第4話 笑えなくなった少女と「白砂糖との別れ」

 曇り空が広がるある午後、「心のカフェ」の扉が静かに開かれ、一人の少女が入ってきた。目が伏し気味で、どこか遠くを見つめているその姿に、沙月は自然と視線を向けた。少女はゆっくりと店内に足を踏み入れ、テーブルに座った。


 「いらっしゃいませ。」沙月が穏やかに声をかけると、少女は驚いたように顔を上げ、そして小さく頷いた。


 「こんにちは。」彼女の声はどこか寂しげで、心に何か重いものを抱えているようだった。


 「どうされましたか?」沙月は優しく尋ねた。


 少女は少し黙ってから、ゆっくりと口を開いた。


 「最近、全然笑えないんです。家でも学校でも、みんなが楽しそうにしているのに、私は笑う気になれなくて……。無理に笑っていると、もっと心が苦しくなってきて。」


 沙月は静かに頷き、その言葉を受け止めながら、少し考え込んだ。


 「笑顔を取り戻すために、まずは体の中から変えてみることが大切かもしれません。食べ物が心に与える影響は、とても大きいんです。」


 少女はその言葉に少し驚き、目を見開いた。


 「食べ物が心に? でも、私は甘いものが好きで、よく食べてしまうんです。」


 「それが、実は関係しているかもしれません。特に、白砂糖を多く含む食品は、体や心に大きな影響を与えることがあります。今日はそのことをお伝えしたいと思います。」


 沙月は温かいティーポットを取り、静かにお茶を淹れながら続けた。


 「白砂糖は、急激に血糖値を上げるため、短期的には一時的に元気を感じることがあります。しかし、その後に血糖値が急激に下がると、逆に気分が落ち込み、心が不安定になることがあります。笑顔が自然と出なくなるのも、その影響があるかもしれません。」


 少女はじっと沙月の話を聞いていた。


 「だから、白砂糖との別れが大切なんです。少しずつ甘いものを控えて、体に優しい自然の甘さを取り入れていくことで、心も穏やかになり、笑顔が戻ってきます。」


 少女はその言葉を静かに受け入れた。


 「でも、甘いものをやめるのはちょっと難しいです。」


 「最初は少し難しいかもしれません。でも、代わりに食べることができる美味しいものはたくさんありますよ。」沙月は微笑んで答えた。「例えば、今日は特別なデザートを作ります。甘さは自然のものから来る優しいものにしましょう。」


 少女は少し不安そうにしたが、沙月の微笑みに少し安心した様子でうなずいた。




 沙月は厨房に向かい、しばらくしてから、温かいデザートを持ってきた。それは、白砂糖を使わず、天然の甘さを引き出すために、メープルシロップと少量の甘いフルーツを使った優しいデザートだった。


 「こちらが今日のデザート、『自然の甘さのデザート』です。」沙月は優しく差し出した。


 少女はそのデザートを一口含んだ。最初の一口、彼女の表情に変化はなかった。しかし、徐々にその口元がほころび、瞳が少し輝き始めた。


 「これ、すごくおいしい……! 甘いけど、すごく優しい味。」


 「そうでしょう? これは白砂糖を使っていませんが、果物とメープルシロップの自然な甘さが引き立っているんです。」


 少女はゆっくりとデザートを食べながら、少し驚いた様子で続けた。


 「こんなに美味しいものがあるんですね。普段は、白砂糖入りのケーキやお菓子ばかり食べていたけど、こんな優しい味の方が、心が落ち着く気がします。」


 「それは、体が本来求めているものだからです。」沙月は優しく答えた。「心と体はつながっていますから、体が求めるものを与えると、自然と心が安定して、笑顔も戻ってくるんです。」




 その後、少女は店を出るとき、以前のように笑顔を見せていた。


 「今日はありがとうございました。少しずつ、甘いものを控えて、もっと元気になれる気がします。」


 「それは良かったですね。」沙月は微笑んで答えた。「白砂糖との別れが、あなたにとって新しい一歩になりますように。」


 少女は深く頷き、少しずつ歩き出すと、周囲の景色が新しく見えたように感じた。心の中で、自然と笑顔が浮かんでいた。

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