これも、いつもの朝

空乃晴

第1話

朝日が優しく照らされているキッチンで、レンジレンジで牛乳をあたためた。飲み物のはいったマグカップは、わたしのお気に入り。長年愛用していて、優しい絵本のような色使い、手に馴染むところが好きだ。

あたためおわった音がして、わたしはマグカップをとりだす。

並々そそがれたコップに、コーヒーの粉をいれた。朝の気合い入れは、いつもこうだ。ほどよくお腹も満たされる。わたしのいつもの朝は、こうしないとはじまらない。

レンジレンジを置く白い棚の近くに、いつも座る木製のイスがある。イスに腰をおろして、リビングにあるテレビを、遠くからながめる。

いつもの牛乳。いつものマグカップ。いつものイス。そして、いつも観る、朝の番組。


このいつもは、いつまでつづくだろう?


このイスだって、マグカップと同じで、ずっと使っているもの。木製のもので、少し禿げてきている。


同じ日常だけれど、ちょっとした変化もあって。


「あ、この番組も、あと一回で終わりなのね」

つぼみはテレビの画面をみながら、少し寂しくなった。座っていたイスから腰を浮かし、立ちあがろうとした。


パリン!


お気に入りのマグカップが割れる音がした。

あと一回で終わる番組に気をとられ、手を滑らせてしまったのだ。


「このマグカップとも、おわかれかぁ……」


今日もいつもの朝を迎えるはずだった。

でも、わたしの思ういつもの朝は、もう来ない。


「今日は休みだし、志歩に連絡いれて、ショッピングでもしようかな」


マグカップの破片を気をつけながら処理した。わたしは、絵本のような色合いが気に入っていたマグカップとの別れを惜しんだ。


マグカップの破片の片付けが終わり、友達の志歩に連絡をいれる。彼女はマメな性格なので、すぐに連絡がはいった。


『今日はヒマだしいいよ! ショッピング行こう!』


その文面をみて、わたしはすぐに身支度をはじめた。服を手にとり、鏡に映る自分をみる。髪の毛、この前切ったけど、少しのびたかも。


いつもの朝はもう来ないと思ってた。

でも、いつもの朝って、実はないのかも。


「じゃあ、この服はやめて、いつもとは違うコーデにしよっ」



「わぁ、つぼみ、雰囲気変わったね!」


友達の志歩と、いつもとは違う待ち合わせ場所で合流した。


「今日はくすんだ桃色と薄い茶色で、髪の毛もおろしてみたの」

「ゆるふわって感じ! そういう気分? いつもと違うから、びっくりした!」

「志歩ちゃんの今日のコーデも、かわいいよ。ヘアバンダナがよく似合う!」

おしゃれに興味のある志歩に新しいスタイルを褒められて、わたしは頬がゆるんだ。

「昨日新しく買ったの。__今日ショッピングするんだったら、我慢すればよかった……!」

「志歩ちゃんのヘアバンダナコーデ、今日みれてよかったよ!」


志歩のファッションと、わたしのファッション。

ふたりとも、いつもの格好じゃない。

志歩はなんでも似合うからいいけど、わたしは大丈夫かな。

街中のお店のガラスに映る自分の姿を何度も横目でみた。

「なんだか、そわそわしてない?」

「いつもの服じゃないから、慣れなくて……」

「かわいいから、大丈夫!」

志歩がわたしにむかって、安心させるように満面の笑みをうかべながら、ピースサインをおくった。

志歩のあたたかいかけ声に、わたしの緊張は一気にほぐれた。

「新しくお迎えするマグカップも、手に馴染むといいな!」

ビビッとするものがありますように! わたしは心の中で祈った。


「そういえばさ、あの番組終わるんだよね?」

そっか。いままで口にしてなかったけれど、志歩もみていたんだ。

「朝のルーティーンにしていたから、あの時間、なにして過ごそうかな」

志歩が思い悩むようにまゆをひそめ、人差し指をあごに軽くあてていた。

わたしは、志歩に共感していた。毎朝の通勤前のあのちょっとした時間に、くすっと笑えるものを観て癒されていたのに。明後日から、何をするか考えなくちゃ。


「ねえ、その時間、たまに電話してもいい?」

志歩の少し甘えるような声に、わたしはちょっと嬉しくなった。志歩との会話なら、くすっと笑える話題もあるし、いつもの声に、癒される。

「いいよ。

わたしも、空白の時間、寂しいから」

わたしは会話しながら選んだマグカップを手にとった。いつも使っている雰囲気とは少し違う。つぼみ柄のはいった、今日のコーデにぴったりの色合いのマグカップだ。

「決まりね」

わたしが新しいマグカップをもってはにかむと、志歩が微笑んだ。

「次のマグカップも、決まったんだね」

「また、いつもの朝が楽しくなりそう……!」





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