深町尚久は、三日後の昼、また食事に誘いにきた。私はいつも、通学途中にコンビニで買ったおにぎりを、空き教室で食べるだけで昼飯をすませていたから、それを口実にその誘いを断った。すると深町尚久は、するりと教室を出て行き、ああ、諦めたのだな、と思った私が空き教室に移動しようと荷物をまとめている最中に、コンビニのレジ袋を下げて戻ってきた。

 「俺も教室で食うよ。」

 「……。」

 目の前で少し息をはずませている男が、なにをしたいのか分からなくて、少し不気味なくらいだった。私にだって、私と食事をするのが楽しいことではないことくらい分かる。私は陰気だし、口もうまくない。

 「……なんで?」

 「なんでって、古谷さんが教室で食うって言うから。」

 私が聞きたいのはそういうことではなかったけれど、それ以上言葉を重ねる気にもなれなかった。毒気を抜かれたみたいになってしまって。

 レジ袋をかさかさいわせた深町尚久は、私の後をくっついて空き教室に入り、私が座った一番後ろの端っこの席の隣に座った。そこで弁当を食べながら、深町尚久はさっきまで出ていた授業のレポートの内容だとか、教授の癖だとか、他に取っている授業で楽な単位はあるかとか、そんな話を軽やかに繰り広げた。なんというか、その軽やかさはこれまで私の人生にはなかったものみたいな感じがして、私はとまどい、つまずき、いつも以上にうまい言葉を返せなかったのだけれど、深町尚久はそれでもいやそうな顔一つせず、せっせと話題を広げていった。

 私は途中から、こういうのが一般的な大学生なのだろうか、とか、私もこんなふうに話せれば友人ができるのだろうか、とか、世の大学生はみんなこれくらい喋れるのだろうか、とか、色々なことを考えてしまって、なんだか胸が苦しくなった。それでもなんとかおにぎりを二つ食べきり、じゃあ、と、席を立ってその場を逃げだそうとすると、深町尚久も私について席を立った。

 「古谷さん、三限あるの?」

 「……ないよ。」

 「なら、次の授業までどっかで時間潰さない?」

 そう言われたとき、私は唐突に、本当に唐突に、この男と寝たいと思った。あまりにも私と違うこの男と寝たら、なにかが変わると思ったとか、そんなことではない。どちらかというと、この男と寝て、この男を自分と同じ場所まで引きずり降ろしてやりたいと思った。

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