陽射しの強い午後、「心のカフェ」の扉が開き、一人の青年が入ってきた。彼は髪を無造作にまとめ、目元に疲れた様子が見受けられた。肩を落として店内に歩み寄り、窓際の席に座ると、深いため息をついた。

　沙月はいつものように温かい笑顔で迎え入れたが、彼の表情には何か重苦しいものが感じられた。

　「いらっしゃいませ。今日はどうなさったんですか？」沙月が優しく声をかけると、青年は少し沈黙してから、ゆっくりと口を開いた。

　「最近、全然やりたいことが見つからなくて……。学生時代は夢があって、未来にワクワクしていたのに、今はただ毎日をこなすだけで、何もトキメキを感じないんです。」

　青年の声には、どこか焦りと絶望が混じっていた。

　「何をしても、楽しめないんです。」彼は続けた。「食べ物にも興味がなくて、ただ簡単に食べられるファーストフードを摂るだけで、もう何でもいいと思ってしまって。」

　沙月は静かにその話を聞き、ゆっくりと頷いた。「それが、トキメキを失ってしまった原因かもしれませんね。」

　「え？」青年は驚いたように顔を上げた。

　「食べ物には、心と体を元気にする力があります。特に、毎日簡単に済ませるファーストフードは、栄養が偏りがちで、体も心も疲れやすくなります。あなたのトキメキが失われたのは、もしかしたら食生活が影響しているかもしれませんよ。」

　青年は少し戸惑いながらも、その言葉をじっと考え込んでいた。

　「確かに、最近ファーストフードばかり食べてるな。昼ご飯はいつもハンバーガー、夜はピザやフライドチキン。食べた後は満腹感はあるけど、心はどこか空っぽな感じがする。」

　「その通りです。」沙月は優しく言った。「ファーストフードは、手軽で美味しいですが、栄養バランスが偏っていて、体のエネルギー源としては十分ではありません。それが続くと、体も心も疲れ、トキメキを感じることが難しくなります。」

　青年は黙って頷き、彼の顔に一瞬、理解の表情が浮かんだ。

　「じゃあ、どうすればいいんですか？」

　「簡単です。少しずつ、体に優しい食べ物に変えていくことです。」沙月は微笑んだ。「今日は、特別な料理を作ります。あなたが忘れていたトキメキを、少しでも取り戻せるように。」

　沙月は厨房に向かい、しばらくしてから一皿の料理を持ってきた。それは、フレッシュな野菜とオリーブオイルを使ったヘルシーなサラダと、グリルしたチキンを添えたものだった。

　「こちらが今日の料理、『トキメキを呼び戻すサラダ』です。」沙月は優しく差し出した。

　青年はその皿を見て、少し驚いた様子で目を見開いた。

　「サラダですか？」

　「はい。野菜には、体を元気にし、心にポジティブな影響を与える成分がたくさん含まれています。特に色とりどりの野菜には、ビタミンやミネラルが豊富で、心をリフレッシュさせる力があります。」

　青年は少し戸惑いながらも、一口サラダを口に運んだ。野菜のシャキシャキとした食感が広がり、オリーブオイルの風味が優しく口に広がった。その味に、彼は思わず驚きの声を上げた。

　「これ、美味しい……！」

「　体に優しい食事は、心にも優しく響きます。」沙月は微笑んだ。「栄養がしっかりと補給されると、体の調子が良くなり、心にも余裕ができ、自然と前向きな気持ちが湧いてきます。」

　青年はその後、サラダを次々と食べ進めながら、少しずつ表情が明るくなっていくのを感じた。

　「こんなにサラダが美味しいとは思わなかった。普段はファーストフードばかりだったから、こんなシンプルで優しい味がこんなにも心に染みるなんて。」

　「それは、あなたが本来求めていた食べ物だからです。」沙月は穏やかに答えた。「体が本来必要としているものを摂ることで、心も元気を取り戻し、トキメキを感じられるようになるんです。」

　その後、青年は少し驚きながらも、心から楽しそうに話し始めた。

　「実は、昔から音楽が好きだったんです。けど、最近は何もやる気が起きなくて……。でも、今こうして心が少し軽くなった気がして、また音楽に挑戦してみたいなと思いました。」

　「それは素晴らしいですね。」沙月は微笑んで言った。「トキメキは、心が元気を取り戻したときに、自然と芽生えるものです。」

　その日、青年は「心のカフェ」を後にする時、以前のように輝く目で前を見据えて歩き出した。

　「今日はありがとう。これから、少しずつ食生活を見直して、トキメキを取り戻していきます。」

　沙月は静かに見守りながら、心の中で願った。彼が再び夢を追い、心の中でトキメキを感じる日が来ることを。