


 振り下ろす前に、瘴気と爆風が私を襲った。

 しかし衝撃に負けてはいられない。むせ返るような圧力の中から何かが飛んでくる。

 飛んできた弾のようなものは咄嗟に大槌で叩き返したけど、かなりやられた。還元が間に合わない。


 これじゃ攻撃は期待できない……矢矧隊長だけに任せるのもなぁ……。隊長だけでも倒せないことはない。けど時間がかかるし何よりも攻撃を受けてしまう……。


 威力も期待できないけど、やるしかない。

これだけ還元しても、まだ必殺技は使えない。でも待ってられない!


 敵に向かって走り出す。その時……。


「皆川さん! 私の魔力、受け取って下さい!」


 もう一人の隊員が、銃に魔力を籠める。光る玉が私の胸に飛び込んできて、その後光に包まれた。

 眩しくて、暖かい。


 すると、損傷なんか気にならない程の力とやる気が湧いてきた。

 これは、まさか……。


「えーい!」


 槌を横に向ける。そして、シンクの横腹に強い一撃をぶちこんだ。

 シンクは悲鳴をあげて消えていった。


「お疲れ様です。無事帰れそうでよかったです」


 もう一人の隊員、光野こうの 仁登里にとりは髪を耳にかけ、微笑んだ。


「皆川、よくやった。光野も支援ありがとう」


「いえいえ、私はするべきことをしただけです」


 そう言う仁登里が気に入らなかった。

 あの時。仁登里が私に送ったのは強くて貴重な魔力だ。

 見分魔法を発動していれば、誰がどの程度力を持っているか見えるようになる。


 それによると、仁登里は必殺技をもう少しで出せるというところで、魔力を私に譲った。貯めて自分の攻撃に使っていれば評価されたのに……。


 光野 仁登里は光属性。光属性は瘴気に強い。そして、その強さも個人差がある。攻撃が得意や動きが速い、その逆もあったり、色々なタイプがある。


 共通する弱点は、必殺技を使う時は魔力を大量に消費することだ。


 私は仁登里が必殺技を使ったところを見たことがない。いつも支援にまわり、誰かの強化や余った魔力で攻撃をしている。余った魔力の攻撃はそこまでダメージを与えられない。

 周りからは引き立て役に見えるのに、仁登里は文句も言わない。

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