第3話

「お前ら何やってるんだ?」


「あ”ぁっ? テメェには関け、いな……ひぃっ!?」


「「「「――っ!!!?」」」」


 唐突に響いた威圧感のある第三者の声に一人の男の子が反応して反抗的な態度で突っ掛かろうとした刹那、相手の姿を捉えるとその勢いは失速し短い悲鳴を漏らして固まった。


 そんな彼の様子を不審に思ったわたしたちも声の主を目に留めた途端同様に固まってしまった。


 逆立った銀髪に射貫くどころか見るもの総てをを切り裂かんばかりの鋭い眼差し。

 上背があり肩幅も広くがっちりとした体格から放たれる圧倒的な強者のオーラはわたしたちどころか、周辺を歩く人たちさえも怯えさせる破壊力がある。


「もう一度訊く。お前ら何やってるんだ?」


「「「う、うわぁあああああああああああああああっ!」」」


 そのナイフのような視線を受けナンパをしてきた男の子たちは悲鳴を上げ逃げていった。


 彼が現れて数分の出来事だった……。


「ったく……こっちは質問しただけだぞ。逃げるにしても悲鳴はないだろ……」


 そんな事をぼやきながら頭をぐしゃぐしゃと掻く彼……え?


 質問しただけ?

「「質問しただけ?」」


「あ?」


「「ひぃっ!?」」


 つい思ったことが口から出たそれは図らずも美亜とハモってしまい、彼に睨まれて二人抱き合った状態で後退る。


「あ~、めんどくせぇ……」


 再びガシガシと頭をかいて彼はこっちを睨んできた。


「そっちの眼鏡の方」


「は、はいぃっ!」


 急に呼ばれてビクッと体が硬直する。


 自分が呼ばれた訳でもない美亜まで固まっている。


 さっきのハモってしまったことといい、変な処で自分たちは双子なんだな、と実感してしまう。


 なんて現実逃避をしていたら――


「なんでそんな偽装なりをしてるかは詮索しないが、そのはともかくは止めておけ。不衛生に映る」


「え? あ……」


 不意に聴こえたセリフに驚いて視線を向けると、既に踵を返して歩いていく彼の後ろ姿。


「こ、怖かったねぇ~。美由ぅ~~!」


「う、うん。そうだね……」


 銀髪の彼がいなくなったことで霧散した威圧感から解放された美亜が安堵の溜息を漏らす横で、恐怖とは『別の』ドキドキでわたしの体は熱くなっていた。


「見抜かれてる……」


 


 ミーちゃん美亜のニセモノ――且つて言われた今は些細でも大きなトラウマの蔑称。


 美亜や他の子たちに甘えて自分から踏み出す勇気も持てず、人との交流を勝手に諦めた自分を、孤立した自分の心を護る為のわたしの偽装


 今まで誰も近付けなかったその間隙を突き破ってきた言葉


 傷つきたくはないけれど……寂しかった。


 寂しいのに踏み出す勇気も持てず……拒絶した。


 拒絶したから今更自分から近づくのは……怖い。



 そんな負の連鎖感情に初めて綻びが生じ、冷え切った心と体がき焦がれそうなくらいに熱くて――苦しい……。



 わたしがわたしでなくなっていくような……――




「……――っ! …………ぅっ! 美由ぅっ!!」


「……み、あ? ――えっ、美亜っ!? え? えぇっ?? あれ、わたしの、部屋……?」


「美由っ! よかったぁあああああああああっ!!」


 朦朧とする意識の中、気が付くとわたしは自分のベッドで眠っていて、目が覚めると傍でずっと呼び掛けていたらしい制服姿の美亜に抱き付かれた。


「え、えっと……」


「あのがいなくなってから急に倒れちゃったんだよ? 何度も呼んでいたのに目が覚めなくって、お母さんに迎えに来てもらって取り敢えず様子を見てたんだけど……大丈夫?」


「大丈夫……わたし、は――っ!?」


 美亜に返事をする途中で不意にの後ろ姿が過ぎって鼓動が暴れだし言葉が詰まった。


「美由?」


「ごめん美亜。一人にして……」


「わかった……」


 心配してくれる美亜には悪いとは思っていても、心と体が離れてしまったかのような違和感が拭えない。


 今もなお頭の中で支配する姿がわたしを惑わせる。




『なんでそんな偽装なりをしてるかは詮索しないが、そのはともかくは止めておけ。不衛生に映る』



 あの人にとってはただわたしにのつもりなんだと思う。


 だけど、わたしは……――


「体が熱くて、苦しい……だけ…………」



 見失ったを確かめる為に……。




 その日わたしは一睡もできず寝不足のまま引っ越しを迎える羽目になった。

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