第3話 え?どう言うこと?

 大和と暮らすようになり、毎日が充実していた。最初は家事も全て俺がやっていたのだが、大和が手伝いたいと言うので当番を決めてやることにした。


 だが、手伝うといった割に、彼は全く何もできなかった。


「家事、やったことないの?」


「――うん。ごめん」


「別に謝らなくてもいいよ。やる気はあるってことだろ?俺が教えるから、できそうなことだけやって」


 そうやって、大和は自分のできる範囲で家事をやるようになった。自分のことを自分でするという当たり前のことが、楽しいようだ。


「ねえ日向、俺、洗濯干すの上手になったよね?」


 大和の嬉しそうな顔を見て、俺も心が温かくなった。そして、彼と過ごす日々が愛おしくて仕方ない。彼の笑顔が増えるごとに、彼への想いが強くなった。



「ギター持った?」


 今日はバンドのメンバーに大和を紹介するため、スタジオ練習に彼を連れて行くことになっている。


 華奢な体にギターを背負うと、嬉しそうに微笑んでいる。


「俺、ずっとバンドとか憧れてて、ギターやりたかったんだ」


 にこにこしながら言う大和の顔は、初対面の頃とは全く雰囲気が変わっていた。あの時の抜け殻のような顔は一体なんだったのだろうか。今はとても生き生きして充実しているのがわかる。


 確かに、好きなことをするのは楽しいもんな……。俺もバンドをやり始めた頃、寝る間も惜しんでギターの練習をしてたっけ。


「じゃあ行こうか」


 マンションを出た途端、急に黒服の男たちに囲まれた。俺は何事かと呆気に取られていたが、大和はぶるぶると小刻みに震えてる。


「坊ちゃん」


 その中の一人が大和に向かって声をかけてきた。


「探しましたよ。さあ。帰りましょう」


「嫌だ!俺は帰らない」


「そうもまいりません。もうすぐ受験がありますし、しっかり勉強していただかねばなりませんから」


 その男が右手を挙げると、周りにいた黒服の男たちが大和を取り囲んだ。


「日向!俺、帰りたくない!」


 大和は何度も俺の名前を必死に叫んだが、そばに止めてあったワンボックスカーに乗せられ去って行った。


 何が起こったのかすぐに理解できなかった。


 拉致?いや、そうではない。大和のことを「坊ちゃん」と言っていたし。


 しばらく呆然としていたが、車に乗せられる時の大和の顔と俺の名前を必死に呼ぶ声が何度も耳の中で聞こえた。


「助けに行かないと……」


 慌ててタクシーを拾い、大和を乗せた車を追った。

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