第2話
卒業式も恙なく終わり、わたしは校門前で美亜が来るのを待っている。
三年間特に誰とも交流しなかったわたしはホームルーム後そそくさと教室を出て卒業生の中で校門に一番乗りで着いた。
待つこと十数分、名残惜しそうな雰囲気の卒業生たちが疎らに出てきたその中で、
「みぃゆぅ~。お待たせぇ~~っ!」
にこやかに手を振って駆けてくる美亜がいた。
「ううん。それにしても……美亜は相変わらず人気だね」
ブレザーのボタンが袖に付いてるのも含め総て無くなっているということはそういことだ。
「まあねぇ、男の子にあげるのは絶対に嫌だから女の子だけに、ね」
「それで本音は?」
「もちろん。愛する
わたしの顎に手を添えて聖母様のような慈悲深い微笑みを浮かべる美亜。
「「「きゃあ――――――――――っ♡」」」
「…………」
そんなわたしたちに黄色い歓声が飛び交う度に思うけれど、女の子同士の絡み――百合だったかな? こういうシチュエーションが好きな人もいるのは知っているけれど、美亜のような美少女の相手がわたしみたいな
そして美亜は例の一件以来、徐々に本性が現れてわたしが高校合格を報せた時に一頻り泣いた後『告白』してきた。
両想いの仲良し姉妹だとは思っていたけれど、わたしは美亜のことを双子の姉妹としての好きなのに対し、美亜はわたしのことを恋愛対象としての好きだと思っていたことに驚きを隠せなかった。
美亜に好きでいてもらえるのは嬉しいけれど恋愛対象となれば話は別で、わたしはお断りの返事をして再び美亜を泣かせる結果となった。
その日は二重の意味で罪悪感を抱いたわたしは美亜と一緒に眠り、それ以降はまるで何事も無かったかのように平穏な日々。
そして今も――
「ここは騒がしいし、早く二人っきりになりたいから行こっか?」
――わたしの手を取って促す美亜につられて一緒に歩き出す。
※
ファーストフードのお店で軽くお昼を摂ってから喫茶店での他愛のないお喋り、中学校では立ち寄りどころか買い食いすら禁止だった為この背徳感と解放感は楽しかった。
友達のいない半引きこもりだけど……。
男女問わず告白される美亜の話に驚いたり、その告白を「わたしは美由一筋だからぁ♡」って
「キミ可愛いねぇ。俺らと一緒に遊びに行かない?」
「ゲーセン? カラオケ? 何ならホテルでもいいぜ?」
「「ぎゃははは。お前飛ばし過ぎ!」」
――喫茶店からの帰り道、わたしたち……と言うより、美亜が男の子たちにナンパされた。
「え、えっと、わたしたちはこれから帰るところですから……」
戸惑いながらもはっきりと断る美亜に気を悪くした様子も見せず彼らは、美亜と手を繋いでいたわたしを一瞥して続ける。
「そっちの陰キャも一緒でいいからさ。それならどう?」
「そ―そー。そんなコブ付きでも俺らは気にしねぇからさぁ」
「うん? 雰囲気は全然違うけど、そっちもスタイルいいねぇ……てか同じ? ひょっとしてキミたち双子? 似てねぇ~、マジウケる!」
わたしたちが双子だと気付いた一人がけらけらと笑い出し、
「おいおい、ホントの事だからってレディに失礼だぞ」
「まあ、その辺は目を瞑れば愉しめそうだしなぁ!」
あとの二人も同調して笑い声をあげた。
わたしとしては自分の事は諦めていたから冷静でいられたけれど――
「バカにしないでください……」
「「「あ?」」」
「何も知らないくせに、わたしの妹をバカにしないでくださいっ!!」
我慢の限界だった美亜が叫んだ。
こんな状況だけど嬉しくて涙が出てきた。
「もう遅いし早く帰ろうか」
「え?」
まるで何事も無かったかのように笑い掛けてきた美亜の切り替えの早さに呆気にとられ涙もすぐに引っ込んだ。
「どうしたの? あまり遅くなるとお母さんが心配するよ」
「そ、そうだね……」
流れる様に美亜に誘導されて一緒に帰ろうとしたところで、
「「「ちょっと待てや。こらぁっ!」」」
「ひぃっ!?」
美亜の奇行に呆然としていた彼らも我に返って怒鳴り、よりにもよってわたしの肩を掴んできた。
「優しくしてればつけ上がりやがって、痛い目に遭いたいのか?」
あっという間に囲まれて凄まれる。
優しく、と言われてもわたしは罵倒されただけだし、ナンパされたのは美亜だけだったし……理不尽だけど、怖くて足が竦んで体が震える。
「妹に触らないでください」
掴まれていた肩を美亜が引き剥がしそのまま後ろに庇ってくれたけれど、気丈に振る舞う美亜も恐怖で足を震わせていた。
「いいぜ? 二人纏めて躾てやるよ」
わたしたちに迫る魔の手。
そして――
「お前ら何やってるんだ?」
ドスの利いた低く威圧的な声が響いた。
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