第10話:新しい音、懐かしい響き

午後の穏やかな日差しが「花かご」に差し込み、店内には心地よい花の香りとラジオの音楽が満ちていた。軽快なリズムの新曲が流れ出し、お客たちの耳を引く。


「これ、最近話題の曲ですよね?」若い女性が友人と話しながら小さな花束を選んでいる。


「ええ、さっきラジオで紹介されていたばかりみたいです。」友人が答えると、二人は自然に口ずさみ始めた。その明るいメロディーが店内の雰囲気をさらに活気づけ、他のお客たちもつられてリズムを刻み始める。


千代はカウンター越しにその光景を微笑ましく見つめていた。新曲の軽快な響きは、まるで春風のように店内を駆け抜け、訪れる人々の心を弾ませているようだった。


すると、曲が終わり、ラジオのパーソナリティが柔らかな声で語りかけてきた。「続いては、昭和の名曲をお送りします。懐かしいあの時代の歌を、皆さんと一緒に楽しみましょう。」


流れてきたのは、千代が少女だった頃によく耳にした歌謡曲だった。少しスローテンポのメロディーが流れると、店内の雰囲気がガラリと変わった。


「懐かしいなあ、この曲。」年配の男性客が小声でつぶやくと、別のお客が「あの頃を思い出しますね」と続けた。


「私、この曲が好きで、当時よく口ずさんでいましたよ。」千代も自然と会話に加わった。


歌謡曲の流れる店内は、不思議な一体感に包まれていく。新曲が未来の風を運んでくるなら、昭和の名曲は過去の思い出を鮮やかに呼び起こす。そしてそのどちらも、ここ「花かご」で人々をつなぎ、心を温めていた。


千代はふと花束を手に取り、鼻先で香りを楽しんだ。この店は花だけでなく、ラジオを通じて時間と人々を結びつける場所になっている。新しい音楽と懐かしい響きが交差する中、千代の心には仕事への誇りと感謝が静かに満ちていった。


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