獲ったモン勝ちやからな!!

シエリアは近所の河原かわら土手どての上を散歩していた。


川の水がキラキラと太陽に反射はんしゃして美しい。


だが、そのささやかな幸福こうふくは謎の飛来物ひらいぶつによって破壊された。


「行くでぇ!! たああああ〜〜〜!!」


ザブーーーン!!


激しい着水音ちゃくすいおんのあと、落ちてきたそれは必死にもがいているようだった。


バシャ!! バシャバシャ!!


「あ、アカン!!」


声の主は明らかにおぼれている。そう認識した雑貨屋少女ざっかやしょうじょは助けに走った。


こう見えてもシエリアは泳ぎが得意である。


そこそこ水深があっても見事におぼれた人を救助した。


助けたのは腕がつばさ身体からだが人間、あし鉤爪かぎづめだった。


女性の姿をした半人半鳥はんじんはんちょうのセイレーンだ。


海で歌を歌い、船を沈めるというアレである。


だが、見た目は綺麗きらいなカワセミ色をしており、うわさに聞くセイレーンとはだいぶ違った。


「おえっほえっほ!! あかん、水飲んでもうた!!」


人とざりもの。亜人あじんはむせた。


「ううっさむっ。話はお店でしましょう。さぁ」


そう言ってシエリアはセイレーンもどきを雑貨店ざっかてんまねき入れてだんを取った。


温まってくると互いに余裕がでてきた。


「うち、チサトいいます。ねえちゃん、ほんまにありがとうな」


辞儀じぎをされて、シエリアも名乗り返す。


「あ、はい。私はシエリア。このお店の店主をやってます」


それを聞いてチサトは目を見開みひらいた。


「ほぉ。若いのにたいしたもんやなぁ……それにくらべてうちは……」


彼女の顔色がくもった。


なにか事情があるようだ。


「あ、あのぉ……どうして自分から川に飛び込んだりしたんですか?」


さすがに身投みなげには見えなかった。


深刻しんこくな表情のまま、半人半鳥はんじんはんちょうは語りだした。


「うちな、魚とろうとおもったねん。でもな、どうやってもうまくいかんでな」


どうやらりをしようとして飛び込んだらしい。


「うちら、カワセミしゅいうてな。こうやって川でりをして暮らしてるねん。でも、うちは見ての通りヘタレでなぁ」


カワセミは頭から水面すいめんにダイブして獲物えものをハンティングする。


きっとこの亜人あじんもそうやって食べ物を得るのだろう。


だが、の前の彼女はどうやらりが上手くないらしい。


事態じたいはかなり悪いようだ。


チサトは追いめられている様子だっま。


そんなカワセミを見かねてシエリアは声をかけた。


ちからにならないかもしれませんが、私も手伝てつだいますよ!!」


雑貨屋少女ざっかやしょうじょはなんだかんだでお人好ひとよしだ。


必ずしもトラブル・ブレイカーとしての依頼だけ受けるわけでもなく、みずか人助ひとだすけを買うこともままある。


「ほんまかぁ!? ありがとうな!! うち、がんぱるかんね!!」


また安請やすうけ合いしてしまったとシエリアは内心ないしん後悔こうかいしたが、それはいつものことである。


川で練習するのは寒すぎるので、屋内おくない市民しみんプールを使うことにした。


セポールはこういったしっかりした公共こうきょう施設しせつが多い。


コーチはミディアムの桃色ももいろの髪をお団子だんごにしたシエリアだ。


チサトの泳ぎの実力を見ようとするとすぐにボロが出た。


「水に顔をつけて!!」


半人半鳥はんじんはんちょうは頭をつけるとそのままジタバタとあばれ出した。


すでにこの時点でおぼれている。


泳ぎがどうこうというレベルではなかった。


だが、シエリアはさじを投げなかった。


カワセミしゅでは無いので、彼女特有かのじょとくゆう身体からだかしたりは教えられない。


しかし、着水ちゃくすいバランスなど応用おうようできることもある。


こうして数日間すうじつかん、みっちりとした特訓とっくんが行われた。


「……どうかな? もぐってみて!!」


成果せいかをみせるべくチサトはうでをしならせて美しく着水ちゃくすいした。


