第9話:ラジオが届けるもの
午後3時を知らせるラジオの時報が、店内に軽やかに響く。「花かご」の賑わいは少し落ち着き、常連客たちが花を手に談笑していた。千代はカウンターでレジを打ちながら、耳を澄ませてラジオの放送に聞き入る。
「続いて、地元のニュースをお届けします。」ラジオから流れるアナウンサーの明るい声が店内を包む。街で行われるフリーマーケットの情報や、地域の商店街でのイベントなど、どこか親しみやすい話題が続く。
「この商店街のイベント、花を持っていったら似合いそうですね。」花束を受け取った女性客が笑顔で話しかける。
「そうですね。賑やかになるでしょうし、良いアイディアかもしれませんね。」千代も微笑んで答える。ラジオを通じて届けられるニュースが、人々の会話をつなぐきっかけになっている。
次のコーナーは地元企業の宣伝だった。小さな食堂や雑貨店が紹介され、その中に「花かご」の名前も挙がった。千代は驚きと嬉しさを隠せず、手を止めて耳を傾けた。
「花かごでは、新鮮な花々を取り揃えています。季節の移り変わりを感じられる花束をぜひ。」アナウンサーの声が柔らかく響く。千代はふと周囲を見回し、訪れる人々がその言葉に共感するように頷いているのを見て、胸が温かくなった。
さらに流れてきたのは、新曲の紹介だ。軽快なリズムと心に残るメロディーが、店内に新しい風を吹き込む。お客の一人が小さく口ずさみ、他の客も耳を傾けていた。
「素敵な歌ですね。これ、今流行っているんですか?」若い男性が尋ねてきた。
「ええ、ラジオで紹介されているんです。こういう曲が流れると、なんだか店も元気になる気がします。」千代が答えると、男性は頷きながら、花束を一つ手に取った。
ラジオはただの音楽や情報だけではなく、「花かご」に新たな活気を与え、人と人をつなぐ架け橋のような存在だった。店内に広がる花の香りと調和し、千代の日常を彩り続けている。
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