第4話 俺の大切なもの

 大和が連れて行かれた場所は、小高い丘の上にある住宅地の一つだった。そこは地域でも有名な高級住宅地だ。表札にはローマ字で「M I T S U M O T O」と書いてあった。


――みつもと……なんか聞いたことあるな。


 ん?みつもとって、もしかしてあの三本ホールディングス?


 大和のことを「坊ちゃん」って呼んでたってことは、もしかして、三本ホールディングスの御曹司だったのか?


 背中に冷たいものが流れるのを感じた。知らなかったとはいえ、ぞんざいな扱いをしすぎたかもしれない。


 でも、俺といる時の大和は楽しそうだったし、連れて行かれる時も行きたくないって言った。


 だったら連れ戻すしかないだろう。


 さすがに家に忍び込んだら、不法侵入になって捕まるだろうから、大和が出てくるのをひたすら待つしかないと腹をくくる。


 何日かかるか分からないと思っていた矢先、チャンスは訪れた。


「行ってきます」


 大和が玄関から出てきたのだ。俺は小さい声で、「大和!」と呼んだ。


 彼はこちらをチラリと向いて、目でついてくるように合図をした。大和と距離を取り、後を追いかける。


 ひと区画進んだところで、大和が振り向いて急に俺に向かって走ってきて抱きついた。


「日向!迎えにきてくれると思ってた!」


「……大和」


 彼の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。


「お前、三本ホールディングスのお坊ちゃんだったんだな」


 彼の耳元で囁くと、耳の端が真っ赤になった。


「バレると思ったから、苗字は言わなかった……」


 ふふっと笑うと、大和は恥ずかしそうにした。


 大和が俺の腕の中でモジモジしている。


「なあ大和。お前はどうしたいの?」


 俺をまっすぐ見つめる目は、力強い光を放っていた。


「俺は、親に決められた道じゃなくて、自分で決めた人生を歩みたい。親に勘当されたとしても」


「そっか。じゃあ、俺が手伝ってやるよ」


 俺はにっこり笑って大和の頭を撫で見つめると、彼は目を細めた。


「うん。ずっと日向と一緒にいたいと思ってた」


 まさか大和が俺と一緒にいたいと思っていたなんて。嬉しすぎる。


「じゃあ手始めに、苦手な料理を覚えることから始めてもらおうかな?」


 意地悪を言うと、大和は眉間に皺を寄せて嫌な顔をしたが、すぐに笑顔になった。


「いいよ。その代わり……」


 大和が俺の耳元に顔を寄せて囁いた。


「俺の恋人になってください」


 俺は返事の代わりに大和に優しくキスをした。

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海辺で拾った大切なもの 海野雫 @rosalvia

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