その所作しょさはカワセミのハントそのものただ。


だが、水に入るとすぐに亜人あじんおぼれてしまった。


「はぁ……やっぱりダメかぁ」


ここで投げ出すつもりはないが、かといってこのままでは何の解決にもならない気がした。


カナヅチを矯正きょうせいするのはかなり難しいとシエリアは経験則けいけんそくではわかっていたのだが。


「やっぱ、わて、あかんわ。カワセミしゅあきらめてべつのかたしますわ……。でも、このままじゃかあちゃんにもうわけがたたんで……。ホンマに」


ますますチサトは落ち込んだ。


「かあちゃんはずっとうちのこと、はげましてくれてな。あんさんはあんさんらしく生きていけばいいっちゅうてな」


シエリアは首をかしげた。


「う〜ん、別のかた、別の方法ねぇ……」


そうつぶやきながら雑貨屋ざっかや冷蔵庫れいぞうこから適当てきとうにアイスをひろうとチサトに渡した。


「ま、こういう煮詰につまったときはアイスタイムにかぎるよ。ちょっとお高いアイスだからね」


そう言われた亜人あじん高級こうきゅうアイスのエリキシーゼを口にはこんだ。


「……なんや、変わったあじしますなぁ。青臭あおくさいっちゅうか……」


シエリアも続けて食べた。


「ん〜〜。確かに変わったあじだね。あとからフレーバーを確認するのもまた醍醐味だいごみだよ」


そう言いながらアイスフリークは容器ようきの底をのぞいた。


「えっと、なになに……。ジャンボ・グリーン・イモムシのフレーバー? うわぁ、変わりだね〜〜」


とんだゲテモノのはずだが、さすがそこは高級氷菓こうきゅうひょうか


しぶみをかし、うまくまとめている。ジェントルメン的な風味フレーバーだ。


これにはチサトも魅了みりょうされたらしく、ニコニコしながらアイスを食べている。


その時、シエリアはひらめいた。


「別の生き方……方法……イモムシ!!」


トラブル・ブレイカーは立ち上がった。


「チサトさん、魚がれればいいんですよね!?」


その勢いにカワセミはおどろいたが、コクリコクリとうなづいた。


翌日、シエリアは竿ざおを持って現れた。


「う〜ん、って来たけど、私もあんまりりには詳しくないんだ。でも、せっかくだしやってみようか!!」


チサトの手先は意外に器用きよう竿さおにぎることが出来た。


「そう。それで《はり》針の先にイモムシをつけて……投げる!!」


こうして2人はならんで釣りを始めた。


すぐにチサトの竿さおがしなりだした。


「あ!! かかってる!! 逃げられないように落ち着いて、引き寄せて!!」


アドバイスを聞いた半人半鳥はんじんはんちょうはうまいこと魚を釣り上げた。


「はああ!! うち、魚とった!! 魚、ったでぇぇぇ!!」


彼女はさけびにも歓声かんせいを上げた。


今まで長らく苦しんできたのだ。無理からぬことだった。


結局、シエリアは1匹も魚が釣れなかった。


一方のチサトは3匹も釣っていた。


教えるつもりが教えられてしまった感がある。


魚が獲れた亜人は手早く荷物をまとめ出した。


ややせわしないが、早いこと故郷に帰りたいのだろう。


「ほんま、ありがとな!! ちぃとばかしカワセミの流儀りゅうぎとは違う気もするけど、魚、ったモン勝ちやからな!! 大手おおでって母ちゃんとこかえれるで!! シエリアも達者たっしゃでな!! またな〜!!」


そう言うと彼女は笑顔で手を振りながら空へ飛び立っていった。


「お〜い!! チサトさ〜〜ん!! またね〜!!」


チサトが見えなくなるまでシエリアも手を振るのだった。



竿ざおで魚を釣るカワセミなんて聞いたことがありません。


でも、なんだかんだでチサトさんは上手くやっていけるんじゃないかと思います。


それはそうとイモムシあじってどういうことですかね。


エリキシーゼがネタ化してしまうのでは?


え? すでにキワモノあつかいですか!?……というお話でした。

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